マネックスグループ株式会社
松本 大
POSTED | 2018.08.06 Mon |
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TAGS | 従業員数:501人〜1000人 業種:金融 創立:15年以上 決裁者の年齢:60代 商材:BtoC |
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数十億の上場益を手放して起業!松本氏に聞く
〜『お金の定義』『お金の呪縛』とは何か〜Topics
「お金って、なんですか?」
そう尋ねられた時、あなたならどう答えますか?
今回は、マネックスグループ株式会社で取締役会長兼代表執行役社長CEOを務める松本 大氏に『経営者 × お金』というテーマでお話を伺いました。
『お金は交換することで価値が生まれ、社会に影響を及ぼす『社会財』だと私は思っています。
若手経営者は、世の中を動かすアイディアとエネルギーを持っている。どんどんお金を働かせて、どんどん社会を動かして欲しいですね。』
マネックスグループ株式会社 取締役会長兼代表執行役社長CEO 松本 大氏のONLY STORY
【経歴】
1963年生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部を卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社に入社。その後ゴールドマン・サックス証券勤務を経て99年にマネックス証券株式会社を設立。翌年、東証マザーズ上場、後に東証一部に市場変更。現在、マネックスグループ、マネックス証券のCEOを務める。著書に「私の仕事術」(講談社)、「お金という人生の呪縛について」(幻冬舎)など。
はじめに
平野:大変お忙しい中、貴重な時間を頂きましてありがとうございます。本日は、「経営者×お金」というテーマで、20代・30代の若手経営者に向けたお話を伺えればと思っております。よろしくお願いいたします。
松本:こちらこそよろしくお願いします。気負わずに、ありのままで話しましょう。
平野:本日は、まず第1章で松本様の経歴についてお伺いし、第2章で本題の「経営者×お金」についてお伺いし、3章で「お金の未来と若手経営者へのメッセージ」についてお伺いできればと思います。
数十億の上場益が目の前に!誰もが憧れるキャリアを手放し、起業の道へ
平野:まず、起業に至った経緯について伺ってもよろしいでしょうか。
松本:私は、東大法学部からソロモン・ブラザーズ・アジア証券株式会社、ゴールドマン・サックス証券株式会社とキャリアを積み、その後マネックス証券を設立しました。
平野:松本様が最初のこの業界に足を踏みいれた当時、外資系の企業に入られていること自体異色であったかと思うのですが、そもそも外資系企業に入られたのはなぜなのでしょうか?
松本:たしかに当時、東大出身者は官僚や総合商社に就職するのが当たり前だったので、異色といえばそうだったかもしれません。
その上で私が外資を選んだ理由としては、大学時代の米国旅行での経験に影響を受けたからです。大学生の頃に米国旅行に行った際、英語が全く通じなかったことが悔しくて、その時の悔しさを忘れられなかったんですよ。
それで、シンプルに言えば「アメリカの企業に勤めたら、英語が話せるようになるだろう」と思って、外資系企業を選びました。
平野:そうだったんですね。その後、この業界を目指す人であれば誰でも一度は働いてみたいと憧れるような、ゴールドマン・サックスでのキャリアを、ある意味手放してまでマネックス証券の立ち上げに挑まれたのには、どのような理由・経緯があったのでしょうか。
松本:一言で言うと、“インターネットの大きな可能性” に気づいてしまったからですね。
前提として、1998年頃のインターネットは今のものとは全く異なるものでした。例えば、モデム回線の速度が今とは比べものにならないレベルで遅かったんですね。
そんな時にインターネットが現れて、普及し始めていって。実際にEメール1つで時間も場所も飛び越えてビジネスができるようになったりすることが、その頃の自分にとってはすごく大きな衝撃だったんです。
そこで、『インターネットと金融が大きな流れを作るに違いない。』と確信し、インターネットと私が関わってきた金融を掛け合わせるような形で、オンラインで投資や証券取引を行うマネックス証券を設立しました。
平野:そういった経緯と確信のもと起業を決意されたのですね。
とはいえ、過去の記事を拝見したところ、その頃のゴールドマン・サックスは上場直前で、退職しなければ約数十億円という上場益を得られたはずの状態だったと。
それだけのお金がもらえる状況だと、一見決意も揺らいでしまう方が多いと思いますが、それでも起業の決意が揺るがなかったのは、なぜなのでしょうか?
松本:それはやはり、チャンスを逃したくなかったからですね。
先程も述べさせて頂いた通り、『インターネットと金融が大きな流れを作るに違いない!』という確信があって。これを逃して誰かに先を越されてしまうのだけは、絶対に嫌だったんです。
というのも、私自身昔から『後悔しないように、自分で考え、決断しよう』という気持ちが強かったんですよね。
だからこそ、自分でその当時頂けると言われていたお金と、そのタイミングを逃してしまったとした時に味わうであろう後悔とを天秤にかけた時、自分の中で後者に傾いたので、我が道を貫こうと思った形ですね。
平野:確かな見立てと大きな確信があったからこそ、それを逃したくないという気持ちも大きかったんですね。
『後悔しないように、自分で考え、決断するという想いが昔から強かった』ということですが、その点についてもう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?
松本:はい。ここに関しては、父の影響がもっとも大きいと思いますね。父もまた東大を出ていて講談社に勤めていたのですが、自分の頭で考えずに一方的に何かを信じて動くことをすごく嫌う人でした。
例えば私が幼稚園で悪さをした時、理由を父に聞かれて「先生がいいって言ったから」と答えたんですよね。そうしたら「お前は教師が人を殺せと言ったら殺すのか」とこっぴどく怒られましたよ。
そういう父の元で育ったので、いつの間にか自分で考え、自分の意思を貫くのは当たり前になっていました。
『お金は社会財』松本氏に聞く、お金との向き合い方
平野:1章では松本様の経歴についてお伺いさせて頂きました。この2章では、お金のプロフェッショナルである松本様に「お金との向き合い方」についてお伺いしたいと思います。
まず、松本様はそもそも『お金』というものをどのように定義されていますか?
松本:お金は交換することで価値が生まれ、社会に影響を及ぼす『社会財』だと私は思っています。お金って、持っているだけでは全く価値がなくて。
お金とサービス、お金とモノを交換することで、サービスを受けることができたり誰かにモノや体験を贈ることができる。それによって、自分や他の誰かが幸せを感じることができる。そういう風に、何かと交換する事が出来るのが本来のお金です。
そう考えると、例えば日本銀行券、いわゆるお札も、子供銀行券もおもちゃのお札も似た様な物だと思うんです。だけれども、こども銀行券は交換が出来ないので、貰っても仕方がない。
だから、結局交換しなかったら、1万円札も子供銀行券と一緒だと思いますね。
平野:普段お金を使っている中ではそこまでお金の本質的な意味について考えることはありませんでしたが、非常にわかりやすく本来のお金の在り方に気づくことができますね。ありがとうございます。
実際に松本様ご自身もお金を『社会財』と捉え、今まで交換することを意識してこられたのでしょうか?
松本:そうですね。私は昔からお金はどんどん使い、「交換」をしてきましたね。特にマネックス設立からの数年は、給料のほとんどを家賃と先輩や仲間との食事等に使っていました。
当時を振り返ると、いくら使ったかとかは全く気にしなかったですね。そこから経験を増やしていくことの方に価値を感じていたので。
平野:お金を使うこと自体ではなく、それによって得られるものに対して以前から意識を置かれていたんですね。
松本:はい。お金の価値は「いくら使うか」「いくら持っているか」ではなく「何に交換したか」ですからね。例えば同じ100万円でも無意味に使えば価値はゼロですし、自分が喜ぶことに使えればプラスになると思っています。
平野:おっしゃる通りですね。
松本:私にとっては『お金を使う(交換する)こと=自分の経験や時間を得ること』でして。どこかに行ったり、何かを食べたり、誰かに出会ったりとお金を使うことで得てきたものの全てが、今の自分を作っていると思いますよ。
平野:こうしてお話を伺っている間にも、次第に私自身のお金というものへの考え方が精査されていっている気がします。
というのも、私も含む20代・30代の経営者の中には自社のお金周りも管理している経営者が少なくないので、「お金」というものに対して様々な疑問を抱くことがあるんです。
今回は、その20代・30代の経営者様からも松本様に伺いたいことをいただいているので、ここからはその点についてもご質問をさせて頂きたいと思います。
【Q1】「若いうちにこれは経験しておけ!」ということはありますか?
松本:難しいね。どんな事にも学びはありますから。言えるとすれば、「お金をどんどん使おう」ということですかね。
平野:今の時代は「貯金が趣味・美徳」という人も多いですが、それではダメだと。
松本:いえ、貯めてもいいんです。でも、どうせ貯めるのであれば、学びのある貯め方をした方がいいと私は思います。例えば、分散投資した投資信託にドルコスト平均法とかでちょこちょこと分散投資をしてみるとか。
そうしたことをしていると「これは何で下がったんだろう。何で上がったんだろう。」と考えるようになります。そうすると、世界で今起きていることをはじめ色々な事を知れますよね。それは、銀行預金やタンス預金だけをしているとわからないものです。
平野:確かにそうですね。とはいえ、投資が怖いという人も多いように思います。
「お金が減ってしまったらイヤだな。」と。
松本:お金を失うのが怖いというのも、やはりお金の本質をしっかりと理解していないことからくるものではないでしょうか。
例えば、お金を失うことを恐れている方は「お金という存在自体が幸せをもたらしてくれる。」と思っておられるのではないかと思っています。
そう考えていると、「お金を手にしなくちゃだめだ。」「お金がなくちゃ何もできない。誰も幸せにできない。」と考えてしまう。そのような方にお会いすると、私は “お金の呪縛” にとらわれてしまっているように感じるんです。
平野:お金の呪縛…ですか。たしかにそれにとらわれてしまっている方は少なくないように感じます。
松本:そうですね。そうした不安の塊から逃れるためには、やはり稼いだお金を使うことが大切です。
お金を使っているうちに無駄に使うことが減っていき、少ない額でもより喜びや驚きを感じられるようになるはずです。つまり、お金を使うからこそ、お金の使い方が上手になっていくんです。
終いには友達やその紹介で知り合った方など、色々なネットワークなどを通して目的が達成できるようになる。そこから段々と呪縛から解かれていきますよ。
平野:お金の呪縛は恐ろしいものですが、逃れられないものではないんですね。今のお話を伺って、「お金を使うことの大切さ」もより理解できました。
松本:そもそも、お金は社会を動かす「社会財」なので積極的に働かさないと意味がないんですよ。「金は天下の回りもの」と言うでしょう。
だから、私は自分のお金は自分だけのものではないと思い、お金を積極的に使って生かすようにしているんです。
平野さんたちのような若手経営者は、世の中を動かすアイディアとエネルギーを持っている。投資も消費も含めてどんどんお金を働かせて、社会をどんどん動かしてください。
平野:ありがとうございます。
【Q2】経営者を見極める際に松本様が重視して見ているポイントはありますか?
平野:ここまで主にお金を使う事に関するお話を伺いました。次は、少し視点が変わるご質問となります。
私の周りにも非常に興味深いアイディアや事業モデルを考えている20代・30代の経営者がたくさんいます。その一方で、そのような経営者はその構想をいかにして形にするか、そのための資金や人脈をいかにして手に入れるか、常に悩んでいます。
そこでご質問として、松本様は多くの経営者と時間を共にされていると思いますが、どのようなところを見て経営者を見極めているのでしょうか。
松本:その答えは、非常にシンプルです。
「そのまま、ありのままの自分をちゃんと表現してくれるか」ですね。
それは嘘を付いて誇張したりせず、しかし逆に小さく謙遜しすぎる事もしないということです。これが結構簡単なようで難しいんですね。
やはり経営の成功・失敗、株価や企業の時価総額みたいなものは常に上がったり下がったりしますよね。そこが予測しきれないものだからこそ、核となる経営者について深く理解したいと思うのが投資をする人の気持ちであるし、そうじゃなきゃいけないと思うんです。
平野:だから、今日も最初に「ありのままで話しましょう」と言ってくださったんですね。
でも、今のお話はとても響きました…。実際に私も自身の会社、オンリーストーリーを次のフェーズへ上げていきたいと思っているんですが、一方でまだまだ何も成し遂げられていないことへの悔しさが強くありまして。
「やってやりたい!」という前向きな想いと「現状何もできていない」というもどかしさの狭間で悩むこともあって。ただその状態を伝えるのは弱みを見せる部分でもあるので、ありのままに伝えるということはまだまだ自分もできていないなと、お話をお伺いして素直に反省しました。
松本:うん。そういう風にありのまま聞かせてもらった方が、平野さんの想いや人間性がわかるから投資する判断基準になるよね。
経営はそんなに単純なものではないから、会社が最終的に成功するかどうかなんて私にはわかりません。
でも、例えば会っていて気分が良くなる人とそうでもない人が同じものを売ってきたら、気分が良くなる人から買った方が良いでしょう。そういった意味でも、交換価値を最大化するために、そのようなスタンスを私は大切にしていますね。
平野:どのような経緯から、松本様はそのようなスタンスを確立されたのでしょうか?
松本:はい。私のお話を少しさせて頂くと、実は以前ソニー株式会社でもともとCEOを務めていらっしゃった出井さんにお会いする機会がありました。その際に私からご相談させて頂いたんですが、初めてお会いした時は私もまだ20代で「こんなすごくて偉い人を相手に、どうしたらいいだろう。」と正直思ったんです。
でも、せっかく出井さんのような方が多忙な合間に会ってくださるのに、自分を本来の形と違って見せるのも失礼でしょう。
この機会をそんな無駄な時間にしてはいけないと思って、私自身のことや考えている事を、ありのまま、そのままに説明したんです。そうしたら、すごく私自身も楽でしたし、出井さん側が心を開いてくださることも感じました。
ありのまま、自分のままであることの大切さを感じましたね。
平野:ありのまま、自分のまま…。私も心に留めておきたいと思います。
お金の未来と若手経営者へのメッセージ
平野:それでは取材も終盤となってまいりましたので、ここからは「お金の未来」について伺いたいと思います。
仮想通貨の台頭もあり、お金を取り巻く環境はすごく変化をしていますよね。松本様から見て、10年前、現在、10年後とお金の流れや価値観がどう変わってきているのか、そして今後どう変わっていくのかについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
松本:確かに、この10年でお金の形は随分変わってきていますよね。支払いの手段といえば紙幣、硬貨、クレジットカードくらいだったものが、電子マネーだったり仮想通貨だったりと選択肢が非常に増えました。道具の形としては、今後10年間でもっと変わっていくでしょうね。
平野:そうですね。
松本:とはいえ、ずっとお話ししてきているように、私の定義するお金は交換することによって価値が生まれ、社会に影響を及ぼす「社会財」です。形はどうであれ、社会財としてのお金という概念はおそらく不変だと思いますよ。
というのも、お金の価値は昔も今も変わってはないと思うんです。シンプルなところで言えば、美味しい物を食べたいという欲求は不変じゃないですか。私の場合で言えば、外資で働きまくっていた時もマネックスを立ち上げた時も、そして今だって「経験を増やしたい」と思う気持ちは何一つ変わっていません。
私たちは、その欲求を満たすためにお金とサービス、お金とものを交換し、それによって喜びや経験を得ていく。そう考えると、過去も、今も、未来も、お金の価値は何一つ変わらないと思います。
平野:確かに、そうですね。
松本:ただ、社会の商品やサービスなどの価値の方は変わっていますよね。10年前と比べ、人々の選択肢がどんどん狭くなってきているのは残念だと感じます。
例えば、PB(プライベートブランド)は価格を抑えるためには必要なものかもしれませんが、コンビニで買うのが当たり前、PBを買うのが当たり前になってしまっては高揚感が得られない。お金の価値が変わらないでしょう。
平野:そんな風に考えたことはありませんでした。
松本:これでは、むしろ自分のお金の価値が減ってしまっていると言ってもいい。コンビニやPBが悪いということではなく、消費者が自分を満たせるものを選び、お金を使える社会であり続けて欲しいと思います。それが、本当のお金の価値ですから。
平野:目から鱗と言いますか、とても参考になります。
それでは、最後に若手経営者に向けてのアドバイスをいただいてもよろしいでしょうか。
松本:そうですね…。「遠くまで歩こうと思ったら、自分の足の形とサイズにあった靴を履かないと歩けないよ」ということかな。
誰かがカッコイイ靴とか大きい靴を履いていても、それはその人に合った靴なのであって、あなたには関係ない。合わない靴を無理して履いて、靴擦れしてしまったら歩けなくなってしまうしね。
自分の靴で歩き続ければ、きっと目標にたどり着けると思いますよ。
平野:ありがとうございます!
お忙しい中、貴重な機会を頂きましてどうもありがとうございました。
松本:こちらこそありがとうございました。
執筆・佐久間
編集・山崎