田口仁

商事会社のIT企画、経営企画部門に従事していましたが、経営戦略に関わる機会を増やしたいと思い戦略コンサル会社に転職しました。

2000年当時は大手企業におけるインターネットビジネス戦略策定というお題目が花盛りの時期で、さまざまな業界や事業に関する戦略策定、また、新規事業企画、マーケティング戦略などに携わりました。非常に、インターネットビジネスの大きな成長への期待が高い時代である一方で、大手企業の場合、既存事業とのカニバライズ、商流の見直し含めたオペレーションの見直しなどの課題で、なかなか新しいインターネットビジネスの成功例が生み出せないという側面もありましたね。

2002年くらいには、大手企業のインターネットビジネス花盛りの時代も峠を越えてきました。

その反面、不採算ビジネスのリストラクチャリングなどの案件が増えていく傾向がありました。

そのような背景があり、今度は自分自身でインターネット事業の企画から実施までを責任もってやれるような機会があればということで、当時200名規模くらいの中堅インターネットベンチャー企業に転職し、証券を取り扱う子会社で、ネット証券の事業に携わることとなりました。

当時、ネット証券を取り扱っている企業は既に多くあり、業界の上位5社が既に固まっている状態で、私たちは完全に後発組でした。

でも、私たちにとってはその方が都合が良かったと感じていました。

先発組が掲げている価格などを基本に、大胆な戦略が打てるからです。

私たちは、完全無料、会員制という圧倒的な価格戦略を打ち、1年経たずに上位5社に食い込むことができました。

ソフィアメディクスでは、元々は金融関係のシステム開発をやっていたのですが、ITサービスの提供者として考えると成長が鈍化していましたので、やはり社会により役に立つ会社であり続けたいという思いから、医療ITという成長産業にシフトしました。

全く新しいアイデアをゼロから提供するのではなく、先行プレーヤーがいる既存のプラットフォームを安く提供することで差別化を図る。

前職での経験は、今の事業において非常に生きていますね。

ソフィアメディクスの中心事業は、医療ITクラウドサービス「KARTE.CLINIC」です。

「あなたのカルテを命のために」というビジネスコンセプトのもと、診療予約、電子カルテ、オーダリングシステム等の医療ITシステムをクラウドサービスとして無料で提供しています。

日本の医療では、長く健康に暮らせて、かつコスト効率を高めることを目指していますが、経済状況、社会情勢を踏まえて問題なく維持、進化させていくためには、個々の情報、医療経験は大切、有効活用するべきです。

患者の診療記録は大切な個人情報ですが、同じ病気や症状に悩む他の誰かにとっては、治療法などを導き出すための大切な情報になります。

医師が書いたカルテをクラウド上で二次利用することで、医療の進化、効率化を目指すのです。

しかし、日本では全体として電子カルテは20%しか普及していません。

大きな病院電子化が進んでいますが、診療所などは未だ手書きの現状。

「紙でずっとやっているから」「導入コストが高く、維持費もかかるから」というのが大きな理由です。

そうした部分を解消するため、「KARTE.CLINIC」は、初期費用も月額利用料も無料で提供しています。

医者は電子カルテ、業務システムをクラウドから使用できます。

個人は一生涯、カルテの閲覧管理ができ、健康管理に使用できます。

カルテは医者が書き加えてくれますから、自分で入力する必要もありません。

弊社は医療データを蓄積し製薬会社に提供するなど、二次利用することで収益化ができるのです。

既に有料版の電子カルテなどを提供する会社はありますが、医療の完全無料化は、日本で初めての取り組みです。

他社には今後10年は取り組めないことですから、後発ならではのチャンスを生かして、思い切ったサービスを打ち出していくつもりです。

今後は、再生医療や、ガンや循環器系の治療といった保険外の医療サービスが広まっていくこと、また、予防医療や未病段階での適切な健康管理がより重要な時代になると考えています。

保険が適用以外の領域で、予防医療や未病段階での適切な健康管理を個々人が意識するようなサービス領域が高度に成長すると予想しています。

蓄積された診療情報や処方・処置の情報、健康診断の履歴情報などの匿名化されたビッグデータをもとに、前述したような新しい健康と医療サービスの分野の広告告知を適切に効果的に実現できるようなビジネス領域を開拓していきたいと考えています。