削減の第一歩!自社の営業費用を「5つの領域」に分解し可視化する
営業費用の削減を成功させるための最初のステップは、「何に、どれだけコストがかかっているのか」を正確に把握することです。
ここでは、複雑に見える営業費用を5つの主要な領域に分解し、自社のコスト構造を「可視化」するためのフレームワークを提示します。
まずは、自社の現状を正しく診断することから始めましょう。
① 人件費(給与・賞与・インセン-ティブ、採用・教育費)
営業費用の中で最も大きな割合を占めるのが、営業担当者の給与や賞与、成果に応じたインセンティブといった「人件費」です。
また、新たな人材を採用するための費用や、入社後の研修費用といった「採用・教育費」もここに含みます。
この領域は、営業担当者の生活やモチベーションに直結するため、削減には最も慎重な判断が求められます。
しかし、非効率な業務プロセスによって発生している無駄な残業代を削減したり、育成の仕組みを改善して早期離職を防いだりすることで、最適化の余地は十分にあります。
② 移動・滞在費(交通費、ガソリン代、宿泊費、出張手当)
特に、フィールドセールス(訪問営業)が中心の企業において、大きな割合を占めるのがこの「移動・滞在費」です。
顧客先へ訪問するための電車代やタクシー代、社用車のガソリン代、遠隔地へ出張する際の宿泊費や日当などが含まれます。
かつては「営業とは足で稼ぐもの」と考えられてきましたが、テクノロジーの進化により、この領域は最も削減効果を出しやすい項目の一つとなりました。
オンライン商談の活用や、効率的な訪問ルートの設計など、劇的なコスト削減を実現する具体的な手法が数多く存在します。
③ 接待・交際費(会食費、贈答品費、慶弔費)
顧客との良好な関係を築き、維持するために支出されるのが「接待・交際費」です。
具体的には、顧客との会食費用や、お中元・お歳暮といった贈答品の購入費用、取引先の冠婚葬祭に伴う慶弔費などがこれにあたります。
日本のビジネス慣習上、一定の交際費は必要不可欠なものと考えられていますが、一方で「昔からの慣例で続けているだけ」といった、投資対効果の低い支出が潜んでいる可能性も高い領域です。
全ての交際費を聖域とせず、その支出が本当に将来の売上に繋がるのかを客観的に評価する視点が求められます。
④ 販促・広告宣伝費(リード獲得コスト、資料作成費、出展費)
新たな見込み客(リード)を獲得し、商談機会を創出するために投資されるのが「販促・広告宣-伝費」です。
Web広告の出稿費用や、展示会への出展費用、営業が使用するパンフレットや提案資料の印刷・デザイン費用などが含まれます。
この領域の費用は、将来の売上を作るための「攻めの投資」であるため、無差別に削減すると、かえって業績を悪化させる危険性があります。
重要なのは、各施策の費用対効果(ROI)を正確に測定し、効果の低い施策への投資を減らし、効果の高い施策へと予算を再配分する「最適化」の発想です。
⑤ その他経費(通信費、ツール利用料、オフィス賃料)
上記の4つに加え、営業活動には様々な経費が付随します。
例えば、営業担当者が使用する携帯電話の通信費や、SFA/CRMといったITツールの月額利用料、営業部門が使用するオフィスの賃料や光熱費などがこれにあたります。
一つ一つの金額は小さくても、積み重なると大きなコストになります。
特に、SFA/CRMなどのツールは、導入したものの十分に活用できていない場合、単なる固定費となってしまいます。
ペーパーレス化による通信・郵送費の削減など、業務プロセスの見直しによって削減できる項目が多く含まれています。
【領域別】生産性を下げずに営業費用を削減する10の具体的メソッド
自社のコスト構造を可視化できたら、いよいよ具体的な削減策の実行です。
ここでは、先に分解した領域別に、営業の生産性を落とすことなく、むしろ向上させながらコストを最適化するための10の具体的な方法をご紹介します。
[移動・滞在費] を劇的に削減する方法
① インサイドセールスの導入・強化
インサイドセールスとは、電話やメール、Web会議システムなどを活用し、社内から非訪問で行う営業活動のことです。
顧客先へ訪問しないため、交通費や移動時間といったコストが完全にゼロになります。
特に、見込み客の育成(ナーチャリング)や、確度の低い顧客への初期アプローチをインサイドセールスが担当し、確度が高まった案件のみをフィールドセールスが訪問するという分業体制を築くことで、組織全体の生産性とコスト効率を劇的に向上させることが可能です。
② オンライン商談ツールの全面活用
ZoomやGoogle Meetといったオンライン商談ツールを全面的に活用することで、移動・滞在費を大幅に削減できます。
これまで、遠隔地の顧客へのアプローチには、高額な交通費と宿泊費、そして丸一日以上の移動時間が必要でした。
しかし、オンライン商談であれば、コストゼロで、かつ1日に複数社の遠隔地の顧客と商談することも可能です。
ツールの導入・運用コストはかかりますが、出張費の削減効果を考えれば、費用対効果は絶大です。
移動時間が削減されることで、営業担当者はより多くの商談や提案準備に時間を使えるようになります。
③ SFA/CRMを活用した訪問スケジュールの最適化
フィールドセールスによる訪問が不可欠な場合でも、SFA/CRMを活用することで移動コストを最適化できます。
多くのSFA/CRMには、顧客の位置情報を地図上にマッピングする機能が搭載されています。
この機能を活用し、同じエリアの顧客を同じ日にまとめて訪問するような、効率的な訪問スケジュールを組むことで、無駄な移動を減らし、交通費やガソリン代を削減できます。
また、移動時間が短縮されることで、1日あたりの訪問件数を増やすことも可能になり、生産性の向上にも繋がります。
[人件費] を最適化する方法
④ 営業プロセスの標準化と自動化
営業担当者の残業代が人件費を圧迫している場合、その原因は非効率な業務プロセスにあるかもしれません。
例えば、報告書作成や見積書作成といった定型業務に多くの時間を費やしていませんか。
SFA/CRMを導入し、営業プロセスを標準化・自動化することで、こうした非効率な業務を大幅に削減できます。
日報が自動生成されたり、過去の事例を参考に簡単に見積もりが作成できたりすれば、営業担当者は本来注力すべき顧客との対話に時間を使えるようになり、残業時間を削減しつつ、成果を向上させることが可能です。
⑤ 営業代行・アウトソーシングの活用
全ての営業活動を自社の社員で賄うのではなく、一部の業務を外部の専門家に委託する「アウトソーシング」も、人件費を最適化する上で有効な手段です。
例えば、アポイント獲得業務を営業代行会社に委託すれば、自社で専門の人材を採用・育成するコストをかけずに、質の高い商談機会を確保できます。
特に、専門性が高い領域や、一時的にリソースが不足している場合に有効です。
自社の社員はより付加価値の高いコア業務に集中させ、ノンコア業務は外部に委託するという考え方が、組織全体の生産性を高めます。
[販促・広告宣伝費] を最適化する方法
⑥ インバウンドマーケティングへのシフト
Web広告などに多額の費用を投じ続ける「アウトバウンド型」のリード獲得は、費用対効果が悪化しやすい傾向にあります。
そこで有効なのが、顧客の課題解決に役立つブログ記事やホワイトペーパーといったコンテンツを作成し、自社を見つけてもらう「インバウンドマーケティング」へのシフトです。
SEO対策によってコンテンツが検索上位に表示されれば、広告費をかけずとも、継続的に質の高いリードを獲得できる「資産」となります。
初期投資と時間はかかりますが、長期的にはCPA(顧客獲得単価)を大幅に引き下げることができます。
⑦ 紹介(リファラル)営業の仕組み化
「紹介(リファラル)」は、広告費が一切かからず、かつ成約率が非常に高い、最もCPA(顧客獲得単価)の低いリード獲得方法です。
しかし、多くの企業では、この紹介を偶発的なものとして捉え、計画的に生み出すための仕組みを持っていません。
既存顧客の満足度を高め、顧客満足度調査の際に「ご紹介いただけるお知り合いはいらっしゃいますか?」と自然にヒアリングするプロセスを組み込んだり、紹介キャンペーンを実施したりと、紹介を計画的に生み出す仕組みを構築することで、販促費をかけずに安定したリード獲得が可能になります。
⑧ MAツールによるリードナーチャリング
獲得した全てのリードに対して、営業担当者が一件一件電話をかけるのは非常に非効率です。
MA(マーケティングオートメーション)ツールを導入し、まだ購買意欲が低い「見込み客」の育成(ナーチャリング)を自動化することで、営業の無駄な工数を大幅に削減できます。
例えば、顧客の興味関心に合わせて、ステップメールを自動で配信し、特定のページを閲覧したり、資料をダウンロードしたりした、確度の高いリードだけを営業担当者に通知する、といった仕組みです。
これにより、営業は有望な見込み客にのみ集中できるようになります。
[その他経費] を削減する方法
⑨ ペーパーレス化の推進
契約書や請求書、提案資料などをいまだに紙で印刷し、郵送していませんか。
これらのペーパーレス化を推進することで、印刷代、紙代、インク代、郵送費、さらには書類を保管するためのスペースコストまで、様々な経費を削減できます。
近年では、法的に有効な電子契約サービスも普及しており、契約プロセス全体のスピードアップにも繋がります。
また、資料をクラウドストレージで共有すれば、営業担当者は外出先からでも常に最新の情報にアクセスでき、業務効率も向上します。
⑩ 交際費ルールの見直しとROI測定
長年の慣習で行われている接待や贈答品のやり取りは、本当にそのコストに見合った効果を生んでいるでしょうか。
全ての交際費を画一的に禁止するのは現実的ではありませんが、「一件あたりの上限金額を設定する」「新規顧客との関係構築に限定する」といった明確なルールを設けることは可能です。
さらに、SFA/CRMを活用し、どの顧客への接待が、その後の受注にどれだけ繋がったのか、その投資対効果(ROI)を測定する文化を醸成することも重要です。
感覚ではなく、データに基づいて交際費の投下を判断する視点が求められます。
営業費用削減で絶対にやってはいけない3つのNG行動
営業費用の削減は、やり方を間違えると、売上や社員のモチベーションを低下させる「諸刃の剣」にもなり得ます。
ここでは、コスト削減に取り組む際に、絶対にやってはいけない3つのNG行動を解説します。
これらの罠を避けることが、健全なコスト削減の絶対条件です。
NG①:成果に直結する「攻めの投資」を無差別に削る
コスト削減と聞いて、まず広告宣伝費や重要な顧客との会食費といった「攻めの投資」に手をつけてしまうのは、最悪の選択です。
これらの費用は、短期的なコストであると同時に、将来の売上を生み出すための重要な投資でもあります。
目先の利益を確保するために、これらの投資を一律にカットしてしまうと、新規リードの獲得が止まったり、重要顧客との関係が悪化したりと、中長期的な視点で見れば、削減したコスト以上の損害を生み出す可能性があります。
削るべきは、成果に繋がっていない「無駄」であり、未来への「投資」ではありません。
NG②:現場の意見を無視し、モチベーションを下げる
経営層や管理職がトップダウンで、一方的に経費削減ルールを現場に押し付けるのも、絶対に避けるべきです。
例えば、現場の状況を考慮せずに「タクシー利用の全面禁止」や「出張時のホテルランクの強制引き下げ」といったルールを課すと、営業担当者は「会社は自分たちのことを信頼していない」「働きにくくなった」と感じ、エンゲージメントやモチベーションが著しく低下します。
その結果、生産性が下がり、最悪の場合は優秀な人材の離職に繋がる可能性すらあります。
コスト削減は、必ず現場の意見をヒアリングし、納得感のある形で進めることが重要です。
NG③:ツール導入だけで満足し、定着化の努力を怠る
SFAやオンライン商談ツールは、営業費用を削減し、生産性を向上させるための強力な武器です。
しかし、これらのツールを導入しただけで満足し、現場の営業担当者がそれを使いこなすための研修やサポートを怠ってしまうと、全く意味がありません。
現場から「入力が面倒くさい」「使い方がわからない」といった声が上がり、結局誰も使わなくなり、高価なツールが単なるコストとして垂れ流される「形骸化」は、非常によくある失敗パターンです。
ツール導入はゴールではなく、スタート。
その価値を最大限に引き出すための、粘り強い定着化の努力が不可欠です。
営業DXで実現する「攻め」のコスト削減
営業費用の削減は、単に経費を切り詰める「守り」の発想だけでは限界があります。
真に利益体質な組織を作るためには、営業DXを推進し、生産性を飛躍的に向上させることで、結果的にコスト構造全体を変革する「攻め」の視点が不可欠です。
SFA/CRMが実現する「データドリブン営業」への変革
SFA/CRMを導入し、そこに蓄積されたデータを活用することで、営業活動は、個人の勘や経験に頼った非効率なものから、データに基づいた効率的な「データドリブン営業」へと変革します。
例えば、過去の受注案件のデータを分析すれば、「どのような業界の、どの役職者に、どのような提案をすれば最も受注しやすいか」という「勝ちパターン」が見えてきます。
これにより、見込みの薄い顧客に時間を費やすといった無駄がなくなり、営業活動全体のROIが劇的に向上します。
これが、DXがもたらす最大のコスト削減効果です。
インサイドセールスがもたらす営業スタイルの革命
インサイドセールスの導入は、単なる移動コストの削減に留まりません。
それは、営業担当者を「移動時間」や「場所」といった物理的な制約から解放し、営業スタイルそのものを革命的に変えるポテンシャルを秘めています。
訪問営業では1日に2〜3件が限界だった商談も、インサイドセールスであれば5〜6件、あるいはそれ以上こなすことが可能です。
これにより、一人の営業担当者が対応できる顧客数が飛躍的に増加し、人件費あたりの生産性が最大化されます。
優秀な人材が、地理的な制約なく全国の顧客を担当できることも、大きなメリットです。
営業費用削減に成功した企業の事例紹介
理論だけでなく、実際の成功事例を知ることで、自社での取り組みがよりイメージしやすくなるでしょう。
ここでは、営業費用の削減と生産性の向上を両立させた2社の事例を簡潔にご紹介します。
事例①:インサイドセールス導入で、地方営業所のコストを50%削減したIT企業
首都圏に本社を置くあるIT企業は、全国に複数の営業所を構えていましたが、地方営業所の維持コストが収益を圧迫していました。
そこで、思い切って地方の物理的な営業所を閉鎖し、インサイドセールス部門を本社に集約。
オンライン商談を主体とすることで、全国の顧客をカバーする体制を再構築しました。
その結果、営業所の賃料や人件費、出張費といった固定費を大幅に削減することに成功。
営業所の維持コストは、以前の50%以下に抑えられました。
事例②:SFA活用で移動ルートを最適化し、交通費と残業代を20%削減した製造業
ある機械部品メーカーの営業担当者は、日々の訪問ルートを個人の裁量で決めており、非効率な移動が常態化していました。
そこで、SFAを導入し、顧客の位置情報と案件の優先度を地図上で可視化。
マネージャーが、データに基づいて最も効率的な訪問ルートを指示する仕組みを構築しました。
その結果、無駄な移動が削減され、社用車のガソリン代や高速道路料金といった交通費を月間で20%削減。
さらに、移動時間が短縮されたことで、残業時間も大幅に減少し、人件費の削減にも繋がりました。
まとめ:営業費用削減の本質とは「生産性の向上」である
本記事では、営業費用を削減するための、多角的なアプローチを網羅的に解説してきました。
営業費用の削減は、単に経費の項目を一つ一つチェックし、切り詰めていく「節約」活動ではありません。
その本質は、業務プロセス全体を見直し、テクノロジーを積極的に活用することで、より少ない投資(インプット)で、より大きな成果(アウトプット)を生み出す、「生産性の向上」活動そのものです。
真のコスト削減とは、営業担当者のモチベーションや、未来への成長投資を犠牲にすることなく、データに基づいて活動の「無駄」をなくし、営業活動全体のROI(投資対効果)を最大化することに他なりません。
まずはこの記事で紹介した「5つの領域」を参考に、自社の営業費用を可視化し、最も削減インパクトが大きく、かつ着手しやすい項目は何かを特定することから始めてみてください。
それが、利益体質な営業組織への変革に向けた、最も重要で確実な第一歩です。