監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
お互いの強みを生かせそうですという説明だけでは、検討は前に進みません。
相手が知りたいのは、自社に何の価値があり、何を担当するのかです。
協業提案書と通常の営業資料の違い
営業資料は、自社の商品・サービスを導入する価値を伝えます。
協業提案書では、それに加えて、両社がどのように役割を持ち、誰に新しい価値を提供するかを説明します。
自社のサービス紹介だけが続き、相手の役割が「顧客を紹介すること」だけになっていると、協業という言葉でも実質は一方的な営業依頼になりがちです。
相手が参加する理由を、相手の事業に沿って書きましょう。
まだ相手を探している段階なら、協業パートナーの探し方から整理できます。
この記事は、候補企業が決まった後の提案に焦点を当てます。
書き始める前に決める3つのこと

協業提案書は、書き始める前に考えを整理しておくと、相手が判断しやすい内容になります。
ここでは、誰のどの課題を解決するのか、なぜその企業と組む必要があるのか、初回面談で何を決めたいのかという3つのことを説明します。
誰のどの課題を解決するのか
「販路を広げたい」は自社の目的であり、共同で取り組む顧客課題とは別です。
「既存顧客から運用まで含めた支援を求められているが、単独では対応できない」のように、顧客の困りごとから考えます。
相手の顧客課題をまだ確認していない場合は、「当社の仮説」と明記します。
公開情報を読んだだけで「御社の課題はこれです」と断定しないことが大切です。
なぜその企業と組む必要があるのか
相手の専門知識、提供体制、対応地域など、自社にない強みを具体化します。
相手の資源を無料で使える前提にせず、必要な負担と見返りを一緒に整理してください。
初回面談で何を決めたいのか
最初の目的は、契約の締結に限りません。
顧客課題の認識が合うかを確認する、実務担当者を交えた次回面談を決める、小規模な試行の設計に進むなど、現実的な到達点を置きます。
協業提案書の構成と記入例
書き始める前に決めることが整理できたら、提案書の骨組みを作ります。
ここでは、初回面談用の協業提案書に入れる7項目を表で整理し、その構成に沿った一枚の記入例を紹介します。
記入例は架空の企業を想定したものなので、自社の状況に合わせて内容を置き換えてください。
初回面談用の協業提案書に入れる7項目
プロジェクト提案では、目的、予算、日程などを明確にすることが基本です。
Asanaも、提案書を関係者が計画を判断するための資料と位置付けています。
以下は、その考え方を踏まえて本記事で整理した、協業面談向けの構成案です。
| 項目 | 書く内容 | 面談で確認すること |
|---|---|---|
| 1.提案の要点 | 誰に何を届ける協業かを一文で | 相手も検討する意味を感じるか |
| 2.顧客課題 | 確認済みの事実と仮説を分ける | 相手の顧客にも同じ課題があるか |
| 3.共同で提供する価値 | 単独の場合と何が変わるか | 追加の価値が顧客に伝わるか |
| 4.両社の役割 | 営業、提供、運用、問い合わせ窓口 | 担当できない範囲はないか |
| 5.費用と利益の考え方 | 費用負担や収益配分の論点 | 詳細検討に必要な条件は何か |
| 6.小規模な検証案 | 対象、期間、成果物、評価方法 | 実行できる範囲に収まるか |
| 7.次に決めること | 宿題、担当、次回の目的 | 誰がいつまでに確認するか |
初回から全項目を確定できなくても問題ありません。
「未確認」「当社案」「面談で相談」と分ければ、合意済みの条件と混同せずに議論できます。
そのまま骨組みに使える一枚の記入例
以下は、業務整理を得意とするA社と、システム構築を得意とするB社が協業を検討する架空例です。
実際の企業や成果を示すものではありません。
提案の要点:業務整理とシステム構築を組み合わせ、顧客が要件を決められず導入を止めている状態を減らす。
対象顧客と課題:業務改善の必要性はあるが、現状の業務と必要な機能を整理できていない企業。
対象業種や規模は面談で絞る。
A社の役割案:現行業務のヒアリング、課題の整理、要件候補の作成。
システムの機能や納期の確約は担当しない。
B社の役割案:技術的な実現性の確認、構築範囲の検討、概算条件の整理。
顧客の社内調整は別途相談する。
両社のメリット仮説:A社は整理した課題を実装へつなげやすくなる。
B社は要件が曖昧な状態で見積もりを繰り返す負担を減らせる可能性がある。
最初の検証案:顧客の了承が得られた1案件で、共同ヒアリングと要件整理まで試す。
期間は4週間をたたき台とし、両社の稼働を確認して決める。
評価方法:必須要件と未決事項を整理できたか、担当の重複や抜けがないか、実際の工数が想定範囲に収まったかを確認する。
売上目標とは分けて評価する。
次回までの確認事項:両社の窓口、検証に使える時間、費用負担、顧客との説明方法を持ち寄る。
この段階で「双方の売上が必ず増える」と書く必要はありません。
メリットは仮説として示し、何を確かめれば協業を進められるかを明らかにします。
相手のメリットを伝えるときの注意点
協業提案では、相手にとってのメリットの伝え方によって、検討の進みやすさが変わります。
ここでは、売上の話だけにしないこと、顧客の購入意思を勝手に織り込まないこと、相手の担当者が社内説明できる形にすることの3点を解説します。
売上の話だけにしない
相手にとっては、提案の幅が広がる、対応できなかった相談を受けられる、社内の確認負担が減るといった価値もあります。
一方で、研修や連携、顧客対応の手間が増える可能性もあります。
利益だけでなく負担を並べると、条件を調整しやすくなります。
顧客の購入意思を勝手に織り込まない
「当社の顧客に提案できる」と「当社の顧客が購入する」は別です。
顧客数をそのまま見込み売上に置き換えず、対象となる顧客、案内できる条件、関心を確認する方法を整理しましょう。
相手の担当者が社内説明できる形にする
面談相手だけが理解できても、関係部署が判断できなければ検討は止まります。
なぜ組むのか、何を試すのか、必要な稼働はどれくらいかを、一枚目で説明できる構成にします。
合意の前後で確認すること
提案書の内容に関心を持ってもらえても、実行前の取り決めや面談後の整理が抜けると、検討が止まりやすくなります。
ここでは、合意前に抜けやすい実務の論点と、面談後に提案書を合意内容へ更新する方法を説明します。
合意前に抜けやすい実務の論点
提案書だけで取り決めを済ませようとせず、実行前に確認すべき項目を一覧にしておきます。
たとえば、顧客窓口、費用負担、成果物の扱い、共有情報の範囲、問い合わせ対応、検証後に終了する条件などです。
契約の条項を自己流で確定するのではなく、具体的な取り決めは両社の担当部署で確認します。
初回の資料では、機密性の高い顧客名やデータがなくても検討できるよう、匿名化した課題や業務の概要を使いましょう。
面談後は提案書を合意内容に更新する
面談が終わったら、相手の反応を踏まえて、合意したこと・持ち帰ったこと・見送ったことを分けて記録します。
自社案のままの条件を、相手も承認した内容に変えてはいけません。
次回面談には、未決事項の確認に必要な担当者へ参加を依頼します。
資料のページを増やすより、判断できていない点を一つずつ解消するほうが、検討を進めやすくなります。
提携の形に合わせて提案の中心を変える
協業という言葉には、紹介、共同提案、共同でのサービス提供など、異なる形が含まれます。
どの形を想定しているかを曖昧にしたまま面談すると、自社は紹介を期待し、相手は共同開発を考えていたというずれが起こりかねません。
紹介を中心にする場合
提案書では、紹介してほしい顧客の条件と、紹介後の対応を中心に説明します。
紹介を受けた後に誰が最初に連絡し、どの範囲まで結果を報告するかも確認事項にします。
紹介先の情報を共有する前には、紹介元と紹介先の意向を確かめる流れが必要です。
相手の顧客リストを自由に利用できる前提で提案を作らないようにしましょう。
最初は、双方が了承した一つの相談を扱う形なら、連携時の負担や認識の違いを確認しやすくなります。
共同提案を中心にする場合
どちらが顧客の窓口を担当し、提案内容や見積もりをどうまとめるかが重要になります。
両社が別々の説明をすると、顧客がどちらへ確認すべきか分からなくなるためです。
提案前の情報共有、顧客面談への参加者、質問への回答担当を整理します。
どちらか一方では回答できない質問を受けたときに、その場で約束せず持ち帰る手順も決めておくと、実現できない内容を提案するリスクを抑えられます。
共同で提供・運用する場合
受注前の役割だけでなく、受注後の作業、確認、問い合わせ対応まで見通す必要があります。
「販売はできたが、どちらが対応するのか決まっていない」という事態を避けるためです。
初期の提案書には、役割分担の完成版ではなくても、少なくとも未決の業務を列挙します。
担当の境界で止まりやすい工程ほど、想定する問い合わせや例外対応を一つ挙げておくと、面談で議論しやすくなります。
負担とメリットを並べて確認する表
双方のメリットを書いても、誰がどれだけの時間を使うかが見えなければ判断できません。
提案書には、価値の説明とは別に、負担の見取り図を置きます。
以下は実績を示すものではなく、記入項目の例です。
| 確認する軸 | 自社が記入すること | 相手と相談すること |
|---|---|---|
| 初期の準備 | 説明資料、担当者、必要な学習時間 | 相手側の参加者と準備事項 |
| 提案時の稼働 | 顧客面談、見積もり、社内確認 | 同席の範囲と回答の分担 |
| 提供時の稼働 | 自社が担当できる工程 | 担当が未定の工程 |
| 費用負担 | 自社で持つ費用と上限の案 | 共同負担や別途協議が必要な費用 |
| 得られる価値 | 提案機会、対応範囲、顧客への価値 | 相手が重視する価値と測り方 |
金額や配分をまだ決められない場合も、何を決める必要があるかは書けます。
「条件は別途相談」の一言で済ませず、顧客への請求、両社間の精算、追加作業の扱いなど、議論する単位まで分けておきましょう。
小規模な検証で何を確かめるか
協業の試行を「まず一緒にやってみる」だけで始めると、終わった後に評価が分かれます。
検証の前に、問い、範囲、終わり方を決めます。
検証する問いを一つか二つに絞る
たとえば「共同で説明すると顧客が提案内容を理解しやすくなるか」「両社の役割に重複がないか」といった問いです。
顧客数が少ない段階で、将来の売上全体まで結論を出そうとしないようにします。
一つの試行で商談が進んだとしても、協業そのものが理由だったとは限りません。
相手の検討時期や、すでにあった信頼関係が影響した可能性もあります。
分かったことと、まだ検証できていないことを分けて記録してください。
成果物を目に見える形で決める
「理解を深める」だけでは終わりを判断できません。
共同ヒアリングの記録、要件整理表、顧客から受けた質問の一覧、次の提案に必要な条件など、検証後に残るものを決めます。
成果物は、担当者が替わったときの引き継ぎにも使えます。
作成の責任者を置き、双方が確認するタイミングも予定に含めましょう。
続ける条件と見直す条件を置く
試行が終わったら、そのまま継続するとは限りません。
顧客への価値は確認できたが工数が重すぎるなら、役割や対象顧客を見直す必要があります。
共同で対応するより一方から紹介する形がよければ、協業の方式を変える選択肢もあります。
最初に「試行後に両社で継続可否を判断する」と共有しておけば、終了や変更を失敗扱いせずに話しやすくなります。
継続そのものを目的にせず、顧客と両社にとって意味があるかを確認します。
初回面談の進め方と見直し方
提案書を用意したら、初回面談でどう使うか、うまく進まないときにどこを見直すかも考えておきます。
ここでは、相手が考えを補える時間を作る面談の進行例と、提案書が通りにくいときの状況別の見直し方を紹介します。
初回面談の進め方の例
提案書の順に一方的に説明するより、相手が考えを補える時間を作ります。
次の流れは面談の進行案です。
所要時間や順序は、相手の事情に合わせて調整します。
最初に、今日確認したいことを共有します。
「共同提案の可能性があるかを伺い、検証案を作るための論点を整理したい」と伝えれば、契約の即答を求めていないことが分かります。
次に、自社が把握している顧客課題を説明し、相手にも似た相談があるかを聞きます。
自社の仮説と違った場合は、用意した提案へ無理に話を戻さず、どの部分が違うかを確認してください。
そのうえで共同価値と役割の案を示します。
相手が担えない作業や、想定していなかった負担を聞き、最初の提案を調整します。
最後に、両社の持ち帰り事項と次に会う目的を確認します。
面談直後には、相手が述べた内容と自社の解釈を区別してメモに残します。
発言の一部を拡大して、「協業に全面合意した」と報告しないことも重要です。
提案書が通りにくいときの見直し方
「面白そう」で止まる場合は、相手の優先課題と、次に必要な行動が明確かを確認します。
関心があることと、稼働を割けることは別です。
今すぐ進める条件がないなら、いつ何を確認できれば再検討するかを相談します。
実務担当者から難色を示された場合は、現場の負担を省いていなかったかを見直します。
経営者同士の方向性が一致していても、提供体制が整わなければ実行できません。
範囲を小さくする、作業を分けるなど、負担への対応を考えます。
資料の追加を求められ続ける場合は、何の判断のために必要なのかを確かめます。
判断者と論点が分からないままページを増やすと、資料は厚くなっても検討は前進しません。
必要な情報と、現在は決めなくてよい情報を切り分けましょう。
協業候補との接点づくりから見直すなら
提案書はあるものの、話したい企業や事業責任者と会う機会が少ない場合は、候補の条件と接点の作り方を見直します。
オンリーストーリーでは、決裁者同士のマッチングや提携先探しにつながるサービスを案内しています。
利用目的や対象条件を確認し、自社が探している協業相手と接点を持てるかを検討してください。
出会う機会を得た後は、双方の目的と実行体制をすり合わせる必要があります。
まとめ
協業提案書では、自社紹介よりも「共同で解く課題」「双方の役割」「最初に試す範囲」を明確にします。
仮説と合意事項を分け、小規模な検証と次の確認事項まで示すことで、相手が判断しやすい提案になります。
よくある質問
Q. 協業提案書と営業資料はどう違いますか
A. 営業資料は自社サービスを導入する価値を伝えます。
協業提案書は、両社がどう役割を分け、誰に新しい価値を届けるかまで説明します。
営業資料をそのまま流用すると自社の説明が中心になりやすいため、相手企業の立場から見た内容に組み直しましょう。
Q. 初回面談では何を決めればよいですか
A. 契約の締結に限りません。
顧客課題の認識が合うかの確認、実務担当者を交えた次回面談、小規模な検証の設計などが現実的な到達点です。
到達点を事前に共有しておくと、面談の時間を有効に使え、次の打ち合わせにもつなげやすくなります。
Q. 相手のメリットはどう書けばよいですか
A. 売上だけでなく、提案の幅が広がる、対応できなかった相談を受けられるといった価値も挙げます。
研修や連携の手間が増える点も併記します。
負担も含めて示すことで、相手が社内で協業を検討する際の判断材料になります。
Q. 検証はどのくらいの規模で始めますか
A. 確かめたい問いを一つか二つに絞ります。
成果物と、続ける条件・見直す条件を先に決めておくと、終了後の評価が分かれません。
期間や対象を小さく区切ると、両社の負担を抑えながら協業の効果を確かめられます。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。

