最終更新日: 2023.11.07

KPIとは、最終目標であるKGIを達成するためにやるべきことを数値化した、中間目標のことです。新規事業立ち上げ時は、KPIを設定すべきです。やるべきことが明確化して進捗管理に役立つほか、モチベーションや生産性アップにもつながるためです。しかし、むやみに目標を設定すると問題点や課題が見えづらく、成果創出に向けたPDCAを回せなくなります。

今回は、新規事業立ち上げ時に設定するKPIについて、KGIとの違いやKPIを設定するメリット、設定方法などを解説します。効果的なKPI設定に使えるモデルやフレームワークも紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

新規事業の目標管理に役立つKPIとは

新規事業を立ち上げる際、目標管理や目標に対する進捗を把握するためには、KPIを設定するのが効果的です。

KPI(Key Performance Indicator)とは、最終的な目標を達成するためのプロセスにおいて設定する、中間的な指標のことです。日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれます。

以下では、新規事業として人材クラウドサービスを提供した際の、KPIの設定例を紹介します。

※単価は5万円とします。

<KGI>

初年度売上高600万円(受注数:120件)

<KPI>

見込み顧客数:初年度1,500件/1ヶ月あたり125件

案件化率:40% 

受注率:20% 

このようにKPIを設定することで、売上目標を達成するためには、見込み顧客をどのくらい獲得すべきなのか、そのうち何%を案件化し、さらに受注につなげるべきなのか、やるべきことが詳しく見えてきます。

新規事業が順調に進んでいるか、進捗も確認しやすく、目標を実現するために改善すべき業務も明らかになるでしょう。

KPIとKGIの違い

KPIと混同しやすいのがKGIです。

KGI(Key Goal Indicator)は、最終目標を指標化したものであり、日本語では「重要目標達成指標」と訳されます。

KGIとKPIの違いは、以下のように整理できます。

説明
KGI達成すべき最終目標を指標化したもの1ヶ月の成約数10件
KPIKGIを達成するためにやるべきことを数値化した指標1ヶ月のアポイント獲得数200件1ヶ月の商談化数100件

KPIとKSFの違い

KSFについても正しく理解しましょう。

KSF(Key Success Factor)は、KGIを達成するために重要なプロセスのことです。日本語では重要成功要因と呼ばれます。

「1ヶ月の成約数10件」というKGIを設定した場合、KSFとしては「新規顧客とのアポイントを多く獲得する」「サービスに興味を持ってもらい、商談につなげる」などが考えられます。このKSFそれぞれに対して、「アポイント獲得数200件」「商談化数100件」のように、KPIを設定しましょう。

新規事業立ち上げ時にKPIを設定する6つのメリット

ここでは、新規事業立ち上げ時にKPIを設定するメリットを6つ紹介します。

  • 新規事業の目標を達成するためにやるべきことが明確化する
  • 業務に優先順位をつけやすくなる
  • 組織のモチベーションが高まる
  • メンバーを公平に評価できるようになる
  • PDCAを回しやすくなる
  • 事業の撤退を判断しやすくなる

新規事業の目標を達成するためにやるべきことが明確化する

KPIを設定する大きなメリットは、新規事業の目標を達成するために、やるべきことが明確化する点です。

「売上1億円」のような目標を立てても、具体的に何をすべきかわからない状態では意味がないでしょう。

KPIによって実行すべきアクションが明らかになることで、スムーズに行動に移せるようになります。

業務に優先順位をつけやすくなる

KPIを設定することで、目標達成のためには特に何を重視すればよいかがわかり、業務に優先順位をつけやすくなります。

新規事業立ち上げ時は、顧客の開拓や、商品・サービスのプロモーション、人材のアサインなど、やるべきことが非常に多いのが特徴です。KPIを設定して、目標へのインパクトが大きいものからこなしていくことで、生産性アップが期待できます。

組織のモチベーションが高まる

KPIを設定することで、メンバー全員がやるべきことを具体的に理解できるようになり、モチベーションアップにつながるのもメリットです。

KGIのみを設定しても、目標が大きすぎるあまり、達成に向けて着実に進んでいる実感を得るのが困難でしょう。目標達成のために何から始めるべきなのかもわからず、モチベーション低下につながります。

KPIによって組織の方向性や具体的なアクションが明確化し、組織のパフォーマンス向上も期待できます。

メンバーを公平に評価できるようになる

KPIは、公平な人事評価にも役立ちます。KPIをもとに個人目標を立ててもらい、その達成度合いを評価基準とすることで、個人の成果を定量データで客観的に評価できるためです。

さらに、組織内で評価基準を統一できるため、評価者に左右されることなく、公平な評価ができるようになります。

また、短期的な成果には表れにくい行動や能力についても評価できるのがメリットです。

例えば、見込み顧客からの問い合わせに丁寧に対応していた社員がいたとします。見込み顧客を育成するには時間がかかるため、売上というわかりやすい成果をすぐに出せない可能性があります。だからといって、見込み顧客への対応は重要性が低い、というわけではありません。売上のようなKGIのみを評価基準としていると、こういった社員を評価できなくなってしまいます。

「問い合わせへの返信率」や「問い合わせに対する顧客満足度」などのKPIをもとに評価基準を定めることで、メンバーの行動量や成果に向けたプロセスなども適切に評価できるようになります。

PDCAサイクルを回しやすくなる

KPIを設定することで、PDCAサイクルを回しやすくなるのもメリットです。

KGIのみを設定し、それがが達成できていない場合、何が原因であり、どの業務を改善すべきかを分析するのは困難です。

KPIの達成率を分析することで、業務の課題や改善点が明らかになります。PDCAサイクルを回しやすくなり、新規事業をよりスピーディーに軌道に乗せられるでしょう。

事業の撤退を判断しやすくなる

新規事業がうまくいかず、事業の撤退を判断する際も、KPIが役立ちます。

新規事業が不発で採算が取れず、いつまでも撤退するか継続するかを決めかねてしまうと、経営資源が無駄になってしまいます。しかし、撤退の判断は容易ではありません。

「このKPIを◯ヶ月以内に達成できなかったら撤退する」「KPI達成率が30%を切ったら撤退する」というように、撤退ラインを決めておくことで、撤退の意思決定をスピーディーに行えるでしょう。

新規事業においてKPIを設定する流れ

ここでは、新規事業においてKPIを設定する流れを3ステップで紹介します。

  1. ゴールとなるKGIを設定する
  2. ゴールからやるべきことを逆算する
  3. KPIを設定する

1.ゴールとなるKGIを設定する

まずは、最終目標であるKGIを設定しましょう。

ゴールが曖昧なままでは、新規事業を成功させるための具体的なアクションが見えてきません。取り組みは合っているのか、事業が軌道に乗る見込みはあるのかなどがわからないまま動き出してしまう、という事態にもつながります。

新規事業で設定されるKGIの例

新規事業で設定されることが多いのは、以下のようなKGIです。

  • 事業を黒字化して軌道に乗せる
  • 初年度に会員登録数1,000人を突破する
  • 立ち上げから半年で成約数50をクリアする

新規事業立ち上げ時は、事業を黒字化させることをKGIに設定するケースが多く見られます。黒字化を掲げる場合は、そのために必要な売上高や利益率などを導き出せるよう、損益分岐点を算出しましょう。

編集部のおすすめポイント

達成可能なKGIを設定するためには、日本政策金融公庫が公表している、「小企業の経営指標調査」が参考になります。業種別に、利益率や従業者1人あたり売上高などのさまざまな経営指標について、平均値や中央値が掲載されています。KGIを決めたら、大きな乖離がないかをチェックしましょう。

参考:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」

2.ゴールからやるべきことを逆算する

ゴールが定まったら、現状とのギャップを把握し、ゴールから逆算してやるべきことを明らかにしましょう。

例えば、KGIとして「初年度の会員登録数1,000人」を掲げたとします。まずは、現在の会員登録数を把握し、目標との差分を把握しましょう。1ヶ月経過時点での会員登録数が100人である場合、残り11ヶ月で新たに900人の会員を獲得しなければなりません。そのためには、1ヶ月あたり80〜90人を目安に、会員登録につなげることが必要です。

会員登録を促すためには、実店舗での呼びかけだけでなく、会員登録でお得になるキャンペーンを打ち出したり、会員限定の特典を用意したりする方法が考えられます。

このように、ゴールからやるべきことを逆算して考え、KGI達成に向けたプロセスを検討しましょう。

このとき、KGIに影響しないプロセスや行動は省くことが大切です。KPIが増えすぎたり、意味のないKPIを設定して無駄が生じたりするリスクを防ぐためです。

3.KPIを設定する

ゴールまでのプロセスや行動を明らかにしたら、その中でも特に注力すべきものや、自社でコントロールできる要素をピックアップしましょう。そして、それぞれに対して期限と数値目標を立て、KPIを設定します。

このとき、結果を定量的に把握できる項目について、数値目標を設定することが重要です。新規事業を立ち上げた当初は、KPIの達成に想定よりも時間がかかるケースが少なくありません。定量的なKPIであれば、どの施策を改善すべきか、追加でどのくらいリソースを割くべきか、などが明確化し、目標達成に近づけます。

新規事業で設定されるKPIの例

新規事業で設定されるKPIの例は、以下の通りです。

顧客関連・顧客獲得数・顧客維持率・顧客満足度・顧客1人あたりの平均購入額
財務関連・売上高・利益率・損益分岐点・投資対効果・顧客生涯価値
運営・品質管理関連・リードタイム・生産性・不良品発生率・クレーム件数
組織関連・従業員満足度・研修受講率・特許取得数

新規事業のKPI設定に使えるSMARTモデル

効果的なKPIを設定する際は、SMARTモデルを活用しましょう。

SMARTモデルとは、目標設定のために意識すべき5つの要素のことです。

  • 明確性(Specific)
  • 計測可能性(Measurable)
  • 現実性(Achievable)
  • 関連性(Relevant)
  • 適時性(Time-bound)

S(Specific):明確性

Sは明確性を表します。

目標に具体性がなければ、どのようなアクションをとればよいかがわかりません。具体的で明確なKPIを設定し、目標達成に向けてやるべき道筋を明らかにすることが大切です。

明確なKPIであれば、メンバー間でKPIに対する解釈がずれてしまうリスクも防げます。

M(Measurable):計測可能性

Mは計測可能性、つまりKPIの達成度合いを定量的に測定できるかです。

KPIに数値が含まれていれば、達成度合いを計測しやすくなり、目標に向けて何をすればよいか、どこに改善を加えればよいかなどがわかります。

計測可能なKPIを設定することで、KGIの達成により近づくでしょう。

A(Achievable):現実性

Aは現実性、つまり達成可能であるかです。

達成できる見込みがないKPIを設定しても、モチベーションが上がらず、メンバーに過度なストレスがかかってしまうでしょう。

チャレンジングでありながら達成可能性があるKPIを設定し、メンバー全員が目標達成に向けて前向きに取り組めるようにする必要があります

また、市場変化に左右されない、自社でコントロールできる目標を設定することも欠かせません。

R(Relevant):関連性

Rは関連性、つまり最終目標とKPIに関連性があるかです。

自身が達成しようと取り組んでいるKPIが、最終的にどのような目標を達成するためのものか理解できることが大切です。日々の仕事が目標達成のために必要であることを実感でき、目的意識やモチベーションを持って仕事に取り組めるでしょう。

T(Time-bound):適時性

Tは適時性、つまり期限が定められているかです。

KPIにそれぞれ期限を決めることで、後回しにすることなく取り組めます。期限が迫っているものから優先順位をつけて取り組めるため、業務効率アップも期待できるでしょう。

新規事業においてKPIを設定する際の注意点

以下では、新規事業の目標管理のためにKPIを設定する際の注意点を3つ紹介します。

  • KGIと整合性があるKPIを設定する
  • KPIの数を増やしすぎない
  • KPIを達成するプロセスだけに注力しない

KGIと整合性があるKPIを設定する

KGIと整合性があるKPIを設定しなければ、たとえKPIを達成できたとしても、肝心な最終目標であるKGIの達成は困難です。

KGIからKPIを設定する際は、論理が通っているかを重視しましょう。その際は、KPIツリーを用いるのがおすすめです。

KPIツリーとは、最終目標をツリー状に分解し、目標のために達成すべきKPIを論理的に導き出すフレームワークです。KPIツリーを活用して、KGIと整合性のあるKPIを特定しましょう。

KPIの数を増やしすぎない

KPIを設定する際は、KPIを増やしすぎないよう注意が必要です。

KPIが多いと、やるべきことが複雑になりすぎて本質的な業務に注力できなくなります。メンバーの目標達成意欲が下がってしまうリスクもあります。また、数字にとらわれすぎて、KPIを設定する本来の目的を見失ってしまう可能性も否定できません。

KPIを達成するプロセスだけに注力しない

KPIの達成は重要ですが、KPIを達成するためのプロセスだけに注力しないようにすることも大切です。

例えば、新規事業の顧客開拓において、架電数をKPIに設定したとします。このとき、架電数をアップさせるためにコールシステムを導入することが効果的です。しかし、システムを導入することだけに力を入れるのは本末転倒です。

システムの導入やマニュアルの作成、記録の集計といった業務に注力しすぎるあまり、KPIを達成することへの意識が薄れないよう、注意しましょう。

新規事業のKPIについてよくある質問

最後に、新規事業のKPIについてよくある質問を2つ紹介します。

Q.KPIを数値化できない時はどうする?

A.KPIを数値化できない時は、KPIの達成に必要な具体的な行動や、目標達成後に生じる変化に注目するのが効果的です。

KPIは数値化することが望ましいです。しかし、数値化が難しい定性的な項目について目標を決めたいこともあるでしょう。

例えば、「サービスの質の高さ」を数値化することは困難です。そこで、サービスの品質向上を実現するために必要な行動として、「品質チェック業務にあたる人員の強化」に注目しましょう。人員の増加数や研修の受講率などについて、定量的なKPIを設定できます。

また、サービスの品質向上を達成した後に考えられる「クレーム数の減少」に注目し、クレーム数の減少率についてKPIを設定するのも1つの方法です。

Q.KPIマネジメントとは?

A.KPIマネジメントとは、KPIを設定した後、KPIを使って目標達成するまでのプロセスを管理することです。KPIを活用して新規事業を推進するためには、KPIマネジメントを徹底することが欠かせません。

KPIマネジメントには、営業活動に関するさまざまなデータを蓄積できるSFAツールを用いるのがおすすめです。SFAツールなら、営業組織全体や営業担当者ごとの行動量・成果も可視化できるため、振り返りや改善、評価に活かせます。

まとめ:新規事業立ち上げ時はKPIを設定しよう

新規事業におけるKPIについてまとめると、以下の通りです。

  • KPIはゴールを達成するためにやるべき中間目標、KGIはゴールとなる最終目標
  • 新規事業立ち上げ時は、KGIだけでなくKPIも設定しよう
  • KPIによって、目標に向けてやるべきことが明確化する
  • 組織のモチベーションアップや生産性アップなどにもつながる
  • KGIを達成するために必要な行動についてKPIを定めることが大切
  • 効果的なKPIを設定するためには、SMARTモデルやKPIツリーを用いるとよい

新規事業立ち上げ時は、KPIを設定して、適切な目標管理や進捗把握につなげましょう。その際は、むやみにKPIを設定するのではなく、明確性・計測可能性・現実性・関連性・適時性の5つの要素を満たすことを意識してください。

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