新規事業を立ち上げることで、企業の収益力アップや人材育成・採用強化が見込まれます。しかし、新規事業を成功させることは困難であり、撤退に追い込まれた経験がある方もいるでしょう。
今回は、企業が新規事業の立ち上げに成功するための方法を、プロセスごとに解説します。新規事業に成功する企業の特徴や成功事例も紹介しているため、多角化を進めたい方はぜひ参考にしてください。
新規事業を立ち上げることで、企業の収益力アップや人材育成・採用強化が見込まれます。しかし、新規事業を成功させることは困難であり、撤退に追い込まれた経験がある方もいるでしょう。
今回は、企業が新規事業の立ち上げに成功するための方法を、プロセスごとに解説します。新規事業に成功する企業の特徴や成功事例も紹介しているため、多角化を進めたい方はぜひ参考にしてください。
まずは、企業が新規事業を立ち上げる重要性について解説します。
新規事業を立ち上げて黒字化に成功すれば、収益の柱を増やせます。収益の柱が増えることで、企業の収益がさらに増加し、既存事業や新規事業により投資できるようになるでしょう。
また、新規事業を立ち上げることで事業を多角化でき、1つの事業に依存する状態から抜け出せるのもメリットです。経営が傾くリスクの軽減につながります。市場ニーズや新技術が激しく移り変わり、ビジネス環境の不確実性が高い現代を生き抜くためには、収益の柱を複数持つことが大切です。
新規事業の立ち上げは、経営人材を育成する機会にもなります。新規事業の責任者に将来の経営者候補をアサインし、経営に必要なスキルや実務経験を身につけてもらいましょう。
企業を長く存続・発展させるためには、自社の将来を担う経営人材の育成に計画的に取り組むことが必要です。
新規事業を積極的に立ち上げているという事実が、採用候補者にとって魅力的に映り、優秀な人材を集めやすくなるという効果も期待できます。
新規事業に積極的な企業は、若いうちからスキルを身につけて成長したいと考えている、優秀な人材から選ばれやすいでしょう。
企業が新規事業に参入する方法としては大きく以下の2つがあります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、どちらを使って参入するか、慎重に判断しましょう。
1つ目は、自社でゼロから立ち上げる方法です。アイデア出しやリサーチ、事業計画の策定などを、すべて自社で行います。
アイデアを自由に形にでき、自由度高く運営できるのが魅力です。また、アイデア出しや経営資源の確保など、新規事業において必要なすべてのステップを従業員に経験してもらえるため、経営人材の育成にもつながります。
一方、事業が軌道に乗るまで時間がかかる点や、多くの経営資源を確保しなければならない点には注意が必要です。
2つ目は、M&Aで会社や事業を買収し、新規事業に参入するという方法です。
買収対象の会社や事業がすでに保有している経営資源を活用して参入できるため、時間を大幅に削減できます。人材やノウハウ、取引先などを引き継げるため、事業基盤が構築された段階からスタートできるのです。会社や事業によっては、すでに利益が出ているケースもあります。
競合が多く、莫大な初期投資が必要な製造業などにも、M&Aを活用することで参入しやすくなるでしょう。
一方、期待していたシナジー効果が得られず、M&Aにかかった投資に見合う成果が出ない場合もあります。
M&A成立後に、売り手の簿外債務が発覚したり、偶発債務が発生したりするリスクには注意が必要です。さらに、M&Aに反発した従業員が離反してしまう恐れもあるため、M&Aの相手選びと統合プロセスを慎重に進めることが欠かせません。
ここでは、企業が新規事業を立ち上げるためのプロセスを順番に説明します。
まずは、新規事業の理念やビジョン、立ち上げる目的などを明確化しましょう。事業を進める上での指針となるためです。
具体的には、新規事業を通じて社会のどのような課題を解決したいのか、顧客にどのように貢献したいのかなどを明らかにします。
方向性が定まらないまま事業を始めると、目先の利益のみを追い求めて、短絡的な視点に陥ってしまいがちです。
事業が思うように進まない場合も、理念やビジョンに立ち返ることで、やるべきことが見えてくるでしょう。
また、有意義で魅力的な理念やビジョンを掲げることで、新規事業に携わるメンバーのモチベーションアップにもつながります。
新規事業のアイデアを出すためには、顧客や社会が抱えている課題を特定しましょう。課題を解決できる商品やサービスはニーズがあり、顧客の支持を得やすいためです。
新規事業のアイデアには、以下の3つの要素が求められます。
要素 | 概要 |
解決性 | 顧客の悩みや課題を解決し、価値を提供できるか |
新規性 | アイデアとして目新しさがあるか |
収益性 | マネタイズできるか |
アイデアを事業として成り立たせるためには、この3つの要素を満たしているかをチェックしましょう。
事業のアイデアをブラッシュアップするために、市場調査や競合分析を行います。アンケートやインタビュー、街頭調査などを行ってデータを集めましょう。具体的に誰がターゲットになりうるのか、どのようなニーズに対応する事業を展開すべきなのか、何が障害になりそうかなどを明らかにしてください。
また、その市場におけるプレイヤーや、自社がシェアを獲得できる可能性、競合と差別化するための施策などを検討できるよう、競合分析も必要です。
アイデアを事業として成り立たせるために、ビジネスモデルを検討し、マネタイズ方法を考えましょう。
ビジネスモデルとは、企業が事業を通じて収益を得るための仕組みです。ビジネスモデルには、以下のような種類があります。
ビジネスモデル | マネタイズ方法 |
販売モデル | 商品を作って販売し、収益を得る |
小売モデル | 商品を仕入れて消費者に提供し、収益を得る |
消耗品モデル | 消耗品を販売し、継続的な購入により収益を得る |
広告モデル | 広告枠を販売して収益を得る |
ライセンスモデル | 商標や知財などを利用する権利を販売し、収益を得る |
コンサルティングモデル | ある分野の専門知識やスキルを活かしてコンサルティングを行い、収益を得る |
サブスクリプションモデル | サービスを利用する権利を販売し、収益を得る |
マッチングモデル | 顧客同士をマッチングし、紹介料として収益を得る |
エージェンシーモデル | 他社の業務を代行し、収益を得る |
ビジネスモデルを考えて事業の全体像が決まったら、具体的な事業計画を策定します。
事業計画とは、事業の目標や方針、事業内容、具体的な戦略、収支計画などをまとめた行動計画のことです。事業を推進する前に事業計画を整理し、見通しを立てましょう。
事業計画を立てることで、ローンチ後に事業が順調に進んでいるか、進捗を把握できます。また、事業計画をまとめた事業計画書は、金融機関から融資を受ける際や、補助金・助成金を申請する際などに、提出が必要です。
事業計画をもとに、どのような人材を何人配置するかを考え、適切な人材をアサインします。
新規事業は難易度が高いため、特に適性がある人材を配置することが重要です。新規事業に向いているのは、以下のような人材です。
このようなスキルを全て併せ持っている人材を見つけるのは困難でしょう。そのため、人材確保はチーム単位で考え、メンバー同士で新規事業に必要なスキルを補完しあえるチームを作ることが効果的です。
ここでは、新規事業の立ち上げに成功する企業の特徴を紹介します。新規事業を推進する際は、当てはまっているかチェックしましょう。
新規事業の立ち上げに成功している企業は、ターゲットを明確化し、ニッチな市場を見つけ出しているのが特徴です。
ターゲットを広くとると、競合が多い市場になってしまいます。年代や性別、職業、ライフスタイルなど、さまざまな観点からターゲットを絞ることで、ニッチな市場が浮かび上がり、競合が少ない状態で新規事業を立ち上げられるでしょう。
また、ターゲットを明確化することで、効果的で具体的なマーケティングやプロモーション戦略を考えられるようになります。
新規事業立ち上げ後は、常に市場の反応をチェックし、改善することが大切です。
時代の変化とともに、消費者のニーズも変化します。リリース時は需要があったサービスが、代替技術の登場やライフスタイルの変化などにより、需要が低迷するケースは珍しくありません。
長く支持される商品やサービスを展開するためには、市場のニーズを把握し、それを適宜反映させる姿勢が求められます。
新規事業に成功している企業は、人材の採用や育成に積極的な傾向にあります。
良い人材が揃えば、その分新規事業が成功する確率は高まります。業務委託という形で外部のプロの力を借りることも選択肢に入れ、人材確保に注力することが大切です。
特に、社内の人材育成は、新規事業の成功や将来的な企業の成長のために欠かせません。新規事業を進める上で必要な人材要件を明らかにし、従業員が必要なスキルや資質を身につけられるような教育プログラムを検討しましょう。
新規事業を立ち上げた当初や、アイデア出しに行き詰まっている時は、成功している企業の事例を参考にするのがおすすめです。
ここでは、新規事業の立ち上げに成功した企業事例を4つ紹介します。
富士フイルムは、主力のフィルム事業から化粧品事業へと大きく舵を切り、成功した企業です。
富士フイルムの主力事業であったフィルムは、2000年以降、デジタル化の影響でニーズが減少し、縮小していました。そこで、富士フイルムは全社的な構造改革に乗り出し、新規事業として化粧品領域に参入しました。
化粧品事業と写真フィルム事業は、一見関連性がないように思えるでしょう。しかし、フィルムの主原料がコラーゲンであることや、インクジェットペーパーの酸化防止剤がアンチエイジング化粧品に応用できるなど、実は技術面で親和性が高かったのです。
富士フイルムは、フィルム事業で培った技術を活かし、高品質な化粧品開発に成功します。「アスタリフト」は、スキンケアやアンチエイジングケアを重視する消費者からの支持を集め、化粧品事業は新たな収益の柱となりました。
アスタリフトが差別化に成功した要因としては、「富士フイルムだからできること」にこだわった点が挙げられます。
化粧品ブランドとしての価値やデザイン性にこだわるのではなく、高い技術力を持つ富士フイルムだからこそ、機能価値を高めることに重点を置きました。その結果、「富士フイルムの化粧品なら肌の悩みを根本から解決してくれるだろう」「富士フイルムの化粧品だからこそ買おう」というユーザーが増え、アスタリフトは成功したと考えられます。
新規事業というと、その市場ですでに成功しているプレイヤーの模倣で終わってしまうケースも見られます。競合を参考にすることも大切ですが、「自社だからこそ提供できる価値は何か」を中心に考える姿勢を忘れてはなりません。
自動車メーカーのホンダは、航空事業に参入して「ホンダジェット」を開発し、成功をおさめた企業です。
ホンダジェットの大きな特徴は、ホンダ独自のエンジン配置です。通常の小型ジェット機は、エンジンが胴体に取り付けられています。しかし、ホンダジェットのエンジンは、胴体から離れた主翼上面に配置されているのがポイントです。これにより、騒音と振動の軽減や燃費性能の向上、速度アップなどを実現しました。
エンジンを胴体に取り付けないという大胆な発想によって、競合との差別化を実現し、利用者のニーズに合うジェット機の開発に成功したのです。結果、2017年から5年連続で、小型ジェット機トップの納入台数を達成しています。
ホンダジェットが成功した要因の1つに、開発拠点を日本ではなくアメリカに設けたことが挙げられます。
小型ジェット機の主要マーケットはアメリカです。「マーケットに近いところでないとニーズに合った製品を開発・生産できない」という考えのもと、ホンダはアメリカに拠点を設けました。
実際にアメリカで開発を進め、広大な土地をジェット機で移動することで、どのくらいの航続距離や速度が必要か、といったニーズが手に取るようにわかったそうです。その結果、市場に求められるジェット機の開発を成功させました。
このことから、市場のニーズを把握する際は、実際に現地に足を運んで生の情報を収集することが重要であることがわかるでしょう。
日本郵政と物流系ITベンチャーのYper株式会社は、再配達率を改善するソリューションとして「OKIPPA」サービスを開発しました。
OKIPPAでは、専用の置き配バッグを自宅玄関前に設置することで、在不在にかかわらず、自宅玄関前で荷物を受け取れるサービスです。玄関前に手軽に置ける宅配ボックス、と考えるとわかりやすいでしょう。
日本郵便から届く配達物について、宅配ボックスでの受け取りを希望する場合は、通常エリア担当の郵便局に「指定場所配達に関する依頼書」を提出する必要があります。しかし、OKIPPAのバッグを利用する場合は、郵便局への申請が不要です。また、配送状況は専用アプリで管理できます。
ECサイトを利用して物を購入する人が増えた昨今、再配達は、物流業におけるドライバーの長時間労働の要因として問題視されています。OKIPPAは、消費者にとって利便性が高い点だけでなく、物流業界の課題を解決するソリューションとしても高く評価されているサービスです。
OKIPPAは、盗難リスクにも万全に対応しているのがポイントです。置き配というと、ユーザーにとっては盗難リスクがネックと言えます。
OKIPPAには、専用ロックと防犯ファスナー、内鍵として南京錠が付属しています。また、バッグ預け入れ中の商品について、「OKIPPA盗難保険」を付保できます。
新規サービスを開発する際は、ユーザーから寄せられると予測できる不安を事前に洗い出しましょう。対策を徹底してからリリースすることで、ユーザーからの信頼を獲得できます。
自動車メーカーのダイハツは、通所介護(デイサービス)事業者に向けて、利用者の送迎支援サービス「らくぴた送迎」をリリースしました。
デイサービスの送迎では、交通状況によっては時間通りに利用者の自宅を巡回できない、という課題を抱えていました。
「らくぴた送迎」は、利用者のリストと車両情報を事前に登録することで、送迎前に最適なルートを自動表示してくれます。また、施設とドライバー間の連携も可能で、キャンセルが出た場合はすぐにドライバーに知らせられます。
他にも、相性が悪い利用者同士が同乗するとお知らせしてくれたり、利用者の自宅に到着する前に、自動電話で利用者に知らせられたりなど、利用者にも配慮したきめ細やかな機能が搭載されているのが魅力です。
競合が多い自動車業界で、介護事業者向けの送迎支援システムというニッチな市場に目をつけ、成功した事例です。
参考:ダイハツ工業株式会社「送迎支援システム らくぴた送迎」
ダイハツは、もともと軽福祉車両で高いシェアを誇っていました。その実績を活かし、全国3万施設の声を聞いて開発したのが、「らくぴた送迎」です。
現場の声を聞き、課題を正しく理解した上で開発に取り組んだからこそ、現場で本当に使える機能を搭載したサービスが実現したのでしょう。
最後に、企業の新規事業についてよくある質問を4つ紹介します。
A.新規事業のアイデアを出すコツは、質より量を重視することと、既存の事業やアイデアをベースに考えることです。
アイデア出しの段階から、事業として成り立つか、競合と差別化できるかなどを考えてしまうと、アイデアを出すのが難しくなってしまいます。まずは多くのアイデアを出すことを意識し、その後に選別したり、ブラッシュアップしたりして、アイデアを事業にしていきましょう。
また、既存の事業やアイデアをベースに、新たな要素を付け加えたり、組み合わせたりすることも効果的です。全く新しいアイデアを出そうとするとハードルが上がってしまいます。既存の事業やアイデアをもとに考えることで、より多くのアイデアにつながります。
A.新規事業の黒字化にかかる期間の目安は、3〜5年ほどです。もちろん、事業内容や規模によって異なりますが、黒字化にはある程度の時間がかかることを踏まえて、事業計画や資金計画を立てなければなりません。
特に、途中で資金がショートしてしまうリスクを防ぐために、資金繰りには注意が必要です。3〜5年は赤字でも事業を続けられるよう、十分な資金を確保した上で、新規事業に挑戦しましょう。
A.社内ベンチャーを設置することで、既存事業にとらわれることなく、新規事業にチャレンジできる環境を整えられるのがメリットです。
社内ベンチャーとは、新規事業を推進するために企業に設置される、独立した組織のことです。社内ベンチャーで新規事業を立ち上げることで、既存事業の影響を受けることなく、スピード感を持って新規事業に取り組めます。
また、従業員主導で事業を進められるため、従業員のモチベーションアップや、社内起業家の育成にもつながります。
A.新規事業からの撤退を決める際は、以下のような基準で判断するとよいでしょう。
撤退判断が遅れると、負債が拡大し、さらに大きな損失を被うリスクがあります。経営資源も無駄になってしまいます。
事前に事業を撤退する基準を決めておき、スピーディーに判断できるようにすることが大切です。
企業が新規事業を立ち上げる際のポイントは、以下の通りです。
新規事業を立ち上げることで、収益の柱が増え、企業のさらなる成長やリスクヘッジにつながります。
新規事業に成功するためには、自社だからこそ価値を発揮できる領域を見つけ、市場のニーズに応えられる商品やサービスを展開することが大切です。そのためには、ターゲットの明確化や市場ニーズの把握が欠かせません。さらに、新規事業に求められる人材要件を整理し、人材採用や育成も進めましょう。
新規事業を軌道に乗せるためには、いかに顧客を開拓できるかも重要です。新規顧客を効率よく開拓するためには、決裁者マッチングサービスの活用がおすすめです。「チラCEO」なら、オンライン上で気になる経営者とマッチングし、直接アプローチできます。興味のある方は、以下よりお問合せください。