有限会社川留

川口 賢一郎

佃煮の認知度を高め、伝統の味と日本の食文化を守る

隠れた名産「あさりの串焼き」に販路拡大のチャンス
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かつては家庭の食卓に欠かせない一品であった佃煮。今回は、その伝統を守り、再び佃煮へ目を向けてもらおうと、総合食品卸売から佃煮専門販売へと舵を切った有限会社川留の代表取締役・川口氏に、佃煮への想いを語っていただきました。

有限会社川留 代表取締役 川口 賢一郎氏のONLY STORY


【経歴】

1975年生まれ、千葉県浦安市出身。明海大学経済学部経済学科卒業。
   
小学生の頃より学校が休みの時は家業を手伝い「商売に対する姿勢」を祖父(初代)や父(二代目)から学ぶ。
学校卒業後は母親からの勧めで就職活動を行い他社(アミューズメント業)に就職。その後、コーヒーショップのストアマネージャー、不動産仲介の店舗責任者、賃貸物件のリフォームプランナーを経て、2007年から現職に従事。2011年の父の死去を機に代表取締役に就任。
「総合食品卸売」から「佃煮専門販売」に切り替え、祖父の代から数十年続けている「佃煮類委託製造」の拡充を図る。
現在は「フードビジネスマネジメント事業」を立ち上げ、生産者(川上)から消費者(川下)までの間にある「生産と食」の問題点に対してソリューションを提案し、「埋没している逸品」の再生事業をビジネスパートナーと共に手がけている。

佃煮の伝統を守り、食卓へのせるべく佃煮専門店に特化

–有限会社川留の事業内容をお聞かせください。
川口氏:催事場での小売り、飲食店や小売店への卸業を基本とした佃煮の専門販売で、売り上げはBtoBが8割、BtoC2割といったところです。仕入れは先々代から付き合いがあり、信頼の置ける築地、豊洲の業者からで、値段も安く手に入ります。
–佃煮はどういった層に向けた商品でしょうか。
川口氏:ターゲット以前に、まず佃煮の販売店が少ないため佃煮の認知度は低く、これを高めなければ佃煮の未来はないと考えています。

昔は商店街の総菜屋には必ず佃煮が並んでいたものですが、その商店街がなくなり、スーパーに並んではいるものの力を入れた販売とは言えないのが現状です。
売れない商品が淘汰されるのは当然で、白米の消費量の減少や、手作り総菜の量り売りがシェアを拡大するのと相まって、佃煮の販売面積は減り続けていますから、認知度の上がりようがありません。

また、佃煮は家庭の食卓から、100g数百円もする贈答用商品に変わりつつあって、これも消費量の減少につながっています。
–では、認知度を上げるにはどうすれば良いとお考えでしょうか。
川口氏:物産展や展示会といったイベントを企画して、佃煮の商品やルーツをはじめ、簡単なレシピ、リメイクレシピなども紹介しています。また、佃煮専門のブログも立ち上げて、広く佃煮を知ってもらう努力をしています。
–御社の持つ強みはどういったところにあるのでしょうか。
川口氏:当社は元々、佃煮だけではなく、いろいろな食品を取り扱う卸売販売でした。佃煮屋は自分のところで製造し、店頭で販売するという形が多いんですが、当社は問屋だったのでいろいろな製造業者と付き合いがあったことから、ひとつの味にこだわらず、多彩な味の商品を扱えるところが強みだと思います。
元来、佃煮は保存食の意味合いが強いために塩辛く、それが嫌われる原因にもなっていましたが、当社はお客さまの好みに合う味を提案できるので、「川留の佃煮はおいしい」とか「佃煮を見直した」という声をよくいただいています。こうした形で佃煮に特化した店は他にないと思います。

–もともとは総合食品卸売だったと伺いましたが、佃煮専門販売に舵をきったのにはどのような理由があったのでしょうか。

川口氏:創業から約70年が経ち、環境はずいぶんと変わり、ヒト・モノ・カネ・情報があふれていて、「商品サイクル」がとてつもない早さで回転しています。ブームが去る速度が増し、世の中には「消え去った商品」がごまんとあります。

それとは逆に何十年、何百年と伝統や文化を継承していきながら、今でも商品として生きながらえているものもあります。

当社はその生きながらえている数少ない商品の中から、初代である祖父が繋がりのあるメーカーと提携して自社商品として佃煮を販売していた実績と、それによってスムーズに導入できることから佃煮の専門性を高めることに決めました。

父の急逝、引き継ぎなしの継承で苦難の日々


–事業の継承に至るきっかけは何だったのでしょうか。
川口氏:父の急死によって会社を継いだことになります。私は長男なのでいずれ自分が継ぐだろうという思いもありましたが、母親は収益や将来の不安から継承には猛反対で、父も自分の代で終わらせるつもりだったようで、大学卒業後はサラリーマンをしていました。
サラリーマンとしては、実績を重ねて表彰されるほどでしたが、激務がたたり10年目にパニック障害になり、それを見かねた父の勧めで、父の会社へ入社することになりました。

しかし、その3年後に父が急逝し、取締役として会社を継承することになります。東日本大震災の2か月後、ちょうど8年前です。
–突然の継承だったわけですが、その後の状況はどうでしたか。
川口氏:戦後すぐに祖父が立ち上げた個人商店なので、引き継ぎという概念はなく、祖父が亡くなって父が継いだときも、わからないことだらけだったようで、築地の取引先の場所も、祖父に連れられてよく行った私が教えたくらいです。

昔気質の商売人は何でも自分で抱え込むので、子どもでも知らされていないことが多かったようです。
急死でもあり、私も父から取引先や経営の詳細を聞かされていなかったので、最初の数年は何をやっていたのかまるで覚えていないくらい毎日が無我夢中でした。父がアナログ人間だったため、紙の伝票や帳簿を毎晩PCにデータベース化していました。

朝になって日々の営業が始まれば、従業員やパートに指示も出さなければならず、自分の指示が果たして正しいのか、そんな疑心暗鬼で明け暮れた営業でしたね。それでも、この時期があったからこそ、弊社の企業理念の作成や会社としての再編が出来たのだと思います。
–事業を継がれて以後、うれしかったことや、つらかったことは何でしょうか。
川口氏:こういう商売ですから、目の前で「おいしい」と言ってもらえることが一番うれしいです。
つらいことはたくさんありましたが、やはり父が亡くなり、継いだ直後が一番つらかったと思います。父とお付き合いのあった人でも、みんなが善意をそのまま引き継いで私に接してくれるとは限りませんでしたので…。
もうひとつ、つらい思い出としては、浦安にあった組合の解散に先立ち、そこの店を引き払う際、長年勤めてくれた従業員の人たちに辞めてもらうことでした。年配の人が多くて気持ちよく受け入れてもらえましたが、やはりつらかったこととして思い出します。

川留の5つの理念が伝統の食文化を守る

–今後の短期的、長期的な目標をお伺いします。
川口氏:今は父のころからのお付き合いで、月間1トンもの納品となることもありますが、今後は「あさりの串焼き」をメインにして売り込もうと考えていて、2年以内に月間100kgの販売を目標にしています。

これは地元の名産なんですが、意外に知られていないので、BtoCの販路拡大も含め、チャンスはかなりあると期待しています。
今はまだ父の顔と川留の看板で売れている部分も大きいので、これからは自分が名実ともに川留の顔と認められ、どこの食卓にも並ぶような存在の佃煮にしたいですね。
–では、川留の顔とも言うべき企業理念をお聞かせください。
川口氏: 祖父の個人商店から始まった川留ですから、企業理念どうこうといった考えもなく、父も同様だったので、川留を継承する際に、私なりに5つの理念を考えました。
(1)お客さまに対して、商品を通じて満足、感動、喜びを提供し続けます
(2)また利用して、また食べたいと思ってもらう工夫をします
(3)日本の食文化をあらゆる形で発信し、その伝統を継承します
(4)柔軟な思考と勇気ある決断を基礎とします
(5)事業を通じて人と社会の輪を広げ、社会に貢献します
(1)(2)は祖父も父も常々言っていたことですが、それだけでは多くの会社に埋もれてしまうので、川留が生き残るために、独自の色をどう出すかを考えた行動指針が(3)(4)(5)です。

伝統の食文化を大事にし、売れる商品に目を奪われずに自分の専門性を高めて、意義あるフードビジネスに取り組もうということです。
–そのフードビジネスについて詳しくお聞きしたいのですが。
川口氏:伝統を守り、あるいはおいしさを追求して一生懸命に作ったものでも、商品サイクルの早い現代では、売れ行き優先のあまり、消えてしまう商品が無数にあります。それが食品の原材料を生産する農家や漁業者の生活に影響して、今度は原材料がないといった悪循環を生みます。

こうした食に関するあらゆる課題解決のために、志を一にする人たちと協力したいと考え、「埋没しそうな逸品」を販売できるまでに再生させることを目標にしたフードビジネスマネジメント業を今年から立ち上げました。

–最後に読者の方へ一言お願いします。

川口氏:家族の食事を作っている方、一人暮らしで自分で食事を作る方、食に関わる仕事に携わっている方など、必ずみなさん食事をとっているはずです。

私たちは本当に美味しい佃煮を販売していますし、それがみなさんの食卓にのることを願っています。ぜひ一度ご賞味ください。
執筆=増田
校正=勝野

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