株式会社寿美れ

和田 健資

国籍・性・年代を超えて愛される創業78年老舗旅館

逆境を越え、付加価値追求の先に誕生した貸切風呂
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日本政府観光局(JNTO)の調査によれば、日本を訪れる外国人旅行者は2018年に3,000万人を突破。訪日旅行者は中長期休暇をとり、北から南まで、日本を広く旅する。

訪日旅行者の増加に伴い、全国でこれまで国内にはなかったニーズ・対応が生まれ、観光地ではその対応が求められている。

そのような中、山口県下関のとある貸切風呂、旅館が訪日旅行者に親しまれていると聞いた。


「割烹旅館寿美礼(以下、寿美礼)」


創業78年目の寿美礼の経営を20年前から継承した和田 健資氏に伺うと、近年のインバウンド需要や老舗旅館の生存戦略、下関という土地のポテンシャルが見えてきた。

外国人旅行者の急増により多様化するニーズに応える


ー和田様が下関で旅館経営を継承されてから20年以上。下関の観光・旅行業に変化を感じる場面はありましたか?

和田氏:この20年だけでも、大きな変化がありましたね。

もともと、寿美礼は私の祖母が始めた旅館です。祖父が木材問屋を営んでいて、職人さんたちを住まわせていて、その延長で旅館を始めました。父が後を継いでからは、漁港が近くて新鮮な魚が手に入ることから料理を主とする割烹旅館に切り替え、私が跡をついでからは観光旅館にシフト。

今では、寿美礼には年間7,000名のお客様がお越しになります。そのうちの1割が外国人旅行者。下関が国の指定港にも選ばれていて大型外国クルーズ船が就航していることもあり、年間10万人のペースで外国人旅行者が増加しています。


ー日本人旅行者と、外国人旅行者はどのような違いがありますか?

和田氏:国によって違いますが、食事習慣(文化)の違いは大きいです。たとえば、中国では「冷製の料理は邪気を入れ込むから温めたほうがいい」という考えがあったり、中東の方は豚肉を食べられないので、ヴィーガンやハラールなどの対応も必要だったりします。しかし、実は和食はそれらの条件をクリアしやすいんですよね。だから和食を好む海外の人が多いのだと思います。

また、タトゥーを入れている外国人旅行者が日本旅行に来た時に困るのは、大衆浴場に入れないこと。外国人にとってのタトゥーは「信条や大切な想いを刻む」という概念があるのですが、日本人からみると「入れ墨」と混同されてしまうことがあり、タトゥーが入っている人の入浴を断る施設が多いイメージです。

その点、寿美礼にもある貸切風呂であれば、タトゥーの入った外国人旅行者にも気軽にお風呂を楽しんでもらえます。

LGBT、訪日旅行者、家族が集まれる貸切風呂


ー外国人旅行者に喜ばれる割烹旅館寿美礼の貸切風呂。その特徴と魅力について詳しく教えてください。

和田氏:私が代を継承してからは、『寿美礼にしかない付加価値の提供』を目指してきました。ご利用いただいている貸切風呂は、その戦略の1つ。関東にも貸切風呂がある宿は多いと思いますが、『寿美礼に行かないと入れないお風呂』であることにこだわっています。

ー割烹旅館寿美礼の貸切風呂でなければ体験できないこととは、どのようなものがありますか?

和田氏:実は、私の兄が日本アカデミー賞の音楽賞を受賞したことのある作曲家・和田薫なんです。そこで、まず兄の作品を見聞きできる空間を作りました。


さらに、寿美礼に夜遅くに到着するお客様は町の様子を知りません。そこで、お風呂の壁全面に下関の代表的な景色の写真を展開しています。たとえば、世界で死ぬまでに行きたいランクに入っている角島[※1](つのしま)、夏の「関門海峡花火大会」[※2]など。

こうしたコンセプトに興味をもってくださるお客様が増え、今では多くのお客様が貸切風呂を目当てにいらっしゃいます。

[※1]…「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」(2013年7月)内の「Facebookページで56万人のファンがいいね!した絶景ランキング」で3位、旅行サイト「トリップアドバイザー」の2015年「口コミで選ぶ日本の橋ランキング」で1位となり、TVCMやドラマなどさまざまなメディアでも使用された、絶景スポット。

[※2]…巌流島が浮かぶ関門海峡をはさんで開催される光の祭典 夏の夜空を彩る「関門海峡花火大会」は、関門海峡に面する山口県下関市と福岡県北九州市門司区のまちづくり団体が合同で開催する、日本でも有数の規模を誇る花火大会。



ー貸切風呂を作る際に、ほかに配慮された点はありますか?

和田氏:貸切風呂がある建物は別棟なので、ご家族で心置きなくくつろいでいただけます。そして、お子さんが寝転がってもいいように、5つあるお風呂の1つには床を畳にしているお風呂もあります。また、宿泊していないお客様も利用できるように、日帰りで貸切風呂と料理を楽しめるようなプランも。

ー利用者からは、どんな反応がありますか?

和田氏:ご家族連れのお客様には、「子どもが他人に迷惑をかけないかを気にしなくていいのがうれしい」という声をいただいています。また、各お風呂ごとにテーマ曲が流れ、アニメや日本の童謡などは海外の方にも好評で、「このお風呂に入りたくて来た」という方もいるほど。

新しい発見だったのが、LGBT[※3](性同一性障害など)の方に感謝されたという事です。容姿と内面の性別が違うLGBTの方にとっては、大衆浴場に入ることはとても苦痛です。でも、貸切風呂ならゆっくりくつろげるというお話も聞きました。

また、乳がんなど体に手術痕がある方にも、貸切風呂なら人目を気にしなくていいと好評です。私の友人に乳がんの手術を経験した人がいるのですが、手術痕を他人に見られるのがいやだと思う方は多いようです。

[※3]… Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつ。

下関の観光業を創りあげた官民一体の組織づくり


ー割烹旅館寿美礼を1つの起点に、さまざまな観光客が下関を訪れていますね。もともと、下関には今と同じくらい観光客が訪れていたのでしょうか。

和田氏:いえ、転機となったのは平成12年。この年は、東京での10年間の修行期間を経て帰郷した年でもあります。

下関に戻って感じたのは、観光業は存在しているものの横での情報連携がなく、一体感がないことでした。そこで市全体の観光情報を共有する目的で、官民一体の観光組織の立上げを市長に提案。はじめは難色を示す人も多かったのですが、一人ひとりと対話をして実現にこぎつけました。


一般企業であれば、本業がありながらこうしたことに多くの時間を投資することはとがめられる可能性もありますが、私は旅館の主。私の仕事はたった1年終わるわけではなく、この旅館を営んでいるからにはこれから先何年、何十年も続きます。そう考えると、先も見据えた時間の使い方が必要ですし、逆に今日、明日すぐに結果が出なくても、1年後、数年後、その後に結果が出ればいいんです。

そのような気持ちで一歩一歩前に進んできた結果、組織の発足1年目には下関の旅行者数は260万人から360万人へと増加。ばらばらだった観光情報・資源の交通整理をして、ほしいところに訴求できるような仕組みに変えていった末に、現在では旅行者数700万人となり、この20年で観光業は下関の基幹産業として定着しました。

寿美礼も私が跡を継いでから20年。創業から数えると78年目になりますが、今は年間7,000名のお客様が来られていて、クチコミなどでも一定の評価をいただけるようになってきました。

ー発足1年目で観光客が100万人増え、さらにその後も増え続けて現在700万人。そうした下関の発展に合わせるようにして、旅館業も成長されているわけですね。

大きな結果が出ていますが、やはりもともと勝機があったうえでの挑戦だったのでしょうか?

和田氏:実は、平成12年に組織を立ち上げた際に明確な勝機が3つあったんです。

1つは、その年は下関を舞台にした「武蔵」という宮本武蔵をモデルにした大河ドラマの放映。宮本武蔵といえば巌流島の戦いが有名ですが、その巌流島は下関にあります。2つめは、山口県で「きらら博」という万博、北九州市では「北九州博覧祭」という地方博覧会が予定され、両方が同時期に開催されていたこと。最後に、全国的に人気のある水族館「海響館」、今や観光施設としても評判がある唐戸市場がリニューアルオープンするというタイミングでもあり、例年以上に集客できたという点。

絶好のタイミングで官民一体の組織を作れたからこそ、初年度から結果を出せたのだと思います。

ー勝機があったとはいえ、ここまでの道のりは簡単なものではなかったと思います。ここまで和田様が下関の観光事業の発展に力を注ぐ理由は何かあるのでしょうか。

和田氏:実は、寿美礼の立地が大きく関係しています。下関駅から徒歩3分とアクセスはとてもいいのですが、長い歴史の中でいつの間にか周囲が歓楽街になってしまったんです。旅館の立地としては最悪の状況といってもいいかもしれない。歓楽街となってしまっては観光客が近づきにくくなりますからね。

それでも、私が諦められなかった。そして、考えました。この状況でもお客様に足を運んでいただくためにはどうすればいいのか、と。その結果いくつかの結論が、まずは下関を旅行客で溢れるような地域にすること。

極端ではありますが、旅行客が溢れるほど来れば、立地関係なくうちの旅館にもお客様が立ち寄ってくださるでしょう。

ーそのような想いが和田様を突き動かしているんですね。逆境に負けない発想の転換。

和田氏:こうした逆境を乗り越えるという姿勢は、東京で働いていた際、経営の師である(パソナ創業者)南部靖之氏から学んだ事で今の仕事に活かされています。

さらに資金や実績がまだない中でもアイデアや人脈で勝負したり、タフなメンタルをもっていたりするベンチャー企業の経営者たちも目の当たりにしてきましたからね。心が折れそうなときには、その経営者たちの姿を思い出すと負けていられないな奮い立たされます。


「下関には寿美礼があるじゃないか」といわれる存在を目指して


ーここまでお話を伺っていて、和田様のお人柄、想い、そして旅館の魅力が伝わってまいりました。

和田氏:それは大変ありがたいのですが、最もおもしろいのは「下関」という場所。下関という場所の可能性でいえば、伸びしろしかないと思っているんです。

どのような伸びしろから話せばいいかいいか迷うくらいあるんですが、まずは、交通の利便性のよさ。空路では、山口宇部空港、北九州空港、福岡空港の3つの空港から1時間圏内で到着できます。陸路に関しては、JRの新下関駅、新幹線の小倉駅、どちらからも10数分以内で下関に到着します。海路も、北九州門司港や国際航路として釜山や青島、上海に出ている船があるんですよ。

ー陸・海・空。すべてにおいて移動しやすいのは大きなメリット。

和田氏:そうなんです。そして、世界的な遺産や名所がたくさんある。


たとえば、「桜山の招魂場」は吉田松陰先生をはじめ、高杉晋作などの慰霊碑がありますが、この戦没者を平等に扱う形式が、現在の靖国神社の原型だといわれています。

また、唐戸という目の前に九州が見える関門海峡沿いのエリアには、大正時代から稼働している日本最古といわれる郵便局があります。実は、ここの局長が発明家で、日本で初めて自動販売機を発明した人。

ほかにも、宮本武蔵の戦いで有名な巌流島、日本初の海中トンネル、君が代に出てくるさざれ石など、たくさんのレアスポットがあります。下関は源平の決戦で有名な壇ノ浦などの印
象が強いかもしれませんが、さまざまなレアスポットや見所があるんですよね。

ーさまざまな歴史に関係しているんですね。

和田氏:歴史・文化は、食文化とも絡んでいるんですよ。

下関の名産品と言えばふぐ(下関では『ふく』といいます。以下、ふく)ですが、ふくには歴史上の著名な人物が関わっています。1人目は豊臣秀吉。ふくは日本では縄文時代から食べられていましたが、豊臣秀吉の治世に、ふぐ毒による中毒死が続出したため「河豚食禁止令」が出されたと言われています。

解禁されたきっかけは、初代内閣総理大臣・伊藤博文公の下関訪問。当時宿泊所であった春帆楼が、魚が取れず打ち首覚悟で禁制だったふくを御膳に出しました。出されたふくを食べた伊藤博文公は、感嘆し、明治21年(1888年)に山口県令(知事)に働きかけてふく食が解禁。2018年は、ふく食解禁130年という記念の年となります。


ー今では名産であるふぐですが、その裏側にはそのような歴史上のストーリーがあったのですね。

和田氏:ほかには、「みんなちがって、みんないい」で知られる童謡詩人作家の金子みすゞさんにちなんだ、みすゞロードというコースがあります。実は、高杉晋作が小倉戦争(江戸時代の終わりに、「小倉藩を中心とした長州藩との戦い」がありました。“尊王倒幕”の旗印を掲げる長州藩に対して、幕府は征長(長州藩を倒す)の軍を興しましたで戦った時に持ち帰った戦利品の大太鼓があり、広島宮島にある分社の厳島神社に奉納されているのですが、この太鼓を音を聞いて書いた詩が金子みすゞだったり・・。ご存知でしたか。

寿美れにお越しいただけた際には、このようなマニアな下関の魅力をたくさんご案内しますよ。

ーほとんどが初耳でした…。時を超えて、違う時代を生きた人たちが下関を舞台につながっていくのは非常に面白い。

和田氏:ありがとうございます。

交通、文化、食など、さまざまな魅力を持ったこの下関には、今さまざまな方面から視線が注がれています。

最近でいうと、旅館の再生請負人として有名な星野リゾートも、下関にホテルを開業することを発表。

「下関に星野リゾート、5年開業 海峡、歴史資源を活用」


今後の私たちの目標としては、これから一層の発展が期待できるこの下関で、「下関には寿美礼あり」といわれるような旅館にしていきたいですね。下関といえば、ふぐ、くじら、あんこうというイメージがあると思いますが、そこに寿美礼が並んでしまうようなイメージ。

一度お越しいただいたお客様、いつもご利用いただいているお客様には、旅館としての伝統を重んじながらも価値を磨き、ご提供し続けていきたい。まだ寿美礼に来たことがない方には、日本人、外国人に関わらず、今回お話ししたような貸切風呂・下関の魅力に触れていただき、まずは一度足を向けていただきたい。そう思っています。


ーまさに、今魅力が磨かれていっている最中の下関。そして、その下関の中で個性を光らせる割烹旅館寿美礼。

心置きなくくつろげる時間を求めておられる方やこの冬の旅行先にお悩みの方がいれば、ぜひ割烹旅館寿美礼のHPをご覧ください。下関に行く時間をとれない方は、和田氏らが開発している各種商品を手に取っていただき、気軽にご自宅で味わうこともできますよ。

▼寿美れ オンラインショップ


取材・執筆=池野
編集=山崎
撮影=吉田

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