エンタープライズセールスは、主に大手企業をターゲットにする営業手法です。SaaS業界で取り入れられることが多いです。エンタープライズセールスは、既存の営業手法と比べてどのような違いがあるのでしょうか。また、導入することにより、どのような効果があるのでしょうか。
この記事では、エンタープライズセールスがどのようなものか解説した上で、導入する効果やデメリット、成功のポイントを解説します。エンタープライズセールスの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
エンタープライズセールスは、主に大手企業をターゲットにする営業手法です。SaaS業界で取り入れられることが多いです。エンタープライズセールスは、既存の営業手法と比べてどのような違いがあるのでしょうか。また、導入することにより、どのような効果があるのでしょうか。
この記事では、エンタープライズセールスがどのようなものか解説した上で、導入する効果やデメリット、成功のポイントを解説します。エンタープライズセールスの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
エンタープライズセールスとは、大規模な法人や公的機関をターゲットにする営業手法のことです。大手企業は従業員が多いため、契約に至ると安定した売り上げにつながります。また、最初の契約をきっかけに複数の部署や関連企業にサービスを導入してもらい利益を最大化できる点が特徴です。
効率的に成果を上げられることから近年取り組む企業が増えており、SaaS業界で用いられることが多いです。エンタープライズセールスの効果については、以下で詳しく解説します。
エンタープライズセールスには以下のような効果があります。
それぞれ解説します。
大手企業ではサービスや商品を利用する社員の数も多いため、1企業あたりの単価が高くなります。例えば、利用者の数で単価が変わるサブスクリプション型のサービスでは、1部署のみの契約でも高単価のプランになる場合があります。
また、1つの部署だけでなく複数の部署で同じサービスが導入され、売上がさらに伸びることもあります。サービスによっては、社内全体で利用しなければ仕事がスムーズに進まない場合もあり、数百人以上の人数が利用する高額なプランを導入してもらえる可能性があります。
1つの商材を導入してもらう過程で大手企業と信頼関係を構築できれば、他の複数の自社商材を追加で導入してもらえる可能性があります。特に、既に契約しているサービスと同じデータを共有できる、サービス同士を連携できるなどのメリットがある場合には、複数の商材を導入してもらいやすいです。
大手企業は予算額が大きいため、複数のサービスを併用してもらうハードルは中小企業と比べて高くありません。最初のサービス導入の際に信頼関係を構築できたら、積極的に別のサービスを勧めるとよいでしょう。
中小企業に比べて、大企業の方がサービスの解約率が低い傾向にあります。
利用ユーザー数が多い大企業では、サービスの変更が多くの社員の業務に影響を及ぼすため、1度導入したサービスの解約をするのは難しく、結果としてサービスのLTV(顧客生涯価値)も高くなります。つまり、大手企業に契約してもらうことにより、継続して安定した売上が発生します。
大手企業へのサービス導入が成果を上げれば、顧客のホームページや外部メディアにて紹介され、自社サービスの広報になると期待できます。外部メディアに成功実績が掲載されれば、記事を見た他の企業から問合せがくる可能性があります。
また、自社に広報部がある場合、大手企業へのサービス導入の過程や結果を記事にしたり、プレスリリースにまとめてメディアに情報提供したりすることによって、自社サービスのRPに活用できます。
エンタープライズセールスは、どのような商材だと効果が出やすいのでしょうか。エンタープライズセールスで効果を上げやすい商材の特徴を解説します。
エンタープライズセールスは、毎月料金が発生するサブスクリプションサービスと相性がよいです。
例として、勤怠管理システムが挙げられます。毎月そのシステムで打刻処理や日報の記載が可能になります。社内に浸透した後は、より低価格なサービスが出ない限り、他社のサービスに切り替えられる可能性は低いでしょう。
サブスクリプションサービスを一度契約してもらえば、毎月固定で売上が発生し、利益の安定につながります。
②何十人もの人数が利用可能な【大規模システム】
中小企業は導入できない大規模システムも、資金の潤沢な大企業なら導入可能です。その点で、何十人もの社員の利用を前提としたシステムは、大企業との相性がいいです。
例えば、大企業向けのRPAシステム(プロセス自動化ロボット)が挙げられます。大容量のデータベースを扱えたり、たくさんのコンピュータから接続できたりするので、高額なプランになります。
RPAサービスは導入までの敷居が高いため、1つの企業に徹底的に寄り添うカスタマーサクセスが非常に重要です。この点においても、少数の企業と密に関係構築するエンタープライズセールスと相性がいいといえるでしょう。
クラウドサービスの中には、複数の自社ツールと連携して使えるものが存在します。例えばSFA(営業支援ツール)の中には、同じ会社のCRM(顧客管理システム)と連携するツールが数多くあり、ツール同士を連携させることによって、顧客データをスムーズに伝達できます。
社員が多い大企業は、業務を効率化することを重視します。そのため、1つのツールが導入されれば、連携して使用できる他のツールも導入されやすくなります。複数のサービスを導入してもらえれば、当然売上の増加にもつながります。
エンタープライズセールスの導入で効果を出したものには、どのような事例があるのでしょうか。ここでは3つの事例を紹介します。
SalesforceはSFA(営業支援)やCRM(顧客関係管理)を中心としたクラウドサービスを提供する企業です。CRMのマーケットシェアは世界でトップクラスであり、日本でもさまざまな大企業に導入されています。
Salesforceでは、自社のサービスを使うことによってどのように課題を解決できるのかを、専用のデモ環境を構築して経営陣に直接プレゼンします。プレゼンではただ技術の導入の提案を行うのではなく、ツールを用いた課題解決を通して「経営陣が思い描くビジョンの実現にどのように貢献するのか」といった、経営計画の立案にまで踏み込んだ提案を行います。
とある製造業の顧客の案件では、全社的な顧客基盤を統合することにより、部門間の顧客情報を共有しやすくなるDX環境を提案しました。最終的にはメディアにも取り上げられる大プロジェクトになりました。
Luupは自転車や電動キックボードのシェアリングサービスを提供する企業です。東京や大阪、横浜などの大都市でサービスが導入されています。Luupは自社サービスを街中で導入してもらうために、行政やエリアマネジメント団体などに営業を行っています。
Luupの営業は、各地域のエリア構造を理解し、自治体の課題に寄り添うことが特徴です。例えば、横浜市との事業では、みなとみらい21地区の観光スポットの間に徒歩10〜15分程度の距離があることに着目しました。スポット間の観光客の移動に時間がかかるという課題に対し、Luupを使えば湾岸の景色を眺めながら快適に移動できることをアピールしました。
街に新しい交通手段を導入するには慎重になる必要がありましたが、Luupは東京都内の実証実験や、市内での移動講習会など、街の人たちが安全に乗れる取り組みを進めることによって、横浜市内への導入に成功しました。
カオナビは人材情報を一元化するタレントマネジメントシステムを提供している企業です。国内の約2,700社にサービスが導入されており、その中には日本を代表する大企業も含まれています。
カオナビの営業は、同じグループ企業内でサービスを広げることを重要指標に置いています。グループ企業内で活用事例を横展開したり、親会社とグループ企業で「ユーザー会」を開いたりといった、カオナビを展開しやすい工夫を重ねた結果、1年間で売上高を前年比200%まで上げることに成功しました。
また、企業に合わせて面談の回数を増やす、提案内容を変えるなどして企業のニーズを汲み取り続けてきたことも関係構築に成功した要因です。
エンタープライズセールスで効果を上げるには以下のポイントが大事です。
それぞれ詳しく解説します。
大企業が抱える問題解決のためには、精度の高い情報収集が求められます。
大企業は営業を受ける機会も多く、ライバル企業も多くなります。そのため、エンタープライズセールスでは、中小企業への営業と比べて他社と差別化する必要性が高いです。また、ただサービスをプレゼンするだけでなく、大企業の抱える課題解決につながるような、ハイレベルな提案をしなければなりません。
大企業に寄り添った提案をするためには、事前にホームページをチェックするなどして想定される課題を把握しておくことが重要です。また、商談のたびに担当者から情報を聞き出し、課題がどこにあるのかを考えることも大切です。
サービス導入のためには、社内のさまざまな部署から承認を得る必要があります。それぞれの担当者のニーズを汲み取り、全員が納得できる提案をすることが重要です。
大企業は決裁者にたどりつくまでに、さまざまな担当者と商談を重ねる必要があります。同じ組織でも担当者によって課題に思うことは様々で、ニーズは同じとは限りません。例えば経営企画室はサービス導入に積極的でも、経理部は予算を出すのに反対している場合などがあります。
サービスの提案をするときは、顧客企業内で味方となる担当者を作るとよいでしょう。サービスの効果を理解し興味を持ってもらったり、実際に使って気に入ってもらったりできれば、顧客企業内でサービス導入に向けて話を通してくれる場合があります。味方が1人いるだけで、サービス導入のハードルは大きく下がるでしょう。
エンタープライズセールスでは中小企業への営業と比べて、サービスの導入に数多くのプロセスを踏むため、多くの人員が必要になります。営業チームが円滑に回るにはしっかりしたチームビルディングが肝となるでしょう。
特に情報共有のプロセスを固めておくことが重要です。情報共有が不足して提案内容に矛盾が発生すると、顧客企業に不信感を抱かれてしまいます。大企業はサービスの導入に慎重になりがちで、少しでも不信感を持たれると失注につながる場合があります。未然に防ぐため、営業部内での情報共有は事前に漏れなく行いましょう。営業チームで一貫性のある提案ができれば、担当者に好印象を与えられます。
自社の営業担当者が顧客と長期で関係を築きながら契約に至るまでの、リソースを確保しなければなりません。
エンタープライズセールスは、中小企業への営業と比べて、最初のサービス導入に長い検討期間が必要になります。そのため、通常の営業よりも一層、顧客に合わせて動くことに注力する必要があります。リソースの確保が難しい場合は、営業代行サービスの利用の検討をおすすめします。
また、労力がかかるエンタープライズセールスで最大限の利益を出すためには、費用対効果を上げる工夫が欠かせません。自社に大企業への営業ノウハウが不足している場合にも、代行サービスの利用により成果を上げやすくなります。例えば、大手への営業に長けた営業顧問を利用すれば、成約率のアップにつながるでしょう。
エンタープライズセールスで効果を上げるために、どのような営業チームを作ればよいのでしょうか。まず、顧客が大企業であっても、中小企業であっても、営業においてチームは以下の4つの役割を果たす必要があります。
エンタープライズセールスはABM(Account based marketing)戦略に則って行います。ABM戦略とは、不特定多数の企業にアプローチをするのではなく、自社にとって高い価値を持つ企業をあらかじめ選び、その企業からの売上獲得を狙う手法です。大企業は中小企業に比べて数が少なく、1つひとつの企業に慎重にアプローチする必要があります。そこで、このABM手法が重要になります。
ABM戦略では、先ほど紹介した4つの役割の営業チームが一丸で取り組むことが多いです。長期間にわたり大きな課題に取り組むことになるため、分業よりも、チーム全体で複数のアプローチを行うべきです。すると、情報共有が密になり、重要な顧客に焦点を当てやすくなります。
エンタープライズセールスチームが担う業務内容について詳しく説明します。
マーケティングにおいては、潜在顧客を発見したり、大企業にアプローチをしてサービスに興味を持ってもらったりします。
エンタープライズセールスで執り行うマーケティングには、以下のようなものがあります。
マーケティングオートメーション(MA)ツールや、過去の営業データなど、顧客接点を含むデータから見込みのありそうな顧客の優先順位を洗い出します。洗い出したデータはマーケティング活動に活用するだけでなく、インサイドセールスチームに提供しましょう。
ターゲットとなる企業にメールマガジンを送付します。顧客企業の担当者がサービスについて理解できるようなプレゼン資料を添付すると、なおよいでしょう。
SNSや自社メディアでの情報発信は積極的に行いましょう。大企業の担当者も日々SNSを見ているため、サービスが認知されやすくなります。また、自社メディアにサービスの開発経緯や強みを記せば、より詳しい内容を発信でき、顧客企業にサービスを深く理解してもらうことにつながります。
すでに導入実績がある場合、その実績をプレスリリースにまとめて他社メディアに提供し、自社サービスの宣伝を行います。大手メディアに掲載してもらうことができれば、顧客企業に興味を持ってもらいやすくなります。
自社の関連領域についてウェビナーなどのイベントを開き、自社サービスのアピールを行います。自社のノウハウを共有することにより、企業のブランディング効果もあるでしょう。
大企業はさまざまな企業からアプローチを受けるため、1つの媒体からの発信だけでは見てもらえないこともしばしばあります。あらゆる媒体を使って担当者の興味をひきましょう。
エンタープライズセールスでは、インサイドセールスを行う際にBDR(Business Development Representative)という手法がよく使われます。BDRは、自社と接点のない顧客に対してアプローチをかけていく、アウトバウンド型の営業手法です。
ABMでターゲティングした企業に対してテレアポやDM送付などの手法を使い、商談の機会を作りましょう。また、決済権を持つキーマンの情報を聞き出したり、組織図を明らかにしたりするなど、フィールドセールスに役立つ情報収集も行います。インサイドセールスの時点で顧客企業との関係構築ができていると、フィールドセールスがスムーズになるでしょう。
大企業はすでに契約先が決まっているという理由で商談を断ることが多いため、自社に興味を持ってもらえるような強い訴求が必要です。ただ単にテレアポやメール営業をするのでなく、目に留まりやすい手紙を送ったり、SNSでアプローチしたり、さまざまな手法を試すことが大事です。特に、つながりのあるビジネスパートナーからリファラルで紹介を貰えると、信頼を構築しやすくなるでしょう。
エンタープライズセールスでは、顧客企業の意思決定者とつながるまで何度も商談を重ねる必要があります。フィールドセールスの際は、各部署の重役が誰なのかを把握し、組織図を作っておくといいでしょう。プレゼンの際に誰にアプローチをすればよいのかわかりやすくなります。
特に、意思決定のプロセスを可視化しておくことが重要です。大企業ではIT部門、財務、監査などさまざまな部署から導入の許可を得て成約に至ります。あらかじめ意思決定のプロセスを把握しておくことにより、提案内容を考えたり、スケジュールを立てたりしやすくなるでしょう。
また、提案の質を上げるためには、ただ商談をするだけでなく、担当者が課題に感じていることを聞き出したり、現場を直接観察したりする必要もあります。その際に顧客企業の社員と信頼関係を築くことが重要です。信頼関係構築のためには、その場の問題解決だけでなく、企業として成し遂げたいビジョンも視野に入れた提案を行い、商談で向かいあった社員にしっかりと寄り添いましょう。
エンタープライズセールスは契約を得るだけでなく、契約を継続してもらい、LTVの最大化に努めることが重要です。LTVを上げるにはカスタマーサクセスを徹底し、顧客企業にサービスを浸透させましょう。顧客企業の利用面での課題を聞き出したり、使い方を教えるようなウェビナーを行ったりして、サービスを使うためのサポートをします。サービスの利用でわからないところに答えるだけではなく、顧客企業に能動的に働きかけて、サービスを利用した課題解決や企業の成長に取り組みましょう。
カスタマーサクセスに力を入れて顧客満足度を高めることによって、他事業部や関連会社への紹介を生み、さらなる顧客獲得にもつなげられます。1つの会社内でユーザーを増やし売上を大きくするのは、エンタープライズセールスにおいて重要な戦略なので、チームが一体となって顧客企業に寄り添い続けましょう。
エンタープライズセールスは、1度契約されれば高価な商材でも導入してもらいやすく、解約されにくいといった利点があります。また、大企業に導入してもらうことそのものが、サービスの広報につながります。さらに、関連企業にもサービスを利用してもらうことにより、1つの大企業からさらなる契約につなげることができるでしょう。
効果を上げるためには、ABM戦略をもとにメンバー一丸となって顧客に寄り添うことができるチームビルディングや、徹底した情報収集や質の高い提案が求められます。人員や労力を惜しまずに成果が上がるチームを作りましょう。