インサイドセールスとは何か
インサイドセールスは、電話やメール、Web会議システムといった非対面の手段を使って、見込み客にアプローチする営業活動です。
「内勤営業」や「リモートセールス」と呼ばれることもあり、営業担当者がオフィスに居ながら全国の顧客に対応できるのが特徴です。
従来の営業スタイルでは、営業担当者が顧客先を訪問して対面営業を行うことが一般的でした。 しかし、インサイドセールスではそうした訪問営業を効率化し、リード育成から商談化までを専門に行う部隊を組織化するのです。
フィールドセールスとの違い
フィールドセールスは、顧客先に赴いて対面で商談や契約交渉を行う営業活動です。 見込み客と直接顔を合わせることで、商品やサービスの魅力を伝えやすく、信頼関係を深めやすいというメリットがあります。
一方、インサイドセールスは見込み客との信頼関係構築やニーズの引き出しに特化しており、商談確度を高めた上でフィールドセールスに引き継ぐという役割分担が一般的です。 両者は営業プロセスの異なるステージを担当することで、営業全体の効率を高めるのです。
テレアポとの明確な区別
インサイドセールスはテレアポと混同されることが多いのですが、両者は大きく異なります。 テレアポは無作為に電話をかけるのに対し、インサイドセールスは見込み客を事前に分析し、購買確率が高い顧客層に絞ってアプローチを行うのです。
インサイドセールスの真の目的は、顧客の課題やニーズをきちんとヒアリングし、自社のサービスが本当に適合するかどうかを判定することにあります。 つまり、質の高いアポイントを創出することが求められるのです。
インサイドセールスの3つの形態
インサイドセールスの組織は、役割によって3つの形態に分けられます。
・分業型:マーケティングからのリード引き継ぎから案件化まで担当し、フィールドセールスに商談をパス
・協業型:インサイドセールスとフィールドセールスが協力して、リードナーチャリングから商談
・クロージングに関わることもある ・独立型:商談やクロージングまでを含め、営業活動全体を内勤で完結させる
どの形態を採用するかは、自社の商材特性や営業プロセスによって決定されます。
インサイドセールス立ち上げが注目される背景
インサイドセールスがこれほどまでに注目を集めるようになった背景には、複数の環境変化があります。 単なるトレンドではなく、ビジネス環境の必然的な進化なのです。
コロナ禍による営業スタイルの変化
新型コロナウイルスの感染拡大により、従来の対面営業が困難になりました。 多くの企業がリモートワークを導入する中で、非対面での営業活動の重要性が急速に高まったのです。
顧客も営業訪問を受けることへの抵抗感が強まり、初期段階の営業接触はメールや電話で行いたいという希望が増えています。
この状況は、インサイドセールスの役割の重要性を大きく高めました。
THE MODELの普及とBtoB営業の効率化
セールスフォース・ドットコムの日本法人で実践されていた営業プロセスを、福田康隆氏が体系化して著書化しました。
これにより、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが連携する営業モデルが、BtoB企業に急速に広がったのです。
人材不足と業務効率化の必要性
深刻な人材不足の中で、企業は営業効率の向上を迫られています。
限られた営業リソースで成約率を高めるには、見込み客を適切に育成し、フィールドセールスに高い確度の案件を渡す仕組みが必須なのです。
インサイドセールス立ち上げ前の準備フェーズ
インサイドセールスを成功させるには、立ち上げ前の準備が極めて重要です。 この段階で何をするかによって、その後の成否が大きく左右されるのです。
インサイドセールスの目的と役割の明確化
最初のステップは、自社においてインサイドセールスが何を目的として機能するのかを明確にすることです。
単に「営業効率を高めたい」という曖昧な目的では、チーム全体の方向性がぶれてしまいます。
「マーケティングから受け取ったリードを、どの段階まで育成して次の部門に引き継ぐのか」「目標とする商談数はいくつなのか」といった具体的な定義が必要なのです。 この定義を曖昧なままで進めると、現場の混乱や組織間の齟齬が生じやすくなります。
営業フロー全体における位置づけの確認
インサイドセールスは営業プロセスの一部に過ぎません。 自社の営業フロー全体の中で、インサイドセールスがどの段階を担当し、その前後の部門とどのように連携するのかを把握することが重要です。
マーケティング部門との接点、フィールドセールスとの引き継ぎ基準、カスタマーサクセスとの連携方法など、営業全体を俯瞰した上で、インサイドセールスの位置づけを確認するのです。
SDRとBDRの役割と選択
インサイドセールスの中でも、リード源によって役割が異なります。 自社に適したタイプを選択することが、立ち上げ成功の鍵となるのです。
SDR(Sales Development Representative)の機能と対象
SDRは、マーケティング部門が獲得した見込み客に対してアプローチします。
ホワイトペーパーのダウンロードや問い合わせなど、既に自社に接触意欲を示した見込み客が対象です。
このタイプは、意思決定プロセスが比較的短いため、スピーディーなアポイント獲得が期待できます。
主に中小企業の顧客をターゲットとした場合に、高い効果が期待できるのです。
BDR(Business Development Representative)の機能と対象
BDRは、自社と接点を持たない潜在顧客に対して、営業チームと共にターゲティングを行い、新規開拓を進めます。
つまり、営業主導で顧客リストを作成し、そこに対してアプローチを行うのです。
このタイプは、商談が長期化する傾向にあり、初期段階の成果が出にくいという特徴があります。
しかし、長期的には大型案件の創出につながる可能性を秘めています。
インサイドセールス立ち上げの5つのステップ
実際の立ち上げを進める際の段階的なアプローチを解説します。
これらのステップを適切に進めることで、組織的で効率的なインサイドセールス部門が実現されるのです。
ステップ1|インサイドセールスの目的と機能定義
まず、インサイドセールスチームが何を目的として存在するのかを、組織全体で合意することが必須です。
単なる「アポ取り」ではなく、顧客のニーズをヒアリングし、見込み客を適切に育成することが真の目的であることを、全員で理解する必要があります。
自社の営業活動の中で、インサイドセールスが担当する範囲を明確に定義することも重要です。
ここがあいまいなままだと、フィールドセールスなど隣接部門との連携がスムーズに進みません。
ステップ2|リード定義とターゲット企業の明確化
次に、インサイドセールスがアプローチすべきリード(見込み客)の定義を行います。
企業規模、業界、職位、購買段階など、複数の軸からターゲット企業を明確にするのです。
すべての見込み客が対象ではありません。 自社が確実に提案できる企業層を特定し、限定的にアプローチすることで、成果率を高めることができるのです。
ステップ3|KPI設計と成功指標の設定
インサイドセールスチームが達成すべき数値目標を設定します。 基本的には「商談数」か「有効商談数」のいずれかが主要KPIとなります。
フィールドセールスのリソース状況を踏まえて、どちらを優先するかを決定します。 例えば、フィールドセールスに余裕がない場合は、見込みの薄い商談を多く獲得するより、確度の高い「有効商談数」を目標にすべきなのです。
ステップ4|チーム編成と人材確保
インサイドセールスチームを率いるマネージャーと、実務を担当するメンバーを確保します。
マネージャーとしては、営業経験を持つ人材、特にフィールドセールスで活躍してきた営業が理想的です。
理由は、顧客解像度が高いだけでなく、フィールドセールスとの関係構築もしやすく、パワーバランスを保ちやすいからです。
一方、メンバーについては、未経験者でも問題ありません。
立ち上げ初期段階では、少人数でのチーム構成がおすすめです。
初めは成果が上がりにくいこと、フィールドセールスからのフィードバックを受けやすいこと、チームメンバーのモチベーションが高いことなど、複数の理由があるのです。
ステップ5|運用ツールとシステムの導入
活動ログや顧客データを一元管理できるCRM/SFAを導入します。
複数の部門が同じダッシュボードを参照できれば、顧客の履歴を横串で追え、連携ミスを最小限に抑えられるのです。
立ち上げ時には、既存データのクリーニングが非常に重要です。
連絡先が間違っていたり、企業名が古いままだったりすると、実際のインサイドセールス活動が非効率になってしまいます。
KPI設計と活動指標の定め方
適切なKPI設計が、インサイドセールスの成功を左右します。 実績ベースと事業目標に基づいて、現実的で達成可能な指標を設定することが重要です。
インサイドセールスの基本KPI
インサイドセールスの基本的なKPIは「商談数」または「有効商談数」です。
商談数とは、インサイドセールスから引き継いだアポイントの数を指し、有効商談数とは、その中でも実際にフィールドセールスで対応される確度の高い商談を指します。
その他の重要な指標としては、リーチ数、オープン率、レスポンス率、商談化率などが挙げられます。
それぞれの指標が、どのチャネルから獲得したリードかによって大きく異なるため、チャネル別での分析も必要です。
初期段階と成熟段階でのKPI見直し
立ち上げ当初は、とにかく「数を集める」ことが重要です。
しかし、チームが成熟するにつれて、達成基準を引き上げるか、別の質的指標に置き換えることが必要になります。
例えば、最初は「月間50件の商談獲得」という目標でも、3ヶ月後には「月間50件かつ商談化率40%」という、より難度の高い目標に変更するといった具合です。
定期的なレビューと見直しにより、チームのモチベーションと成果の向上を同時に実現できるのです。
インサイドセールスチーム編成と人材確保
適切な人材配置なくしては、インサイドセールスの成功は望めません。 組織構成と人材選定のポイントを解説します。
マネージャー選定の重要性
インサイドセールスチームを統括するマネージャーの選定は、極めて重要な決定です。
理想的には、フィールドセールスで成功してきた営業担当者を充てることです。
この人材であれば、顧客の課題やニーズに対する深い理解があり、どのような商談であればフィールドセールスで対応しやすいかも直感的に分かります。 同時に、営業組織内での信頼も厚く、隣接部門との連携もスムーズに進みやすいのです。
立ち上げ初期段階での少人数チーム構成
最初から大人数でチームを構成するのではなく、少人数(3名~5名程度)でのスタートをお勧めします。
初期段階では成果が上がりにくいため、多くの人員を配置しても効率が低下するからです。
また、少人数であれば、フィールドセールスからのフィードバックを直接受けやすく、試行錯誤が素早く進みます。
メンバーの裁量が大きいため、モチベーション維持も容易です。
人員拡大のタイミングと段階的成長
インサイドセールスの「勝ちパターン」が見えてきた段階(通常、立ち上げから6ヶ月~1年後)が、人員を拡大する適切なタイミングです。
それまでは、少人数で試行錯誤を繰り返し、営業プロセスを洗練させることが重要なのです。
マーケティングとの連携体制構築
インサイドセールスの成功は、マーケティング部門との連携如何にかかっています。
適切なリードが適切なタイミングで引き継がれる仕組みの構築が必須です。
マーケティングからインサイドセールスへの引き継ぎ
マーケティング部門が獲得したリードを、インサイドセールスに引き継ぐ際には、単に顧客リストを渡すのではなく、充分なコンテキスト情報を含めて引き継ぐことが重要です。
どのようなコンテンツに関心を示したのか、どのような課題を抱えているのか、といった背景情報があれば、インサイドセールスの初期アプローチがより効果的になるのです。
リード定義と優先度付けの仕組み化
マーケティング部門とインサイドセールス部門が、リード定義(どのような企業をターゲットとするか)を事前に合意しておくことが重要です。
さらに、獲得したリードに対して優先度を付ける基準も明確にしておくべきです。
定期的なレビュー会議の設定
マーケティングとインサイドセールスの責任者が、定期的に(例えば週1回)ミーティングを開催し、進捗状況や課題を共有することが重要です。
このミーティングで、マーケティング施策の効果検証やインサイドセールスのアプローチ改善など、相互にフィードバックを行うのです。
インサイドセールスとフィールドセールスの連携
インサイドセールスが成功するには、フィールドセールスとの信頼関係と明確な役割分担が不可欠です。
両者が一体感を持って営業活動に臨むことで、初めて営業全体の効率が高まるのです。
商談品質基準の事前合意
フィールドセールスが受け入れやすい「商談の質」を、事前に明確に定義しておくことが重要です。
例えば、「決裁者が参加すること」「予算がある程度決まっていること」といった基準を、両部門で合意しておくのです。
この基準があいまいなままだと、フィールドセールスは確度の低い商談を受け取ってしまい、営業効率が低下するのです。
フィールドセールスからのフィードバック体制
フィールドセールスが実際の商談を通じて得た顧客情報やインサイドセールスへの改善要望を、定期的にインサイドセールスにフィードバックする仕組みが必須です。 このフィードバックがあれば、インサイドセールスのアプローチをより改善できるからです。
インサイドセールス立ち上げ当初の運用ポイント
立ち上げの初期段階は、多くの企業が挫折する時期でもあります。 この時期を乗り越えるための実務的なポイントを解説します。
成果が上がりにくい初期段階への対応
立ち上げ当初は、トークスクリプトも未成熟であり、テーマ設定も試行錯誤中です。
成果が上がりにくいのは当然であり、この段階で焦ると取り組みがぶれてしまいます。
重要なのは、失敗から学ぶ姿勢を組織全体で持つことです。
毎週のミーティングで、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを丁寧に分析し、改善を繰り返すのです。
チームメンバーのモチベーション維持
初期段階では成果が出にくいため、チームメンバーのモチベーション維持が課題になります。
月間や四半期ごとの成果だけでなく、新しく開発したトークスクリプトの効果、顧客からのポジティブなフィードバックなど、小さな成功も積極的に共有することが重要です。
定期的なミーティング体制の構築
立ち上げ初期段階では、毎週のミーティングを実施し、進捗状況や課題を共有することをお勧めします。
運用が安定してきたら月1回程度に移行するなど、段階的に頻度を調整していくのです。
インサイドセールス導入による効果と期待値
インサイドセールスを導入する際に、実際にはどのような成果が期待できるのでしょうか。 実例に基づいた効果を見ていきましょう。
商談数の増加実績
マーケティング・オートメーション関連企業による調査では、インサイドセールス導入企業のうち、「商談の回数がとても増えた」と回答したのは43.6%でした。
従来では営業担当者が合間に行っていたリードへのアプローチを、専門部隊が行うことで、格段に接触機会が増えるのです。
営業全体のプロセス可視化
インサイドセールスを導入することで、リードの流れ(マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス)がシステマチックに管理されるようになります。
各段階での成果が数値化され、どこにボトルネックがあるのかが一目瞭然になるのです。
インハウス立ち上げと外部パートナー活用の選択
インサイドセールスの立ち上げを、社内で進めるか外部パートナーに依頼するか、判断が必要な場面があります。
それぞれのメリット・デメリットを検討した上で、最適な選択をすべきです。
インハウス立ち上げが適した企業の条件
社内でのインハウス立ち上げが適しているのは、インサイドセールスに精通した人材が社内に存在すること、十分な時間と予算を投下できることが条件です。
こうした条件が揃っていれば、カスタマイズされた営業プロセスの構築ができるのです。
外部パートナー活用のメリット
外部パートナーを活用すれば、インサイドセールスの立ち上げに必要なノウハウを即座に取得できます。
複数企業での支援経験に基づいたベストプラクティスを活用できるため、立ち上げ期間の短縮も期待できるのです。
インサイドセールス立ち上げにおける失敗パターン
数多くの企業がインサイドセールスの立ち上げを試みる中で、共通する失敗パターンが存在します。
これらの罠を事前に認識しておくことで、失敗のリスクを低減できるのです。
フィールドセールスとの認識のずれ
最も多い失敗パターンが、インサイドセールスが提供する商談の質が、フィールドセールスの期待に満たないというケースです。
フィールドセールスは確度の高い商談を期待しているのに、インサイドセールスは数を優先してしまう、といった齟齬が生じるのです。
これを防ぐには、両部門の責任者が立ち上げ段階で「どういった条件をクリアしている商談を供給するか」について、明確に合意しておくことが重要です。
目的と役割の曖昧なままでの開始
立ち上げ前の準備が不十分なまま、インサイドセールス活動をスタートさせてしまう企業も多いです。
結果として、テレアポの延長線での運用になってしまい、インサイドセールスの本来の価値が発揮されないのです。
データ管理の不徹底
CRM/SFAにデータが正確に入力されていない、あるいは複数のツールで管理されているため情報が散在しているなど、データ管理が不徹底な企業では、インサイドセールスの効果が大きく減じられます。
正確で一元化されたデータこそが、インサイドセールスの最大の資産なのです。
初期段階から安定運用への移行
インサイドセールスが初期段階を脱し、安定した運用に入る際には、いくつかの重要なマイルストーンがあります。
立ち上げから半年~1年での検証ポイント
この時期には、想定していたKPIの達成状況、トークスクリプトの改善状況、チームメンバーのスキル向上などを総合的に検証します。
同時に、フィールドセールスとの連携がスムーズに進んでいるかも確認するのです。
勝ちパターンの確立と標準化
試行錯誤を通じて、「このテーマでアプローチするとコンバージョン率が高い」「このトークスクリプトで実際に商談に結びつきやすい」といった勝ちパターンが見えてきます。
これを標準化し、チーム全体で実行することで、より安定した成果が得られるようになるのです。
まとめ
インサイドセールスの立ち上げは、単なる営業部門の一つの施策ではなく、営業組織全体の効率化を目指す重要な取り組みです。
成功には、明確な目的定義、適切な人材配置、マーケティングとフィールドセールスとの綿密な連携、そして段階的で継続的な改善が不可欠です。
本記事で解説したステップとポイントを押さえながら、自社の営業環境に合わせたインサイドセールス部門の立ち上げに取り組んでいただきたいと思います。