監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
人を大切にする会社という言葉をよく聞くものの、具体的に何が違うのか説明できないことはないでしょうか。
この記事では、人を大切にする会社の定義と見分け方、経営者が実際に取り組んでいること、掲げるだけで終わる会社との差を解説します。
人を大切にする会社とはどういう会社か
言葉の印象だけが先行しやすいテーマです。
何を指しているのかを分解してみましょう。
居心地のよさとは別の概念
働きやすさと、人を大切にすることは重なりますが同じではありません。
厳しい指摘をしない職場が、人を大切にしているとは限りません。
成長の機会を与えないことは、長い目で見れば本人の不利益になります。
やさしさと甘さを分けて考える必要があります。
社員だけが対象ではない
人という言葉には、取引先も顧客も含まれます。
社員にはよくても、下請けに無理を押しつける会社は該当しません。
支払いの条件や、急な変更の頻度に姿勢が出ます。
社外からの評価と、社内の評価が食い違う会社には注意が要ります。
業績と対立するものではない
人を大切にすると利益が減る、という前提は成り立ちません。
人が定着すれば採用と教育の費用が減り、顧客との関係も続きます。
短期の利益を優先した結果、人が抜けて立ち行かなくなる例は珍しくありません。
時間軸をどこに置くかで、判断は変わります。
制度ではなく運用に表れる
就業規則や福利厚生の一覧を見ても、実態は分かりません。
制度が実際に使われているかどうかが、唯一の判断材料になります。
休暇の制度があっても取得率が低ければ、意味を持ちません。
数字で確かめられる項目を探します。
外から見分ける方法
転職や取引を考えるとき、外からでも確かめられる点があります。
四つ挙げておきます。
辞めた人の扱いを見る
退職者への姿勢に、その会社の本質が表れます。
円満に送り出された人がいるか、戻ってきた人がいるかを確かめます。
辞めた人を悪く言う文化があれば、在籍者も安心できません。
元社員とのつながりが残っている会社は、信用できる材料になります。
採用の場での説明を見る
都合のよい面だけを並べる説明には注意が要ります。
大変な部分を先に説明する会社は、入社後のずれが小さくなります。
質問に対して、具体的な数字で答えられるかも見ます。
曖昧な答えが続く場合は、実態がない可能性があります。
現場の社員に直接聞く
経営者の話だけでは、運用の実態は分かりません。
入社三年目前後の社員が、どんな言葉で会社を語るかが参考になります。
全員が同じ言葉で話す場合は、かえって不自然です。
不満を率直に話せる空気があるかどうかも見ておきます。
取引先としての振る舞いを見る
商談の場での姿勢は、社内の文化を映します。
約束した期日を守るか、無理な条件を押しつけないかを確かめます。
担当者が疲弊している様子が見えるなら、社内にも余裕がありません。
下請けへの支払い条件は、公開情報から分かる場合もあります。
規模によって形が変わる
同じ言葉でも、会社の大きさで実現の仕方が変わります。
四つの段階で見ていきます。
十人未満の会社
経営者が全員と直接話せる規模です。
制度を作るより、一人ひとりの事情を把握することが現実的になります。
その代わり、経営者の体調や機嫌が全体に響きます。
判断の理由を言葉にする習慣を、この段階から持ちます。
三十人前後の会社
経営者の目が全員には届かなくなる境目です。
間に立つ人の育成が追いつかず、不満がたまりやすい時期になります。
評価の基準を文章にする必要が出てきます。
辞める人が増えたら、規模の問題を疑います。
百人を超える会社
部署ごとに文化が分かれ始めます。
全社の方針と、現場の運用がずれていないかを定期的に確かめる必要があります。
制度は整っても、使われるかどうかは部署によって変わります。
現場の管理職が、方針を説明できる状態を作ります。
拠点が分かれている会社
距離があると、情報と空気の両方が届きにくくなります。
本社と拠点で、同じ制度が同じように使われているかを確かめることが要点です。
遠い拠点ほど、声が上がりにくくなります。
経営者が足を運ぶ頻度が、そのまま関心の表れになります。
経営者が実際に取り組んでいること
掲げるだけで終わらせない会社には、共通する動きがあります。
四つに整理します。
判断の基準を言葉にしている
人を大切にするという言葉だけでは、現場は動けません。
迷ったときに何を優先するのかを、具体的な場面で示しているかどうかが分かれ目です。
利益と人のどちらを取るかという場面は、必ず訪れます。
過去にどう判断したかを社内で共有している会社は、ぶれません。
情報を隠さない
業績が悪いときほど、情報の出し方に姿勢が出ます。
厳しい数字も含めて共有する会社は、社員の判断の質が上がります。
隠された情報は、別の経路で不正確に広まります。
公開する範囲と時期を、あらかじめ決めておきます。
評価と処遇を説明できる
納得できない評価は、離職の最大の理由になります。
何をすれば評価が上がるのかを、本人に説明できる状態を作ります。
基準が曖昧なまま運用すると、不信だけが残ります。
説明の時間を取れない忙しさは、仕組みの問題です。
経営者自身が相談相手を持っている
判断に迷ったとき、社内では本音を話せません。
社外に同じ立場の相談相手がいるかどうかで、判断の質が変わります。
利害の絡まない相手との対話は、視野を広げます。
孤立した経営者の判断は、極端に振れやすくなります。
社員が実感する場面
制度の有無ではなく、日常のどこで感じ取るのかを見ておきます。
四つの場面を挙げます。
体調を崩したとき
休むと言ったときの最初の反応に、会社の姿勢が出ます。
代わりの段取りを先に考えるか、休む理由を問いただすかで分かれます。
長期の療養が必要になったときの扱いは、さらに差が出ます。
戻ってきた人が働き続けられているかを見ます。
失敗したとき
責任の取らせ方に、文化がそのまま表れます。
原因を仕組みの側に探す会社と、個人を特定する会社では、次の行動が変わります。
報告が早く上がる会社は、責める文化がない証拠です。
隠す動きが出ている時点で、信頼は失われています。
家庭の事情が重なったとき
育児や介護は、誰にでも訪れる可能性があります。
制度の適用を本人に探させるか、会社から提案するかで印象が違います。
前例がない場合に、どう対応したかが参考になります。
一人の例外を作れる会社は、次の人も救えます。
会社が苦しいとき
業績が落ちたときの判断に、本質が出ます。
人を減らす前に何を削ったかを、社員は見ています。
経営者の報酬を先に下げた会社は、説明に説得力が生まれます。
やむを得ず人を減らす場合も、手順と説明で受け取り方が変わります。
掲げるだけで終わる会社との差
言葉を掲げている会社は多くあります。
実態との差がどこに出るかを見ておきましょう。
理念が採用のためだけに使われている
求人の文面にだけ現れる理念は、中では機能していません。
社内の会議や日常の判断で、その言葉が出てくるかを確かめます。
壁に貼ってあるだけの標語は、実態を示しません。
入社後に理念の話を聞かなくなる会社は要注意です。
福利厚生の充実で代替している
制度を増やすことは、文化を作ることとは別です。
使われていない制度は、費用がかかるだけで何も生みません。
制度の数より、取得率や利用率を見ます。
現場が求めていないものを増やしても、不満は減りません。
経営者の個人的な善意に依存している
経営者が面倒見のよい人であるだけでは、仕組みになりません。
その人がいなくなったときに続くかどうかが、文化かどうかの分かれ目です。
属人的な配慮は、人数が増えると末端まで届かなくなります。
誰が担当しても同じ判断になる形へ移していきます。
厳しさを避けて結果が出ない
心地よさだけを追うと、成果が出ずに会社が傾きます。
会社が続かなければ、人を守ることもできません。
求める水準を示したうえで、達成を支えるのが本来の形です。
優しさと基準の高さは、両立できます。
採用と定着への効き方
人を大切にする姿勢は、結果として数字にも表れます。
四つの経路を見ておきましょう。
紹介による採用が増える
在籍している人が知人を誘えるかどうかが、最も正直な指標です。
社員が自分の友人に勧められる会社かを考えてみてください。
紹介が一件も出ない状態は、警告として受け取るべきです。
紹介で入った人は、定着率も高くなります。
採用の費用が下がる
人が辞めなければ、募集そのものが減ります。
採用と教育にかかる費用は、離職率に比例して増えます。
辞める人の穴を埋める採用は、質も落ちやすくなります。
定着は、最も確実な費用の削減になります。
顧客との関係が続く
担当者が頻繁に替わる会社は、取引先からも信用されません。
同じ担当者が長く付き合えること自体が、顧客にとっての価値です。
引き継ぎのたびに、関係は一度薄くなります。
長期の取引は、人の定着があって初めて成り立ちます。
採用の場で説明できることが増える
取り組みが実態として積み上がれば、話せる材料になります。
制度の名前ではなく、実際にあった出来事を話せる会社は強くなります。
作り話は、入社後にすぐ見破られます。
事実を積み上げることが、結局は近道になります。
自社で始めるなら何から手をつけるか
大きな制度を作る前に、できることがあります。
三つの手順で考えましょう。
辞めた理由を正確に把握する
退職者の本音は、在職中には出てきません。
辞めた人に、落ち着いた時期に改めて話を聞くと、実態が見えます。
在職中の面談では、当たり障りのない理由しか出ません。
複数の退職者に共通する点があれば、仕組みの問題です。
判断に迷った場面を記録する
日々の判断の積み重ねが、文化になります。
人と利益がぶつかった場面を記録し、どう判断したかを残すと基準が形になります。
記録があれば、新しく入った人にも伝えられます。
判断を誤ったときも、記録しておくことで次に生きます。
外の経営者と基準を照らし合わせる
自社の判断が偏っていないかは、中からは見えません。
オンリーストーリーが運営する決裁者マッチングは、審査を通過した企業の決裁者同士が直接つながれる仕組みです。
同じ規模で同じ悩みを持つ経営者と、判断の基準を直接話せます。
一方で、商談の相手を探す目的が中心であり、情報交換だけを求める使い方には向きません。
まとめ
人を大切にする会社かどうかは、理念の言葉ではなく、人が辞めるときと採用するときの振る舞いに表れます。
働きやすさと人を大切にすることは重なりますが、成長の機会を奪う甘さとは区別が必要です。
対象は社員だけでなく取引先も含まれ、社外への姿勢と社内の評価が食い違う会社には注意が要ります。
外から見分けるときは、退職者の扱い、採用の場での説明、現場の社員の言葉、取引先への振る舞いを確かめてください。
実践している会社には、判断の基準を言葉にしている、情報を隠さない、評価を説明できるという共通点があります。
掲げるだけで終わる会社は、理念が採用にしか使われず、福利厚生の数で代替し、経営者個人の善意に依存しています。
自社で始めるなら、辞めた理由を正確に把握し、判断に迷った場面を記録するところから手をつけてください。
よくある質問
Q. 人を大切にする会社と働きやすい会社は同じですか
A. 重なりますが、同じではありません。
厳しい指摘をしない職場は居心地がよくても、成長の機会を奪っている場合があります。
居心地のよさだけを基準にすると、本人の長い目での利益を損ないます。
Q. 外からどうやって見分ければよいですか
A. 退職者の扱いを見るのが最も確実です。
円満に送り出された人がいるか、戻ってきた人がいるかを確かめてください。
採用の場で大変な部分を先に説明するかどうかも、判断の材料になります。
Q. 福利厚生が充実していれば該当しますか
A. 制度の数だけでは判断できません。
誰にも使われない制度は、会社の負担になるだけで文化を作りません。
制度の一覧ではなく、取得率や利用率を確かめてください。
Q. 自社で取り組むなら何から始めますか
A. 辞めた人に、落ち着いた時期に改めて話を聞くところからです。
在職中の面談では、当たり障りのない理由しか出てきません。
複数の退職者に共通する点があれば、個人ではなく仕組みの問題です。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。



