株式会社吉村
橋本 久美子
POSTED | 2018.08.24 Fri |
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TAGS | 従業員数:101〜300人 業種:製造業 創立:15年以上 決裁者の年齢:その他 商材:BtoB |
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“お茶業界のビジネスパートナー”として未来を拓く!
資本や規模に86年間も勝ち続けてきた中小企業Topics
マーケティング・ビジネス用語に「選択と集中」という言葉がある。企業のマーケティング活動において、事業ドメインやマーケットセグメントを特化し、そこに対して、ヒト・モノ・カネ・情報など、その企業のリソース全てを集中させるという意味だ。
筆者の経験上、株式会社吉村ほど「選択と集中」を意識し、さらにビジネスとして昇華させている企業はそうそうない。
株式会社吉村 社長 橋本久美子氏のONLY STORY
日本茶業界に徹底特化。資本力に負けない価値を提供する
株式会社吉村は昭和7年創業。2005年に橋本社長が2代目となる父親から社長を引き継ぎ、現在の取引件数は年間約8,400件、売上げは52億円にのぼる。
「当社は一言でいうと“お茶業界のビジネスパートナー”。
日本茶のパッケージ製造や、日本茶の推進、お茶に関連した菓子や雑貨の販売を通して、お茶屋さんと共に走る最良のパートナーでありたいと思っています。
そして、日本茶業界を今以上に活性化させていきます。」
と、きっぱりとした口調で語る橋本社長。その眼差しには一片の曇りもない。
日本茶のパッケージ製造では、より高品質な色彩を再現できる「グラビア印刷」や、世界実績NO.1の最先端技術を誇る「エスプリ」による少ロット印刷、ブラウザ上で発注者自らパッケージデザインを創ることのできる「マイパケ」を提供。
既製品パッケージでは、約4,000点ものアイテムの中から発注者が自由にセレクトできる「セカンドライン」が好評だ。
パッケージ製造は、フィルムの印刷・アルミ箔と貼り合せるラミネーション加工・袋のサイズにカットするスリット、袋を成型する製袋ラインという、いくつかの工程があるが、元請企業が一括で発注を請け、各工程ごとに下請企業に回すというケースが多い。
しかし同社の場合は全ての工程を自前で行っている。下請けも一切していない。
「創業から86年。今では社員数227名で年間売上52億円になりますが、いわば中小企業。大手企業の資本力とは真逆の立ち位置をとることによって、お客様に選ばれ続けてきました。
日本茶という市場に絞り、そこへの価値の向上を追求し続けることで専門性や収益性を高めてきました。
私は、祖父や父と同じように挑戦し続けてきただけです。」
と橋本社長。
日本茶業界に選択・集中したからこそ提供できる価値がある。
「通常、パッケージ製造というのは数万枚単位での発注となりますが、当社では100枚からという超小ロットからの対応が可能。規模の小さなお茶屋さんでも気軽に発注できます。
大手煎茶メーカー様は、テストマーケティングとして、少ロットで市場の反応を見て、いざ本格参入をすると判断した時に大きなロットで製造するケースが多いですが、当社は小ロットから大きなロットまで一括対応できる。これができるのは当社だけでしょう。」
デジタル印刷の世界コンテスト「ディースクープ」で4度受賞。世界に2,930台あるhp社Indigoの中で、どれだけ効率的に使用しているかという「効率性」などの4指標で同時に世界一を記録したこともある。印刷のクオリティと生産性を両立しているのだ。
「印刷をして袋を作るコンバーターは受注生産となりますが、当社では受注生産の他に4,000アイテムの既製品を取り揃えて、ウェブや冊子の商材カタログにして案内しています。
繁閑の時期は既製品を優先的に案内することで、機械の稼働率が大幅に上がり、効率性も高くなりました。
日本茶のパッケージはアルミ箔の貼り合わせが主流ですが、袋に穴が空くピンホールのリスクがあります。日本茶は空気に触れるとすぐに酸化してウーロン茶や紅茶のようになってしまいますから、当社では、丈夫で光を通さないアルミ箔を使ってラミネート加工を施すようにしています。
その分製造コストは掛かりますが、機械の稼働率を上げ、コストダウンさせることで収益を確保しています。」
既製品では、袋以外にも、箱・手提げ・包装紙・しおりのギフト商材から、インバウンド用に10カ国語の日本茶サイトを作り、QRコードを印刷すれば多言語対応できるというアプリに至るまで、煎茶メーカーが必要としそうな商材を幅広く取り揃えている。
さらに、年に2度、新商品が開発・販売され、商材カタログは毎年1回刷新しているというから驚きだ。
まさに、日本茶業界に特化した同社だからこそ成せる業だろう。
3代続く日本茶への想い。次の、そのまた次の世代へつなげてゆく
吉村はどのように生まれ、どのように育っていったのか。これまでの歩みに、同社の“お茶業界のパートナー”としての原点を見た。
「今の吉村の原点は、祖父や父が築き上げてくれた。」と橋本社長。
2代目である父から社長を継いだ橋本氏。しかし、社長としての道のりは順風満帆では無かった---。
橋本社長が社長に就任するまではトップダウンの社風。他社と競い合うのは価格のみ。これまでの社風やビジネススタイルをどう変えていけば良いのか考えても答が出ない。そこが一番もがいたという。
「そんな時にふいに出てきた言葉が“パートナー”。
『日本茶が売れなくて困るのは、私たち袋屋だけじゃなくてお茶屋さんも一緒』。
であれば、日本茶を売るために一緒に知恵を絞ったり汗を流したりできる間柄になろうと決意しました。
そういう考え方になると、私たちはまだまだ色々なことができる可能性を秘めている。
そこが、新生・吉村のスタートでしたね。」
社長就任後、まず始めたのが、消費者の実態調査を目的とした座談会。その時のあるお茶屋さんの言葉が忘れられないという。
「『若い子に売れないのは袋がダサいからだよ。』と。
すぐに女子大生を集めて話を聞くと『チャックをつけたほうがいい』『こういう色の方がかわいい』と意見が出ること出ること。
『お茶はどこで売ってるんですか?』という子までいました(笑)。お茶屋さんはお茶を飲め飲めっていうけどお茶は売ってない。お茶の素しか売ってないと。
これが今のお茶の現実かと思うのと同時に、お茶の可能性も感じました。“やれることはたくさんある”と。
あるポットメーカーが“マイボトル”のキャンペーンをしていて、マイボトルに日本茶を入れる給茶スポットの企画と事務局の提案をし、採用されました。始めは相手にしてくれませんでしたが、熱心に話しているうちに企画を理解してくれて、信用もしてくれて。
“パートナー”でいるということはどういうことかを、初めて全社員に示すことができました。」
そうした苦難の一つひとつの積み重ねが、今の“お茶業界のパートナー”としての地位を築きあげていった。
同社は、お茶を次の世代につなげていきたいという想いが強い。実際に、日本茶のことを広く情報発信し続ける橋本社長のブログを見ても、それは明らかだ。
「日本茶やお茶屋さんは、とても身近な存在でした。今はそうではありません。家計調査年報を見ても、今や国民飲料はコーヒーで、お茶といえばペットボトルという世の中。急須の所持率も2割といわれています。
明らかに日本茶は衰退している。こうした今の現状を何とかしたいという気持ちがどんどん強くなってきたんです。
お茶屋さんは“伝える”ということがとても不器用(笑)。商談でも「こういうものがあったらいいな」位の感じで。そこを当社が形にしていく。手間は掛かかりますが、だからこそ他とは違う喜びがあるんです。」
スキル以上に“気持ちのある人”と日本茶を広めたい
今後は“お茶業界のパートナー”という大きなくくりの中で、“日本茶の魅力を伝える”ということにも注力してゆくという。
「ワインや日本酒は、テイスティングをして選ぶという“プロセス”に楽しみを見いだしていますが、お茶は試飲を1種類させるだけ。お茶を広める取組みとして、様々な品種や産地のお茶を飲み比べられるテイスティングイベントを始めました。
日本茶は“お茶を淹れるというプロセス”がとても素敵です。淹れる時間とか振る舞う所作との提案もして、『日本茶を淹れるって素敵だね』と、今の若い人を振り向かせたいですね。イベントではプロが日本茶を淹れるだけで動画を撮り始める若い子もいますし。
今後も、当社は、知恵を絞って、お茶の需要を広げていきたいです。
まずは、様々な形で日本茶を体験してもらい、固定化したお茶の概念を打ち破る必要があると思っています。
コーヒーのように淹れたての日本茶をお茶屋さんでテイクアウトできる「給茶スポット」や、スタイリッシュに水出し茶を楽しんでもらえる「フィルターインボトル」も始めました。
WEBなどをもっと上手に活用して、お茶やイベントの情報発信も今以上に必要になるでしょう。
そうした新たな取組の積み重ねが、お茶のリブランディングにつながり、身近な存在になる。それこそ、吉村の目標であり、使命だと思っています。
いつか、統計資料で日本茶の消費が増加したという時には『吉村という会社も頑張ったよね』といわれたら嬉しいですね。」
吉村は、2018年「日本で一番大切にしたい会社大賞」や2017年「ダイバーシティ100選」を受賞し、日本経済新聞「やりすぎ会議改革」をはじめ、多くのメディアで紹介されている。ここ最近の新入社員の多くは、これらに刺激を受けて入社を希望してきたという。
今後の吉村を創りあげてゆくには、それに相応しい「人材」が求められる。採用にはどのような考え方をしているのだろうか。
「当社には227名の社員がいます。たまに社員数を約●●名という方がいますが、私は常に、吉村には何人の社員がいるかを把握していますし、社員全員の名字・名前を言えるし書くこともできます。
『社員』とか『みんな』という名前の人はいない。一人ひとりに違う名前があるように、一人ひとりは価値観も性格もちがう粒つぶだと思うのです。
吉村は中小企業です。小さな規模でありながら大手の資本力ではない戦い方をしてお客様に選ばれ続けてきました。私をはじめ、社員一人ひとりが、それをエキサイティングで面白いと感じながら仕事をしていけるのが夢ですね。
スキルではなく、こうしたことに心から共感していただける方と仕事がしたいのです。
“お茶業界のビジネスパートナー”という言葉はお客様に対してだけでありません。社員と会社の関係も“パートナー”として、強い絆で結ばれながら、共に喜びを分かち合いたいという想いが込められているんです。」