株式会社VERVE
久保田一
POSTED | 2019.08.02 Fri |
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TAGS | 従業員数:31〜50人 業種:IT・情報通信業 創立:15年以上 決裁者の年齢:40代 商材:BtoB |
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その開発、業務改善… 本当に必要ですか?
あるべき形と最適なコストで価値提供。成果報酬型開発Topics
今回お話をうかがうのは、株式会社VERVE(ヴァーヴ)代表取締役社長の久保田 一氏。
同社はシステムの要件定義や開発を行うIT系企業だ。システム開発においては、必要な人件費を見積もることが一般的だが、同社は成功報酬型という一風変わったビジネスモデルを取り入れている。
「依頼された要件でそのまま開発することはほとんどありません。課題をヒアリングした結果、まったく違うシステム開発に着地することも多い。」
株式会社VERVE 社長 久保田 一氏のONLYSTORY
関係性やコストを最適化。成功報酬型によるシステム開発
––「成功報酬型」でのシステム開発をされているそうですが、仕組みを教えてください。
久保田氏:基本的には、初期費用とプラスアルファの成功報酬という形をとっています。
案件によって違いますが、業務改善を目的としたシステム開発の場合は、業務改善が成功した場合に削減できる人件費や外的コストの何%かを成功報酬として取り決め、初期費用なしで開発することもあります。
–– 初期費用を設けず、純粋に改善に繋がった分の成功報酬のみで請け負うケースもあるのですね。
久保田氏:はい。しかしながら、初期費用を設けないとその後の動きがないこともあるのです。コストがかからないと、当事者意識がわかない部分があるのかもしれません。
たとえば、ECサイトを開発したものの、肝心の商品登録をしてもらえずに売上が上がらず、成功報酬が出ないということが過去にありました。そういった背景があるので、全体で見ると初期費用をゼロで受けるケースは少ないですね。それが、お互いにとってより良い関係に繋がります。
–– 成功報酬については、売上に対しての掛け率になるのでしょうか?
久保田氏:対象となるサービスによって違いますが、売上や受注件数、会員数などで成功報酬を取り決めています。
とはいえ、成功報酬で掛け率が決まっているとずっと費用が発生することを懸念する方がいらっしゃいます。そこに関しては、1年後にシステムの追加開発が発生した場合でも、大がかりな変更でなければ、追加費用はいただかずに成功報酬の範囲内で請け負っています。
そのため、追加開発の見積もりの稟議を上げる必要がなくて助かる、というご担当者も多いです。
–– 成功報酬型によるシステム開発は、受発注者のお互いの関係性やコスト等が最適化されるところに大きな利点があるのですね。
久保田氏:とはいえ、仕組みをお話ししていてもなかなかイメージがわきづらい方もいらっしゃると思いますので、もう少し具体的な事例をご紹介しましょう。
課題や問題の本質を見極め、最適解を導き出す。
–– これまでに請け負ったケースの中から具体的な事例を伺えますか。
久保田氏:事例としてご紹介したいのが、あるビルメンテナンス会社の事例です。
最初は「社内コミュニケーションツールを開発したい」というご依頼でした。その理由をお聞きしていくと、「職人を育てても、技術を身につけると独立してしまうので、離職率を下げるために社内のコミュニケーションを活発化したい」とのこと。メンテナンスという業務柄、職人技が必須なので職人さんが揃っていることが重要なのだということでした。
–– 職人を抱える経営者としては、頭の痛いお悩みですね。
久保田氏:私もそう思いながら、「具体的に職人技はどんな場面で必要になるのですか?」と聞いてみたのです。そうすると、壁のひび割れを見て、メンテナンスの方法を判断して、見積もりをする部分が職人の目利きが必要だと。実際に、画像データなどを見せてもらったところ、AIを使えば自動で判断できるのではないかと考え、自動見積もりシステムの開発をご提案させていただきました。
その後、AIの開発を得意とする企業と連携を取り、精度の高い自動見積もりシステムを作りました。結果として、これまでよりも職人の育成に力を入れなくてもよいことになり、課題を解決することができたのです。
–– 当初想定していたものとは全然違うシステムを開発することになったのですね…!
久保田氏:これは一例ですが、弊社で手掛けるプロジェクトは、実は当初クライアントから依頼された内容とは違うシステムを開発することになった、というパターンが多いですね。
–– それは、なぜでしょうか?
久保田氏:一言で言うと、クライアントの抱える課題の解決策は一つではないからです。
クライアントの多くはなにかしらの課題を感じ、その解決手段としてシステム開発をしようと考えます。しかし、システム開発の効果は未知数。多くの企業の課題を一緒に解決してきた私たちから客観的に見ると、もっと優先順位を高くして、取り組むべきことが他にあると感じることも多いのです。
そのため、当社は依頼された要件を鵜呑みにして開発することはありません。依頼にいたった背景や課題をお聞きした上で、システムの要件定義から最適な形を一緒に考えていきます。
–– システム開発という領域を超えて、業務の最適化や本質的な課題解決をされている印象があります。
久保田氏:その背景には、やはり成功報酬型で請け負っているので私たちも効果が見込めない開発は避けたいということはあります。その上で、お互いの利益と発展のために「クライアントの課題を解決するためにはなにが必要か」を深く考え抜くようにしています。
たとえば、業務改善のシステムを作りたいという依頼があった場合、「なぜ業務改善がしたいのか。その結果どんな効果を得たいのか。」という点を徹底的に掘り下げます。そうすると、実は業務改善は十分にされていて、むしろ集客に力を入れていたほうがいいということもある。
成功報酬型というビジネスモデルをとっているからこそ、常に本質的な視点をもつように意識しています。加えて、重要な視点になってくるのが、人間の深層心理を考えて改善を行うという点。
成功報酬型のシステム開発を支えるエンジニアらしくない思考とは?
–– 深層心理を考えるというのは、具体的にはどういうことでしょうか。
久保田氏:業務改善をする場合、そこには必ず人がいます。みなさん実務をしながら面倒くさいなと思っていることはたくさんあるはずです。しかし、それを変えようとする人はほとんどいない。その解決方法を提案することが、私たちの仕事。
少しドライな言い方になってしまいますが、面倒くさいと思われながらも行われている作業には余分な人件費が発生しています。その余分を効率化することはコスト削減に繋がりますよね。ただ、それは業務を効率化してリストラしようという意味ではありません。自動化することで担当者が減るなら、その分違う仕事を担当してもらうことが最適であると思うのです。
–– 今当たり前にやっている仕事は本当に人がやるべき仕事なのか、と一度考えるということですね。
久保田氏:はい。そういった話題になると、よく「AIに仕事を取られる」という話がありますよね。たしかに、単純作業だけの仕事はAIに取って変わられてしまうかもしれません。しかし、作業がAIに取って代わられたとしても本質的な仕事は決して奪われません。
–– とはいえ、業務改善を行ったり深層心理を想像するためには実務を深く知ることが必要かと思います。御社が第三者として効果的な提案をするためには、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
久保田氏:いろいろな心がけがありますが、例えばいつも「時間がかかって、大変だと思っている作業を見せてください」と伝えて、実際に見せてもらうようにしています。と言いますのも、時間のかかっている作業には効率化のヒントがあると考えているのです。そこに着目し、ヒアリングをする中で解像度を上げていく。
–– そのような視点やスキルは、もともとお持ちだったのでしょうか。
久保田氏:前職で営業とエンジニアを経験したことが、大きく影響していると私自身は思っています。その際、いい意味でエンジニアらしくない思考が身につきました。
–– エンジニアらしくない思考…ですか。
久保田氏:はい。エンジニアの中には「技術が好き」という方が多いと思っているのですが、誤解を恐れずに言えば、私は技術が好きなわけじゃないのです。
私は技術は仕事をするための手段であって目的ではないと考え、自分の技術や知見はクライアントのビジネスを加速したり、自社の収益を上げたりすることに活用したいと思っています。当社には、そのような私と似た考えを持ち、クライアントのために力を尽くし、活躍している社員がいます。
その社員には、成功報酬型のシステム開発を成功させるために、クライアントの課題を深く理解し、要件定義ができるスキルを持つエンジニアになってほしいという想いを込めて、育成にもあたっています。
きっかけは、成果への意識が薄れてしまう従来の働き方への疑問
–– 貴社の特徴である成功報酬型のビジネスモデルは、どういった背景で生まれたのでしょうか。
久保田氏:背景には、私自身がエンジニアとして自社サービスの開発に携わったことが影響しています。
前職でエンジニア職に就いていた時、プロジェクトを進める中で外部の協力会社にある業務を発注していました。見積もりは一人の技術者が何ヶ月稼働するか、つまり「何人月」という単位で見積もられていました。
システム開発では、この「人月」での見積もりが一般的なのですが、こうした見積もりに基づいて仕事をしていると、契約した時間分だけ働けばいいという考えになってしまい、それ以上のことをしようという発想が生まれにくい。
極端にいうと、役目を果たしてしまえば、開発したシステムやサービスの収益が良くても悪くても作り手がもう一度登場する場面はないのです。
–– 仕切られた時間の中で与えられた役割を果たすと「やることはやった」とみなされ、自然と成果への意識は低くなってしまう状況になっているということですね。
久保田氏:はい。従来の仕事の仕方を見ていた時に、誰が働いても成果への意識が薄くなってしまうような構造、環境になっていると思いました。
当時、自社サービスを開発しているエンジニアとして関わっていた私にとって、サービスが成功するかどうかは自分の評価や給料にも直結する大きな問題。その私から発注先の担当者を見た時、明らかな当事者意識の差を感じてしまったのです。
–– そこに、御社の成功報酬型ビジネスが生まれるきっかけがあったということでしょうか。
久保田氏:そうです。この時に体感したギャップや問題意識は、自分で独立を考えたときにも心に残っていました。「自分が外部のパートナーに仕事を依頼する立場だったら、そういうスタンスで関わってくれるような企業がいたらいいな」と感じていたことが、成功報酬型でシステム開発を請け負う形のビジネスをスタートさせたきっかけですね。「私たちが作ったサービスを、責任を持ってクライアントと一緒に運営まで携わるような一貫性を…」と。
起業後には、そのニーズが実在することを感じた場面もありました。それは、創業間もない頃のことです。サービス公開直前にクライアントの事情によって、取り組んでいたプロジェクトが中止になる可能性が出たことがありました。成功報酬型で契約していた当社としては危機的な状況だったのですが、当時助け舟を出してくださった方がいたおかげで無事に危機を脱出。
その時、助け舟を出してくださった方に伺うと「開発だけをできる会社はたくさんあるが、君の会社のようなことができる会社はそういない。潰れてしまうのはもったいないと思った。」とおっしゃっていたのです。
–– 御社の可能性を感じていらっしゃったのですね。
久保田氏:そうです。さらに、成功報酬型の開発をするほうが、エンジニアにとっても理想的な環境だと思ったのです。
エンジニアが仕事を通して夢を実現できる場所でありたい
–– 貴社の今後の展望を教えてください。
久保田氏:一言で言うと、エンジニアにとっての理想郷を作りたいと思っています。
–– エンジニアにとっての理想郷とは、具体的にどんな環境を指すのでしょうか?
久保田氏:一人ひとりが仕事を通して、夢を実現できる場所というイメージです。誰かの敷いたレールの上を何となく進むのではなく、自分がやりたいことを実現するために、自分でどうレールを敷いて行こうか。そんなことを考えられる会社でありたいと思っています。夢を実現するためにやるべきことがあるなら進んでほしいし、会社に求めることがあればどんどん言ってほしいですね。
このような想いは、創業の時から変わらず持っています。
–– 創業時からずっと…。
久保田氏:はい。創業前に自社開発や請負の開発を経験していた頃から多くのエンジニアと仕事を行ってきて、あまり議論や提案が得意ではない人が多いなと感じていました。不安や疑問があっても、それを解決できる提案を考えたり上司に提案にいったりする人は少なく、批判を口にして終わってしまうのです。私たちが思い描く理想郷を作るエンジニアは、そこで終わってしまってはいけないと思っています。
目の前の課題を解決するために尽力し、クライアントが喜ぶ仕事をし、自らの手で利益を生む。そして、その中から自分たちへ投資できる資金を作り出し、やりたいことをする。
そのような理想郷を実現するために、当社社員には夢を持ち、目標を掲げ、そのためにモチベーション高く行動できるエンジニアであって欲しいと思っています。もしも、今後私たちと一緒に働きたいと思ってくださる方がいれば、その方にもぜひそのような姿勢を持っていて欲しい。
そのような方に加わっていただき、引き続き社内での育成も進めていくことで、さらに多くに方に質の高いサービスをご提供できると考えています。
取材・執筆=池野
編集・構成=山崎
撮影=吉田