ムソー工業株式会社
尾針徹治
POSTED | 2019.07.24 Wed |
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TAGS | 従業員数:6~10人 業種:製造業 創立:15年以上 決裁者の年齢:40代 商材:BtoB |
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物を正当に評価するため、新素材へ挑戦を続けて70年
事業継承や最新技術と向き合いながら製造業の地位向上Topics
今回のインタビューは、材料開発の支援を行うムソー工業株式会社の尾針氏にお話を伺います。創業以来約70年続けてきた事業内容や、事業継承の経緯、今後のビジョンについて語っていただきました。
ムソー工業株式会社 社長 尾針 徹治氏のONLY STORY
【経歴】
1981年、東京都品川区出身。2005年、青山学院大学文学部心理学科卒。2008年までKDDIauのお客様センターに勤務。心理学で学んだ対人スキルをクレーム対応に活用。2010年、ムソー工業株式会社に入社。2017年、代表取締役に就任。
金属・樹脂業界を中心に材料開発を支援
–まずはムソー工業株式会社が手がけている事業について、お聞かせください。
尾針氏:弊社は試験片の加工や実際の試験を行うことで材料開発の支援をしている会社です。試験片とは何かと言いますと、材料の強さや機械的性質を測定するための、試験用の小片のことを指します。
そもそも、材料を開発し、できた新素材は、強度を調べないと世の中に出すことができないんですね。安全性を評価されて、初めて製品として使うことができるんです。その安全性を評価するための「材料実験」に必要なもの作りや試験そのものが弊社の仕事になります。
具体的には、用途に応じた試験片への加工作業、試験片を使った引張試験や折り曲げ試験などの試験、これらの試験で使用する道具や装置の製造、この3つがムソー工業株式会社の主な事業です。
–業界のなかでは、どのような差別化をはかっていますか。
尾針氏:常に新素材を相手にしてきたというところです。まだ誰も加工したことのないものへの挑戦を約70年間し続けてきたというのは、弊社ならではの強みだと思っています。
–実際に手がけてきた新素材の具体例はどのようなものがありますか。
尾針氏:一例をあげるとすれば、スカイツリーの足元に使われている鉄ですね。鉄と一言でいっても何百種類もありますが、あの鉄はスカイツリーのためだけに開発されていて、他にはどこにも使われていないんです。
このように、多種多様な鉄が、金属が、材料が、それぞれの用途ごとに開発されているんですね。私たちは、それらがきちんと用途に適しているかを調べて評価していくために、試験片を作り、試験を重ねているんです。
–御社の事業運営にあたって、一番重要視していることを教えてください。
尾針氏:「安全性の評価」は創業時から大切にしてきました。なぜかと言いますと、弊社の創業は1950年とまだ敗戦後間もない頃で、足りないものが山ほどあり、なにをどのような材料で作るかということが、とても大事だったんですね。
焼け野原で何もないのに、椅子が必要、机が必要、建物や乗り物が必要と必要なものばかりある。けれどきちんとした材料で作らないと、すぐに壊れたり駄目になったりしてしまう。そんな創業時の背景もあり、きちんと安全な材料を使う、安全性を評価する、というところを、創業者である祖父の代から大切にし続けてきました。
経営方針の違いが事業継承のきっかけに
–尾針様は3代目だと伺いましたが、事業を継承された経緯について教えてください。
尾針氏:事業継承のきっかけは、先代である父との経営方針の違いですね。特に人に関する方針に違いがありました。
もちろん父は様々な想いを持っていたとは思いますが、採用後の教育負担や工業業界に関する不安から、なかなか人を採用しなかったんです。それに対して私は「人を入れなければ技術の継承ができない」と危機感を持っていました。
また、弊社の創業者や2代目の時代は仕事とプライベートの線引きがありませんでした。つまりはやりたいことを仕事にしてきたんですね。だからこそ、会社を離れるという選択肢もなく、経営の交代も起こりにくくなっていました。
それでも私はこの会社を続けていきたいですし、工業の未来は暗くないと思っていますので、これからもどんどん人を入れて技術も継承していきたいと考えています。このような考え方の違いが継承の大きなきっかけになったかと思います。
製造業のイメージを「3K」を「3M」へ
–今後の展望について、短期的な目標から教えてください。
尾針氏:まず短期的には社内に、技術を継承していく流れを作りたいと思います。これまでは継承する仕組みがなく、人を入れることもなかったので、3年ぐらいで社員数と売上を倍にすることを目指していきたいです。
–長期的な目標はどのようなものですか。
尾針氏:長期的には新しい技術やテクノロジーをうまく使いつつ人が働きやすい環境を作っていきたいと思います。すぐに色々な仕事が人間からロボットに置き換わるということは起こらないと思いますが、それでも部分的にはあり得る話だと考えています。
そうなったとき、製造業において本当に人間がやらなくてはならない部分は何なのか、弊社は何をするべきなのかをはっきりさせて、 技術と人とで相乗効果を生み出していく会社になりたいですね。
–世の中にとってどのような企業になっていきたいですか。
尾針氏:製造業の地位向上の一翼を担う会社でありたいですね。
ロボットなどの工作機械は日々進化していますが、その機械を進化させているのは職人です。それにもかかわらず製造業には3K(きつい・汚い・危険)のイメージが未だに残っていて、若手人材を確保できず、技術が途絶えつつあります。
この3Kのイメージを払拭し、3Kから3M(モテる・儲かる・認められる)へ変えていきたいと思っています。そして、ものづくりの「底力」を活性化して、世界をリードする日本にしていきたいですね。
–最後に読者へのメッセージをお願いします。
尾針氏:私たちは「物を正当に評価する」ための試験片作りをを約70年続けてきました。もし物が正当に評価されなければ、乗り物、建物、使っている物すべてが信用できない、安全が保証されない、不安だらけで安心して暮らせない世界になってしまう。だからこそ、正当な評価が必要なんです。
そして、正当に評価されなければならないのは物だけでなく、社会も人も同じだと思います。不当な評価で、命が脅かされたり、安心して暮らすことができない人がいる。そんな人が一人でも少なくなるよう、安心・安全な世界を実現させることが弊社のミッションだと認識しています。
私たちの考えに賛同いただける方はぜひご連絡いただけたらと思います。
執筆=スケルトンワークス
校正=笠原