最終更新日: 2025.11.06

アカウントベースドマーケティング、通称ABMという言葉をマーケティング業界で聞く頻度が増えています。

しかし、その実態が何なのか、自社のビジネスに本当に適用できるのか、明確に理解している企業はまだ少数派です。

かつてのBtoB企業では、営業部門が大口顧客を専門に担当するのが当然でした。

ところが、マーケティングオートメーションやCRMといったツールの登場により、その古来の営業手法がテクノロジーを活用して再構築されるようになったのです。

ABMを戦略的に導入することで、限られたリソースを最大限に活用し、企業の成長を加速させることが可能になります。

本記事では、ABMとは何か、どのように実行するのか、そして導入にあたって何を準備すればよいのかについて、詳細に解説していきます。

Table of Contents

アカウントベースドマーケティング(ABM)とは

アカウントベースドマーケティングとは、特定の企業や団体をターゲットに定め、その企業固有のニーズや課題に対応したカスタマイズされたマーケティング戦略を展開する手法です。

ここでいうアカウントとは、企業や団体を指す用語であり、個人の見込み客ではなく、企業全体をターゲットにする点が大きな特徴です。

ABMの本質は、売上が最大化する顧客企業を明確に定義し、その企業に対して営業部門とマーケティング部門が一体となって、戦略的かつ組織的にアプローチを行うことにあります。

大量のリードを獲得することを目的とするのではなく、少数の高価値企業から最大の売上を生み出すことが狙いなのです。

従来のリードベースマーケティングとの根本的な違い

従来のリードベースマーケティングでは、広範囲の顧客に対して大量のリード獲得を目指してきました。

マーケティングファネルの上部で多くの見込み客を集め、段階的に絞り込んでいく、いわゆる「網を広く張る」というアプローチです。

これに対してABMは「銛で狙い撃つ」という喩えが用いられます。

最初から高価値企業を特定し、その企業に対してピンポイントで資源を投下する、全く逆のアプローチなのです。

リードベースマーケティングでは、リード数やコンバージョン率といった量的指標で成果を測定します。

一方、ABMは成約率や平均受注金額、顧客との関係構築の深さといった質的指標を重視するのです。

なぜいま企業がABMに注目するのか

ABMというコンセプト自体は、決して新しいものではありません。

大手企業の営業部門が大口顧客を専任で担当し、長期にわたって関係を構築してきた営業手法は、本質的にはABMと同じです。

しかし、近年になってABMが大きな注目を集めるようになった背景には、複数の要因があります。

・マーケティングオートメーション(MA)、CRM、SFAといったツールが普及し、企業を個別ターゲティングしたコミュニケーションが可能になりました。

デジタル化の進展により、顧客との接点が増加し、オンラインとオフラインの統合的なアプローチが実現可能になります。

データマネジメント技術の進化により、複雑なアカウント情報の一元管理と分析が容易になった

これらの環境変化により、ABMを実現するための基盤が整ったのです。

ABMが適用できる企業の条件

ABMはすべての企業に適した手法ではありません。 特定の条件を満たす企業にこそ、高い効果が期待できます。

高単価商材を扱う企業

ABMの本来の目的は、限られた企業から最大の売上を獲得することです。 したがって、高単価な商材やサービスを扱う企業に向いています。

1件の取引金額が高ければ高いほど、1社への個別対応に投下するリソースが正当化されるようになるのです。 低単価の商材では、得られるリターンが限定的になってしまい、ABMの導入効果が薄れてしまいます。

複数商材でアップセル・クロスセルが可能な企業

顧客企業から得られる売上を最大化するには、複数の商材やサービスを提供できる環境が理想的です。 初回取引後に、別の製品やサービスを提案する機会が増えるからです。

アップセル(より高額な製品への乗り換え)やクロスセル(関連製品の追加購入)が可能な企業ほど、ABMの恩恵を受けやすくなります。

大規模・中堅企業をターゲットとする企業

ABMは、一つの企業から多くの売上を獲得することを前提としているため、購買力と意思決定の複雑さを備えた企業層がターゲットになります。

大規模企業や中堅企業は、複数部門での利用や、複数の意思決定者が関わるケースが多いため、ABMの対象として最適です。

一方、個人事業主や小規模企業をターゲットとする場合は、従来のリードベースマーケティングの方が効率的です。

ABMとデマンドジェネレーションの違い

BtoB企業のマーケティング用語として、デマンドジェネレーション(需要創出)という概念が存在します。 ABMと混同されることが多いため、その違いを理解することが重要です。

マーケティングアプローチの相違点

デマンドジェネレーションは、まだ自社を知らない潜在顧客に対して、広く需要を喚起するマーケティング手法です。

業界全体に向けた情報発信を行い、その中から関心を示した企業や個人に対して段階的にアプローチしていきます。

ABMは逆のアプローチです。 最初から高価値企業を特定し、その企業独自のニーズに対応したカスタマイズされたメッセージを直接送付します。

ターゲット選定プロセスの差異

デマンドジェネレーションでは、業界や地域といった広めのセグメンテーションから始まり、段階的に対象を絞り込んでいきます。

「どのような企業が購買する可能性があるか」という仮説から出発します。

ABMは逆で、「売上が最大化する企業はどこか」という問いから開始します。

既存顧客分析や営業実績から、共通する企業特性を抽出し、それと合致する企業を戦略的に選定するのです。

両手法を組み合わせた運用方法

実務では、ABMとデマンドジェネレーションは対立する概念ではなく、相補的に機能します。

ABMで選定した高価値企業に対して直接アプローチしつつ、同時にデマンドジェネレーションで潜在層全体に対して情報発信を継続する企業も少なくありません。

ABM導入によるメリットと効果

ABMを導入することで、企業はどのような利益を得られるのでしょうか。 具体的なメリットを見ていきましょう。

マーケティングリソースの最適配分

ABMの最大のメリットは、限られたリソースを高価値企業に集中投下できることです。

従来のリードベースマーケティングでは、多くの企業に対して平等にアプローチを行ってきました。

その結果、実際には購買に至らない企業にも多くの時間と予算が消費されていました。

ABMにより、確実に売上が期待できる企業への投資を優先することで、無駄な施策を大幅に削減できるのです。

営業・マーケティング部門の連携強化

ABMの実行には、営業部門とマーケティング部門の緊密な連携が必須です。

ターゲット企業の定義から、メッセージ開発、成果測定まで、両部門が共同で進める必要があります。

この過程で、営業が持つ顧客インサイトとマーケティングが持つ分析手法が融合し、これまで以上に効果的な施策が生まれるようになります。

実際のところ、多くの企業で営業とマーケティングは分断されており、互いに異なる目標で動いています。 ABMはこの分断を統合する手段となるのです。

ROI向上と投資対効果の最大化

高価値企業に資源を集中させることで、マーケティング投資の回収率が飛躍的に向上します。

無駄な施策が減り、確実に受注に結びつく施策にリソースが集約されるからです。

顧客生涯価値(LTV)の向上

ABMでは、初回受注に至るまでのプロセスで、ターゲット企業との関係が深く構築されます。

この強い信頼関係があるため、初回受注後のアップセルやクロスセル機会が増加し、長期にわたって企業から得られる売上が大幅に増加します。

成約率と平均受注金額の増加

パーソナライズされたメッセージと提案により、顧客の関心が高まり、成約率が向上します。 同時に、複数の商材提案により、平均受注金額も増加するのです。

ABMの3つのアプローチタイプ

ABMには、リソース投下の度合いに応じた3つのアプローチが存在します。

Strategic ABM|企業と1対1の関係構築

最も個別的なアプローチがStrategic ABMです。 最も重要な顧客企業に対して、専任のアカウントマネージャーを配置し、1対1の関係を構築します。

営業資料、メール、電話、訪問など、複数のタッチポイントを通じて、その企業の決裁者層全員にアプローチを行います。 このアプローチには高いリソースが必要ですが、最大の効果が期待できます。

ABM Lite|複数企業への中程度のアプローチ

Strategic ABMと Programmatic ABMの中間に位置するアプローチです。

数十社程度のターゲット企業に対して、個別性を保ちながらも、ある程度の自動化を組み合わせたアプローチを行います。

完全なカスタマイズではありませんが、企業ごとのニーズに合わせた基本的なパーソナライズは実施します。

Programmatic ABM|自動化を活用した効率的アプローチ

数百社以上のターゲット企業に対して、マーケティングオートメーションを活用して対応するアプローチです。

デマンドジェネレーションに最も近い形で、ある程度の自動化により効率性を重視します。

ABMの実施プロセス

ABMを実行に移す際の具体的なプロセスを解説します。

ステップ1|ターゲットアカウントの選定と優先順位付け

最初のステップは、ターゲットとする企業を選定することです。

既存顧客の分析から、売上規模、利益率、長期的な取引の可能性などの観点から、自社にとって価値の高い企業の特性を抽出します。

その上で、市場全体からそれと合致する企業をリストアップし、優先順位を付けるのです。

この段階で重要なのは、営業部門と密接に連携し、営業が実感している市場動向や顧客ニーズを反映させることです。

ステップ2|ターゲット企業内のキーパーソン把握

次に、ターゲット企業内でどのような人物が購買意思決定に関わるのかを把握します。 企業規模が大きいほど、複数部門の複数人が意思決定に関わります。

各部門のニーズは異なるため、それぞれのキーパーソンの役職、責任範囲、課題意識を詳細に理解する必要があります。

ステップ3|アカウント固有のニーズ・課題分析

ターゲット企業が直面している課題や、その企業が達成したい事業目標を分析します。 財務情報、業界動向、競合状況、経営陣の発言などから、企業固有のニーズを抽出するのです。

ステップ4|パーソナライズされたコンテンツ制作

ターゲット企業固有のニーズに基づいて、カスタマイズされたコンテンツを制作します。

その企業名を入れたプレゼン資料、その企業の競合分析レポート、その企業の業界での成功事例など、汎用的なコンテンツではなく、その企業専用の資料を作成するのです。

ステップ5|営業とマーケティングの定期ミーティング実施

ABM導入後も、営業とマーケティングが毎週ミーティングを開催し、進捗状況を確認し、戦略を調整し続ける必要があります。 このミーティングなしに、ABMは機能しません。

ABM実行に必要なツール類

ABMを効率的に実行するには、複数のツールの連携が重要です。

CRM(顧客関係管理システム)の役割

CRMは、ターゲット企業の基本情報、過去のやり取り、営業履歴、担当者情報などを一元管理するシステムです。

営業とマーケティングが共有するデータベースとして機能します。

複数の営業担当者がそれぞれ異なるタイミングでターゲット企業にアプローチしても、CRMに記録されていれば、企業全体としての関係構築を進められるのです。

MA(マーケティングオートメーション)の活用

MAツールは、パーソナライズされたメール送付、スコアリング、行動トラッキングなどを自動化します。 ターゲット企業の複数のキーパーソンに対して、適切なタイミングで適切なコンテンツを送付する仕組みを構築するのです。

SFA(営業支援ツール)による進捗管理

SFAは、営業パイプラインの管理、商談進捗の追跡、予測売上の算出などを支援するツールです。 ターゲットアカウントごとの成約見込みと進捗を可視化します。

データ一元管理の重要性

これら複数のツールが連携し、顧客データが一元管理されることが極めて重要です。 孤立したデータベースが複数存在すると、営業とマーケティングの情報ズレが生じ、ABMの効果が大幅に減少します。

ABM成功のための実践テクニック

ABMを成功に導くための実践的な工夫を紹介します。

営業とマーケティング部門の組織横断的連携

ABMの成功の鍵は、営業とマーケティングが一つのチームとして機能することです。

目標設定の段階から、両部門が共同で行わなければなりません。

ターゲット企業ごとのカスタマイズコンテンツ戦略

汎用的なホワイトペーパーや提案資料では不十分です。 その企業の業界での立ち位置、その企業の経営課題、その企業の競合優位性に基づいた、完全にカスタマイズされたコンテンツが必要です。

複数の接触ポイント(タッチポイント)設計

ターゲット企業との接点は、メール送付だけではありません。

経営陣向けのセミナー、業界イベントでの出展、オンラインウェビナー、直接訪問など、複数のチャネルから継続的にアプローチを行い、顧客の認識を高めていきます。

エンゲージメント深度の測定と改善

ターゲット企業がコンテンツをどの程度閲覧しているか、どのテーマに関心を示しているか、という情報を収集し、アプローチ方法を継続的に改善します。

ABMにおける課題と対策

ABM導入には、複数の課題が存在します。

初期段階での高い準備コスト

ターゲット企業分析、キーパーソン特定、カスタムコンテンツ制作には、多くの時間と人手を要します。

初期段階では高いコストが発生することを理解した上で、導入を進める必要があります。

ターゲット企業の絞り込みの困難さ

どのような企業を選定するかという判断は、営業直感だけでなく、データに基づいた分析が必要です。

しかし、その基準を明確に定めることは、実務的には極めて難しいのです。

組織全体の連携体制の構築

営業とマーケティングが分断されている企業では、ABM推進に向けた組織的な調整が大きな課題になります。

経営層のコミットメント無しに、この連携体制は実現しません。

効果測定の複雑性

ABMの成果は、短期的には見えないかもしれません。 複数のアカウント、複数のキーパーソンとの関係構築プロセスの中で、成果がいつ現れるのかを予測することは困難です。

ABMが得られる具体的な成果指標

ABMの成果を測定する際の重要な指標を挙げます。

アカウントレベルでの成約率

個別企業ごとの成約率を追跡し、施策の効果を測定します。

企業全体の数値ではなく、アカウント単位での成約率が改善されているか確認するのです。

平均受注金額の推移

ABMにより、初回受注時から複数商材の提案が行われるため、通常のリードベースマーケティングより平均受注金額が高くなります。

その金額の推移を追跡することで、ABMの効果が可視化されます。

顧客との関係構築度の深さ

複数のキーパーソンとの接点数、企業内での提案内容の理解度、などから、顧客企業との関係がどの程度深化しているかを測定します。

既存顧客からのアップセル・クロスセル機会

ABMにより、既存顧客からのアップセル・クロスセル機会がどの程度増加したかも、重要な成果指標です。

ABMと他のマーケティング手法の関係性

ABMは単独で機能するのではなく、他のマーケティング手法と相互に作用します。

インバウンドマーケティングとの相乗効果

インバウンドマーケティングのコンテンツ戦略とABMのターゲティング戦略を組み合わせることで、より高い効果が期待できます。

コンテンツマーケティングの活用

ターゲット企業が関心を持つテーマに基づいたコンテンツを継続的に発信することで、企業の認識を高めていきます。

イベント・セミナーの役割

経営陣向けのセミナー開催やビジネスコンファレンスでの出展は、ABMにおいて重要な接点となります。

ABMの導入検討時の判断基準

ABMの導入を検討する際に、確認すべき判断基準があります。

自社ビジネスモデルの確認

高単価商材か、アップセル・クロスセルが可能か、大規模企業がターゲット層か、といった基本条件を確認します。

リソース投下可能な態勢の準備

ABMには高いリソースが必要です。 営業とマーケティング両部門で投下可能なリソースを確認しておく必要があります。

経営層のコミットメント必須要件

ABMの成功には、経営層の継続的なコミットメントが不可欠です。 短期的には成果が見えないかもしれないことを理解し、中長期的な投資として位置付ける必要があります。

まとめ

アカウントベースドマーケティングは、BtoB企業にとって極めて有効な戦略です。

限られたリソースを最大限に活用し、高価値企業からの売上を最大化することが、企業の成長の鍵となります。

テクノロジーの進化により、ABMを実行するための基盤が整いました。 今こそ、ABMの導入を真摯に検討する時期なのです。

ENICXO
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