国内における新規事業の現況
国内では経済産業省によって、新規事業・スタートアップ支援のさまざまな取り組みが行われています。
例えば、ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度や、女性・若者・シニア起業家支援資金など、新規事業者の資金調達を支援する施策です。ディープテックベンチャーとは、革新的な技術を活用して社会や経済などの問題を解決する企業のことです。人工知能や機械学習、3Dプリンターなどを活用した新規事業などが、ディープベンチャーに当たります。
また、官民連携スタートアップ支援プログラム「JーStartup」では、ベンチャー企業への投資に特化した専門家や大企業における技術革新の担当者が推奨する企業を、J-Startupの「特待生」として選定しています。スタートアップの法務支援を行う専門家チーム「スタートアップ新市場創出タスクフォース」では、規制に関する相談などが行えるなど、複数の機関によって新規事業の市場創出が推進されています。
こうした施策や支援プログラムを利用することによって、新規事業の立ち上げがスムーズになるでしょう。
新規事業を立ち上げるメリット
新規事業を立ち上げるメリットは、大きく分けて2つあります。
- 企業の持続的成長
- 経営人材の育成
それぞれ解説します。
企業の持続的成長
新規事業の立ち上げによって、企業の持続的な成長につながります。新しいサービスや商品が多くの顧客に受け入れられることによって、既存の事業に加えて新たに収益が得られるためです。
例えば、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社では、以前から広く親しまれている「コカ・コーラ」以外にも常に新しい飲料ブランドを立ち上げています。また、新規事業としてスーパーやドラッグストアなどの店舗の特徴に合わせて、視認率や購買意欲を向上させるための購買体験プロジェクトといった新しい試みを実施しています。
サービスやトレンドは絶えず変化するため、新規事業で新たなサービスを生み出すことが企業の持続的な成長に欠かせません。定番商品の需要が減り、損失が出た場合のリスクヘッジとしても重要です。
経営人材の育成
新規事業の立ち上げに携わる経験は、経営人材の育成に有効です。アイデアの創出や市場の調査・分析、事業計画の立案といったプロセスを通じて、マーケティング力や判断力が身につきます。加えて、チームで連携を図り、課題を解決しながら目標を目指す過程でコミュニケーション力やマネジメント力が養われるでしょう。
企業を持続的に成長させるために経営人材の育成は欠かせませんが、ルーティーンワークなど一般的な環境下では難しい場合もあります。新規事業の立ち上げに携わるという経験は社員を成長させ、結果として経営や企画、販売といった企業力を底上げするでしょう。
新規事業の立ち上げにおける8つのプロセス
新規事業の立ち上げには、人材や社内に蓄積したノウハウが必要になります。自社のみで新規事業を立ち上げる難易度は高いため、取り組む際には以下8つのプロセスを参考にしてみてください。
- 新規事業のアイデアを決定する
- アイデアに合った担当者を決定する
- 事業のコンセプトを明確にする
- 市場の調査を行う
- 顧客のニーズを把握して自社課題を顕在化する
- 事業シナリオを設計する
- 事業計画を立てる
- 実行して成果を検証する
各ステップの詳細を紹介します。
1.新規事業のアイデアを決定する
まず、どのような新規事業を立ち上げるのかを慎重に検討しましょう。必ずしも経営者が発案するわけではなく、現場で働く社員から直接アイデアが創出されることがあります。また、コンテスト形式でアイデアを募るのも1つの手段です。
日頃から風通しよく、役職に関わらず意見を交換できる社風であれば、画期的な新規事業のアイデアが出たり、1つのアイデアをより深いものに発展させたりできる可能性が高まるでしょう。
2.アイデアに合った担当者を決定する
新規事業のアイデアに合った担当者を決定します。アイデアの発案者をそのまま担当者に据えるか、新規事業の分野に精通した人材を選定しましょう。
社員から新規事業のアイデアが出た場合、発起人をそのまま担当者に任命すると、熱意をもって新規事業の立ち上げに従事してくれるという期待が持てます。
人材を選ぶ際は、主体性や論理的思考力の高さなどの適性を考慮するといいでしょう。企業としてではなく、顧客目線でサービスを捉えられる客観的視点を持ち合わせているかも重要です。
3.事業のコンセプトを明確にする
アイデアをもとに、事業のコンセプトを明確にします。発案したアイデアによって誰のどのような課題や悩みを解決できるのか、またベネフィットを与えられるのか、構想を具体化したものが事業コンセプトです。
ベネフィットとは得られる利益や恩恵のことであり、機能面だけに限らず満足や楽しさなど心理的なものも含みます。事業のコンセプトを決める際には、企業理念に即して考えましょう。
例えば、歯磨き粉や洗濯用洗剤手洗いソープなどの生活用品を提供するライオン株式会社は、「よりよい習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」(ReDesign)を企業理念に掲げています。オーラルケア事業では「人々の健康な毎日を支え、一歩進んだオーラルケアを実現すること」をコンセプトに、生活に欠かせない商品を展開しています。
コンセプトを明確にすると社員の目的意識も高まる上、市場でのポジションも確立できます。結果、顧客に認知してもらいやすくなるでしょう。
4.市場の調査を行う
事業を展開する分野の市場調査を行います。重要なのは、提供するサービスの需要がどの程度あるのか、当該分野の成長性や顧客数、参入企業数などを詳しく把握することです。
調査方法はインターネットを活用したアンケート調査や街頭アンケート、電話によるアンケート、あるいは電話やオンラインツールによるインタビューなどさまざまです。アンケート調査では、市場における顧客の人数や割合、傾向値などを集計できます。
インタビューでは、数量や割合では表しづらい潜在的な情報を収集できます。インタビューの対象者の自宅に、試供品などを郵送して情報を集める「ホームユーステスト」も、取り扱うサービスや商品によっては有効です。実生活に近いところで試してもらうことによって、より明確な使用感や意見を得られます。
5.顧客のニーズを把握して他社サービスと差別化する
市場調査の結果を分析し、顧客のニーズを把握して他社サービスと差別化しましょう。
例えば、オンライン商談ツールの導入を検討している顧客のニーズは、「効率的に商談を実施したい」ということです。ツールはニーズを満たすための手段です。より商談を効率的に行える手段があれば、そちらの方がニーズを満たす事になります。つまり、オンライン商談ツールを導入するよりも安く、効率的に商談を実施できるサービスを提供できれば、受注を獲得できる可能性があります。
このように、顧客のニーズを把握すれば、他社サービスよりも顧客に訴求できるサービスを展開できます。
市場の傾向や顧客ニーズを把握しておかなければ、新規事業の存続は難しいでしょう。提供するサービスがブルーオーシャンだと思っていたら、実は顧客が存在しなかったという結果になりかねません。反対に、レッドオーシャンでも競合と差別化できれば勝ち目はあります。新規事業を成功させるためには、しっかりとした市場調査を行いましょう。
6.事業シナリオを設計する
新規事業の立ち上げ後に起こり得る、複数のシナリオを設計しておきましょう。新規事業では、予算の確保が難しいことや人材不足、チームの統率が図れないといった事業内部の問題以外にも、予測が難しい突然の対応を迫られることがあります。
例えば、新型コロナウイルスの影響によってオフィスへの出勤のほか、顧客元への訪問営業も困難になりました。しかし、不測の事態に備え、あらかじめオンライン商談ツールなどを用いてインサイドセールスを行っていれば、免れた損失もあったはずです。
このように、事前に綿密なシナリオを設計することによって課題を効率的に解決できます。また、緊急事態時に柔軟に経営戦略や事業スタイルを変更できる体制にしておくことによっても、損失を最小限に抑えられます。
7.事業計画を立てる
事業シナリオ設計後は、新規事業計画を立てます。新規事業計画書は、経営者の承諾はもちろん、金融機関から融資を獲得するために欠かせません。計画書には、ここまでのプロセスで紹介した事業のアイデアなど発足の背景やコンセプト、顧客に提供する価値、サービス・商品の仕組み、マネタイズの方法、終始計画などを具体的に記載します。経営者や金融機関の担当者を納得させられるような明瞭な内容が求められる重要な書類です。
市場の動向や顧客ニーズの分析、競合調査などをしっかりと行った形跡が確認でき、なおかつ売上の見込みが立つ計画書であれば経営者の承諾や金融機関の融資を受けられるでしょう。
8.実行して成果を検証する
新規事業の立ち上げ時には、事業計画書に沿って実行し、適宜成果を検証します。計画通りに事業展開できているのかどうかを確かめ、課題が見つかれば修正しましょう。シナリオ設計が綿密に行われていれば、課題を発見した時にもスムーズに対処できます。
新規事業立ち上げのメンバーのみにたよらず、必要に応じて社外研修やコンサルティングなどを活用すると、客観的な視点でサービスを見直すきっかけとなります。
こうしたPDCAサイクルを実施して改善を積み重ねることにより、サービスや商品の質が高まる上、自社にノウハウが蓄積していくでしょう。
新規事業の立ち上げに重要なポイント5つ
ここでは、新規事業の立ち上げに必要なポイントを5つ紹介します。
- 自社の強みを活かし、他社と差別化を図る
- 少数精鋭をアサインする
- 補助金・助成金を利用する
- KGIと撤退条件の設定
- 新規立ち上げに有効なフレームワークを利用する
1.自社の強みを活かし、他社と差別化を図る
新規事業の立ち上げに重要なポイントの1つ目は、自社の強みを活かし、他社と差別化を図ることです。同じサービスを取り扱う競合が多い場合でも、自社の強みを活かせば活路が見出せます。
例えば、サービスや商品を展開する地域または年齢によるセグメンテーションは有効です。競合の大手企業が全国に同じ内容のサービスを展開するなら、各地域に密着した内容に変更することによって差別化できます。また、ターゲットの年齢を限定することによっても、特定層に訴求できます。
新規事業を立ち上げた後、獲得した顧客のセグメント分析およびリードナーチャリング(顧客育成)を行うことによって、自社の強みを把握するといいでしょう。ニーズはあるものの競合他社に提供できていない、自社だけが提供できる価値を見つけることが、新規事業立ち上げの成功につながります。
2.少数精鋭をアサインする
新規事業の立ち上げ時には、少数精鋭をアサインしましょう。新規事業の経験者がメンバーなら、事業計画に加えて立ち上げ後のスムーズな進行が望めます。
メンバーが多ければ労働力は増えるものの、コミュニケーションのスピードやサービスの質は落ちるリスクがあります。それぞれの営業担当者が顧客を管理することによって、対応が煩雑になることもあるためです。社内に蓄積したノウハウがあれば、ある程度の人数で事業展開できる可能性はあるものの、属人化しがちな営業においては一部の営業担当者の雑な対応によって、イメージダウンを招きかねません。
人的コストも考慮してはじめは少数で立ち上げ、成果検証を行った上で必要に応じて増員するといいでしょう。
3.補助金・助成金を利用する
資金が必要な場合は、新規事業やスタートアップを支援する補助金・助成金を利用しましょう。国や地方自治体では、要件を満たした企業に対して、返済不要な支援金として資金を提供しています。受給するには一定の資格や申請・審査をクリアする必要があります。
IT導入補助金やものづくり補助金、JAPANブランド育成支援事業といった給付金制度のほか、融資や税制処置、委託費など、新規事業の立ち上げに向いた支援制度は多くあるため、「スタートアップ支援策 (METI/経済産業省)」のサイトより確認してみてください。
4.KGIと撤退条件の設定
KGIとは、最終的な目標に対して達成度合いを測る指標です。「Key Goal Indicator」を略してKGIと呼びます。新規立ち上げ時には、KGIと撤退条件を併せて設定しましょう。KGIを設定すると、目標に向けて行った施策が適切だったのかを判断できます。加えて、評価基準も明確になり、営業担当者それぞれの課題を見つける、あるいは優れたノウハウを見つけて共有するなど、営業を可視化できます。
また、新規事業による損失を最小限に抑えるために、撤退条件も設定しておきましょう。時期や売上などの条件、継続あるいは撤退を最終的に判断する人物を決めておくと、躊躇なく撤退を決断できます。
5.フレームワークを利用する
新規事業立ち上げのプロセスを効率的に進めるには、フレームワークを利用するといいでしょう。仕組みを使ってアイデアを出したり、市場分析したりすることによって論理的な結論につながる上、意思決定をスピーディに行えます。
特に新規事業の場合は思慮を重ねるため、結論が何度も変わるなど一貫性がなくなってしまう場合もあります。新規事業の立ち上げ時には、有効とされているフレームワークを試してみると事業の方向性や改善点を導きやすくなります。
次の項目では、新規事業の立ち上げに役立つフレームワークを紹介します。
新規事業の立ち上げに役立つフレームワーク
新規事業の立ち上げに役立つフレームワークは次の5つです。
- PEST分析
- 3C分析
- SWOT分析
- ポジショニングマップ
- ビジネスモデルキャンバス
1.PEST分析
リスクの想定およびその対策の立案など、事業シナリオの設計には、PEST分析が有効です。PEST分析とは、新規事業に影響を与える可能性を持つ外部環境を政治と経済、社会、技術の4つの要因に分けて、分析する方法です。PESTとは、以下の頭文字をまとめた造語です。
- Political(政治的要因)
- Economical(経済的要因)
- Social(社会的要因)
- Technological(技術的要因)
新規事業が軌道にのるかどうかは、トレンドの変化といった外的要因の影響を受ける場合もあるため、PEST分析を活用してリスクに備えましょう。ただし、PEST分析は内部環境の分析や短期的な分析には不向きです。他のフレームワークと併せて活用してみてください。
2.3C分析
3C分析とは、自社や顧客、競合を含めた事業環境を分析する方法です。Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の頭文字を合わせて3Cと表します。
市場における自社のポジションや顧客のニーズを明確にし、競合と差別化を図るのに有効です。外部環境を分析するPEST分析と合わせて使うことによって、外部と内部それぞれの環境を把握しやすくなるでしょう。
3C分析を利用する際は、顧客、競合、自社の順に分析します。ターゲットとなる顧客が明確でなければ、競合と自社の分析にずれが生じるためです。正しい順番で正確に分析を行いましょう。
3.SWOT分析
SWOT分析では、PEST分析で集めた外部環境情報と3C分析で集めた内部環境情報を、それぞれ分けて分析します。SWOTとは、以下4つの頭文字を合わせた造語です。
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
分析時は、双方のプラス要因とマイナス要因を分析して、事業の戦略目標を設定します。マーケティングの意思決定や事業戦略の策定、経営資源の最適化などに使用するのが一般的ですが、戦略決定後に活用されることもあります。
自社のサービスや商品の得手不得手に加えて、特定の外部要因によって受けるであろうプラス要素とマイナス要素を把握する際に有効です。
4.ポジショニングマップ
市場におけるサービスの価値や競合と比較した場合の優位性など、自社サービスのポジションを明確にするのがポジショニングマップです。より顧客ニーズに刺さる商品の開発・提供に役立ちます。
縦・横の2軸で構成されるポジショニングマップには、それぞれのサービス名や価格、特徴などを比較しやすいように記載し、自社サービスのポジションを可視化します。自社の強みを活かして競合と差別化を図るなど、事業戦略を策定時に活用するといいでしょう。
5.ビジネスモデルキャンバス
事業の構造を設計図のように現すビジネスモデルキャンバスは、ビジネスの全体像をわかりやすく把握できます。顧客や顧客に提供できる価値、顧客との関係、販路、マネタイズの方法など、事業のあらゆる要素を可視化することによって、チーム内でビジネスモデルのイメージを共有し、円滑なコミュニケーションにも役立ちます。
発案したアイデアを深掘りして精度を高めることや、事業を説明する際の参考資料としても活用できる便利なフレームワークです。
新規事業の立ち上げには8つのプロセスとフレームワークを活用しよう
新規事業の立ち上げは、企業を持続的に成長させる手段であり、経営人材の育成にも有効です。立ち上げを自社のみで行うには、経験者および蓄積した社内ノウハウがなければ苦労する場合もあるでしょう。紹介した8つのプロセスと重要な5つのポイント、そしてフレームワークをぜひ活用してみてください。
(本文執筆・編集:オンリーストーリー編集部)
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(コメント:代表平野)