監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
SaaS営業では契約の獲得だけでなく、継続利用の促進が収益を左右します。
売り切り型とは前提が異なるため、手法も大きく変わります。

SaaS営業の手法を、売り切り型との違いから整理。インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの3プロセス、LTVや解約率などの重要指標、成果を出す実践手法を解説します。
SaaS営業とは、クラウド型ソフトウェアをサブスクリプション形式で提供する際の営業活動を指します。
契約獲得だけでなく、顧客の継続利用を促進し、長期的な関係を構築することが最大の特徴です。
SaaS営業は売り切り型営業とは根本的に異なるビジネスモデルに基づいており、営業手法も大きく変わります。
この違いを理解することが成功の第一歩です。
従来の売り切り型では、契約時に大きな金額が動き、取引完了で営業活動は終了します。
しかしSaaSでは月額料金が基本で、初回契約額は比較的小さくなります。
重要なのは顧客がサービスを何年継続利用するかという点です。
月額5万円でも3年継続すれば180万円、5年なら300万円の収益となります。
そのため営業担当者は短期的な売上ではなく、長期的な顧客価値の最大化を目指す必要があります。
この特性により、無理な営業で契約を取っても早期解約されれば意味がなく、顧客が本当に必要としているかを見極める姿勢が求められます。
SaaS営業では契約後のフォローアップが売上に直結します。
顧客満足度が低ければ翌月には解約されてしまうため、導入後も定期的なコミュニケーションが不可欠です。
売った後こそが本当のスタートであり、顧客がサービスを使いこなせるよう支援し、成果を実感してもらうことで継続率が高まります。
営業は顧客のビジネスパートナーとして長期的に伴走する役割を担います。
また顧客の利用状況を把握し、追加機能の提案やアップセルの機会を見つけることも重要です。
信頼関係を築くことで、顧客単価の向上と解約率の低下を同時に実現できます。
SaaS営業は分業制が特徴で、マーケティングから契約後まで各段階に専門チームが存在します。
効率的な営業活動を実現する3つの主要プロセスを解説します。
インサイドセールスは、マーケティングが獲得したリードに対して電話やメールでアプローチし、商談の機会を創出する役割です。
見込み客の課題やニーズをヒアリングし、確度の高い顧客をフィールドセールスに引き渡します。
効果的なインサイドセールスには、トークスクリプトの整備が重要です。
顧客の業界や規模に応じた質問項目を準備し、短時間で的確に情報を引き出します。
また営業支援ツールを活用してリードの行動履歴を分析し、最適なタイミングでアプローチすることで商談化率が向上します。
データに基づいたパーソナライズされた対応が成果につながります。
フィールドセールスは実際に商談を行い、契約締結を目指す役割です。
オンラインまたは対面で顧客と直接対話し、製品の価値を伝えながら導入提案を行います。
SaaS製品は顧客の業務プロセスに深く関わるため、単なる機能説明ではなく、顧客の課題解決にフォーカスした提案が求められます。
ROI(投資対効果)を明確に示し、導入後に期待できる具体的な成果を提示することで、意思決定を後押しします。
また導入障壁を下げるため、無料トライアルやデモ環境の提供も効果的です。
実際に触れてもらうことで製品価値を体感してもらい、成約率を高めます。
カスタマーサクセスは契約後の顧客を支援し、サービスの継続利用と満足度向上を図る役割です。
SaaS営業において最も重要なプロセスの一つといえます。
定期的に顧客とコミュニケーションを取り、利用状況を確認しながら課題をヒアリングします。
製品を使いこなせていない顧客には活用方法を提案し、効果を最大化するサポートを提供します。
また顧客の成長段階に応じてアップセルやクロスセルの提案を行います。
単なる売上拡大ではなく、顧客のビジネス成功を第一に考えることで、長期的な信頼関係が構築されます。
解約の兆候を早期に察知し、適切な対応を取ることも重要な役割です。
SaaS営業では従来の売上だけでなく、複数の指標を追跡して営業活動の健全性を評価します。
主要な3つの指標を理解しましょう。
LTVは顧客が契約から解約までに支払う総額を示す指標です。
SaaSビジネスでは最も重要な指標の一つで、営業活動の成果を測る基準となります。
月額料金×継続月数で計算され、例えば月額10万円のサービスを平均24ヶ月継続する顧客のLTVは240万円です。
LTVが顧客獲得コストを大きく上回る状態を維持することが、ビジネスの持続可能性を示します。
LTV向上には継続率の改善、顧客単価の引き上げ、利用期間の延長が有効です。
カスタマーサクセスによる満足度向上や、アップセル・クロスセルの成功がLTV増加に直結します。
Churn Rateは一定期間内に解約した顧客の割合を示す指標で、SaaSビジネスの健全性を測る最重要指標です。
月次での解約率が一般的に計測されます。
業界標準として月次解約率2.0%以下が目安とされています。
解約率が高いとどれだけ新規顧客を獲得しても成長できず、ビジネスモデルが成立しません。
解約率を下げるには、適切な顧客をターゲットにすることが重要です。
自社製品にマッチしない顧客に無理に販売しても、結局は早期解約につながります。
また導入初期のオンボーディング支援を充実させ、顧客が製品価値を早期に実感できるようサポートすることも効果的です。
ARRは年間経常収益、MRRは月間経常収益を表す指標で、SaaSビジネスの安定性と成長性を示します。
一時的な収入を除いた、継続的に見込める収益を把握できます。
ARRは事業計画の策定や投資判断の基準となり、MRRは月次での成長トレンドを把握するために使われます。
これらの指標が右肩上がりで推移していることが、健全な成長を示します。
新規契約による増加だけでなく、既存顧客のアップグレードや追加購入による増加も含まれます。
解約による減少を上回るペースで増加し続けることが、成長企業の条件です。
理論を理解した上で、実際の営業活動で成果を出すための具体的な手法を3つ紹介します。
これらを実践することで競合との差別化が図れます。
SaaS営業では製品機能の説明ではなく、顧客の課題解決にフォーカスした提案が求められます。
まず徹底的なヒアリングで顧客が抱える真の課題を把握します。
表面的な要望だけでなく、その背景にある業務プロセスの問題点や、達成したい目標を深く理解することが重要です。
Why(なぜそれが必要か)を繰り返し質問し、本質的なニーズを引き出します。
その上で自社製品がどのように課題を解決し、どんな成果をもたらすかを具体的に示します。
事例や数値データを活用し、導入効果を可視化することで説得力が高まります。
アドバイザーとして顧客の成功を支援する姿勢が信頼獲得につながります。
SaaS営業では各プロセスがデータ化されるため、数値に基づいた改善活動が可能です。
CRMやSFAツールを活用し、商談の進捗状況や顧客の行動データを収集・分析します。
どの施策が成約につながっているか、どの段階で離脱が多いかを把握し、ボトルネックを特定します。
データに基づいて営業プロセスを継続的に改善することで、組織全体の生産性が向上します。
また顧客セグメント別の成約率や継続率を分析し、優先的にアプローチすべきターゲットを明確にします。
リソースを効果的に配分し、ROIの高い営業活動に集中できます。
トップセールスの行動パターンを分析し、成功要因を組織全体に展開することも有効です。
SaaS営業の成功には、マーケティング、営業、カスタマーサクセス、開発部門の密な連携が不可欠です。
各部門が孤立せず、顧客情報や知見を共有する体制を構築します。
マーケティングが獲得したリードの質をフィードバックし、ターゲティング精度を高めます。
営業が把握した顧客ニーズを開発部門に伝え、製品改善に反映させます。
カスタマーサクセスが得た利用状況データを営業にフィードバックし、提案の質を向上させます。
定期的な部門横断ミーティングを実施し、顧客の成功事例や課題を共有することで、組織全体が顧客中心の視点を持てます。
部門の壁を越えた協力体制が、顧客満足度の向上と継続率の改善につながります。
SaaS営業は従来の売り切り型営業とは全く異なるアプローチが必要です。
サブスクリプション型ビジネスモデルでは、契約獲得だけでなく継続利用の促進が収益の鍵を握ります。
インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという3つのプロセスを分業化し、各段階で専門性を発揮することが効率的な営業活動につながります。
LTV、Churn Rate、ARRといった指標を重視し、データに基づいた改善を継続することも重要です。
顧客課題の深掘り、データドリブンな活動、部門間連携の強化という3つの実践手法を取り入れることで、競合との差別化が図れます。
顧客の成功を第一に考え、長期的なパートナーとして伴走する姿勢がSaaS営業の成果を左右します。
市場が拡大を続けるSaaS業界において、これらの手法を習得することがキャリアの成功にもつながるでしょう。
A. 売り切り型は契約で活動が完了しますが、SaaSは契約後の利用継続が収益に直結します。
導入後のフォローまで営業活動の範囲に入ります。
そのため、受注時点で導入後の活用方法まで顧客と共有しておくことが大切です。
A. リードへの初期対応、商談、契約後の定着支援では求められる動き方が異なります。
役割を分けると各段階に専念でき、引き継ぎの基準も明確になります。
一方で部門間の連携が弱いと顧客の体験が損なわれるため、情報共有の仕組みも整えましょう。
A. LTV、解約率、ARR・MRRが中心です。
一時的な収入を除いた継続収益で、事業の安定性と成長性を把握します。
指標を定期的に確認し、どの段階に課題があるかを把握することが大切です。
A. 契約後も定期的に利用状況を確認し、活用が進んでいない点を早期に見つけます。
導入目的が達成されているかを軸に支援します。
利用状況のデータを定期的に確認し、変化があれば早めに連絡する体制を作りましょう。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。