営業代行に契約書は必ず必要か
営業代行を依頼する際、契約書は必ず必要ではありません。法律上、契約を成立させるのに必要な要件は、一部の例外を除き、当事者の合意だけとされているためです。
例えば、企業がエアコンを購入する際、販売代理店に品番を伝え販売代理店が受注すれば、売買契約が成立します。個人経営の飲食店でのアルバイトも、契約書を書かずに働けることもあります。つまり、契約書は必ずしも必要ではないのです。
ただし、営業代行を依頼する際は、契約書を作成し契約を交わすのが通例です。具体的な業務内容を取り決め、契約書を交わさなければ、金銭面や契約期間などの認識のズレによりトラブルを招く可能性があるからです。
これらのトラブルを未然に防ぐには、取り決めた内容を明記した契約書を交わす必要があります。契約書があることで安心して営業代行を依頼できます。
営業代行における契約の種類
営業代行を依頼する際に結ぶ契約は、一般的に「業務委託契約」と呼ばれます。
業務委託契約とは、企業が自社の業務の一部を外部に委託する際に、受託者との間で取り交わす契約のことを指します。営業代行では、テレアポや顧客リストの作成など、様々な業務を依頼できます。依頼時には、業務委託契約を取り交わすのが一般的です。
とはいえ、業務委託契約は、民法上で定義されている契約類型ではありません。一般的に業務委託契約と呼ばれているのは、請負契約や準委任契約に該当することが多いです。請負契約は民法第632条、準委任契約は民法第656条にて定められています。
以下で、請負契約、準委任契約について解説します。
請負契約
請負契約とは、依頼した企業が請負者に報酬を支払うことを約束する契約です。請負契約は成果に重きを置いており、契約で定めた成果を達成できなければ原則として報酬は発生しません。
請負契約における仕事には、建物の設計や建築、ソフトウェア開発、講演や演奏などが該当すると考えられています。営業代行では、アポイントの獲得や商談の制約、商品の受注など、売上に関する事柄について請負契約をすることが多いです。
また、もし成果物に不備や納品後の不具合が発生した場合、営業代行会社はそれらを修正する義務があります。
成果物の定義や期日など、請負契約の具体的な内容については、事前に両者で話し合い、内容を確認してから契約を取り交わします。
準委任契約
準委任契約は、受託者が委託された業務を遂行することを目的としています。準委任契約は業務の遂行に重きを置いており、業務が滞りなく遂行されていれば成果がなくても報酬が支払われます。マーケティングやコンサルティングなどの業務は成果を上げる義務を負わないため、準委任契約に該当します。
ただし営業代行では、テレアポの件数やアポイントの獲得件数など、成果に応じた報酬を設定することもあります。準委任契約であっても、基本報酬とは別に、成果を上げた場合の報酬を設定できます。
準委任契約に似た名称の契約に、委任契約があります。委任契約は、業務処理や一定の行為の遂行に対する報酬を支払う契約形態です。民法第643条にて定められており、弁護士、税理士、会計士など士業の業務が該当します。営業代行を依頼する際に委任契約を取り交わすことは少ないです。
また本記事では、請負契約と準委任契約の総称として「業務委託契約」を用います。
営業代行における契約書の種類
企業と営業代行会社とが業務委託契約を結ぶ場合、業務委託基本契約書を取り交わします。業務委託基本契約書には、全ての取引に共通する事項を記載します。
業務内容や契約期間、業務委託料などの変更になる可能性がある項目は、別途、個別契約書を作成して契約を取り交わすのが一般的です。
この項目では、業務委託基本契約書と個別契約書の記載内容について詳しく解説します。
業務委託基本契約書に記載する主な項目
業務委託基本契約書に記載する主な事項は次の通りです。業務委託基本契約書には、営業代行サービスの実施についての確認事項、相互協力と情報開示、契約期間、料金、実施報告などについて盛り込みます。
- 契約の目的
- 契約期間
- 更新の方法
- 報酬に関する規定
- 契約解除について
- 損害賠償について
- 裁判管轄 など
個別契約書に記載する主な項目
個別契約書には、個々の取引内容や業務の種類などを記載します。個別契約書に記載する事項には次のようなことが挙げられます。
- 取り扱う商品やサービス
- 訪問エリアや訪問先
- 成立の要件
- 数量
- 代金
- 目的物の引き渡しの時期と方法
- 代金の支払時期と方法 など
業務委託基本契約書と個別契約書の両方を用いる場合、通常、優先されるのは業務委託基本契約です。個別事項がある場合は、別途、個別契約で定めます。その際、契約内容に齟齬があった場合はどちらの契約を優先するか、記載します。これらを記載しておけば、トラブルを避けられるでしょう。
また、契約の内容によって、受注者が発注を受けたことを証明する請書や注文書を交わすだけで済む場合もあります。契約時には、どの契約書が適切なのか、事前に確認します。
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営業代行の契約書を交わすタイミング
業務委託基本契約書は、契約内容について委託者と受託者双方の合意を得たタイミングで交わします。
個別契約書は、業務委託基本契約書で定めたタイミングに従って取引ごとに交わします。業務委託基本契約書に定められていなければ、発注前に取り交わすことがほとんどです。
実際には、契約を交わす前に、営業代行会社から、契約書や契約書のドラフトを提示されることが多いです。依頼側の企業は、社内体制に沿って確認を取ります。
契約書は、一度合意してしまうと後から修正を加えることが難しいです。また、契約後に修正の打診や依頼をすると、これから自社の営業活動を依頼するのに、相手の心証が悪くなるかもしれません。トラブルを避けるために契約書を交わすことを念頭に置き、妥協できない条件などは修正してもらえるよう交渉すべきです。
営業代行の契約書を交わす流れ
営業代行を依頼する際、契約書を取り交わす流れは次の通りです。
- 事前打ち合わせ
- 報酬形態・振込時期の合意
- 報告や連絡手段・営業方針の取り決め
- 契約書の確認
- 秘密保持の確認
- 契約書の作成
それぞれについて順を追って紹介します。
1.事前打ち合わせ
依頼する営業代行会社が決定したら、その会社と事前に打合せを行います。業務委託基本契約書や個別契約書における業務の具体的な取り決めをすり合わせます。
営業とはいえ、業種や依頼内容によって業務内容は大きく異なります。そのため、実際にどの業務を代行してもらうのかを明確にしておきます。例えば、対応する業務はテレアポや訪問販売だけなのか、あるいは商談や受注までなのか。加えて、対応可能な地域など、具体的な内容まで確認します。
また、金銭的なトラブルを避けるため、報酬が発生する要件も明確にしましょう。
2.報酬形態・振込時期の合意
営業代行の報酬体系は、固定報酬や成果報酬、複合型の大きく3種類あります。契約時には、報酬形態と具体的な料金を明確にします。加えて、報酬の入金時期と支払い方法についても取り決めます。交通費など、業務に応じてかかる必要経費についての規定も必要です。
3.報告や連絡手段・営業方針についての取り決め
営業代行会社からの業務報告や連絡の手段、営業方針などについて取り決めます。営業代行会社に業務を委託する場合、依頼する側が営業担当者に直接指示を出す権利は基本的にありません。そのため、営業代行会社との連絡や報告の手段、営業方針についての取り決めは非常に重要です。
営業方針の違いや報告漏れなどから、トラブルにつながる可能性も少なくありません。そのため、詳細まですり合わせる必要があります。
4.契約書の確認
契約書の記載内容が、双方で打ち合わせした内容と相違ないか確かめます。契約書を営業代行会社が作成して提示する場合、細部まで確認すべきです。
確認時には、契約内容が自社にとって不利益にならないか、念入りにチェックします。自社内に法務担当部署があればそこに、なければ法律の専門家にチェックを依頼します。
仮にトラブルになった場合、契約書は裁判などで使用する重要な資料となります。弁護士など法律の専門家に確認してもらうと安心です。
5.秘密保持の確認
秘密保持契約とは、自社が持つ情報を他社に開示する際、その情報を秘密に保持する方法などを取り決めます。営業代行会社を通じて情報が漏えいしないようにするため、秘密保持契約の内容について確認します。
秘密保持には秘密保持条項と秘密保持契約があり、いずれかを取り交わします。秘密保持条項は契約の一部として規定され、秘密保持契約は単独の独立した契約として取り交わします。
いずれの場合も、情報を開示する前に契約を取り交わすのが一般的です。対象となる情報の内容と開示範囲、使用目的、情報を交換する期間と秘密を保持する期間、情報の返還方式、漏えい時の対処方法や補償などを明確にしましょう。
秘密保持について取り決めない場合、自社の情報漏洩のほか、その情報を利用されるリスクもあります。
6.契約書の作成
契約書は、契約当事者双方が記載内容について合意したことを証明する書類です。契約当事者双方が保管できるよう、2通作成します。
法人の取引に関する契約書の保管期間は法人税法で定められており、通常7年です(2022年9月時点)。紙のほか、マイクロフィルムや電子データで保管する方法もあります。
営業代行の業務委託契約書の項目
この項目では、営業代行委託に関する契約書に記載すべき項目を紹介します。表題は「業務委託契約書」です。
契約の目的と契約当事者の特定
株式会社○○(以下「甲」という。)と株式会社〇〇(以下「乙」という。)とは、甲が乙に対し甲の商品または役務等の販売に関する支援・サポート業務(以下「本件業務」という。)を委託するにあたり、以下のとおり契約する。
- (契約の目的)
- (本件業務の内容)
- (顧客との契約(本件業務に含まれない行為))
- (相互協力)
- (契約期間)
- (業務委託料金、支払方法)
- (報告義務)
- (善管注意義務)
- (秘密保持)
- (個人情報の取扱)
- (権利義務の譲渡禁止)
- (契約解除)
- (損害賠償責任)
- (乙の免責条項)
- (契約終了時の措置)
- (協議解決)
- (合意管轄)
営業代行の契約書を交わす際の注意点
この項目では、営業代行の契約書を取り交わす際の注意点を紹介します。
収入印紙が必要な場合がある
営業代行の場合、契約の種類によって印紙税が必要な場合と不要な場合があります。印紙税とは、経済的な取引などのために契約書や領収書などの文書を作成する場合、印紙税法に基づいてその文書に課税される税金です。
業務委託基本契約書のうち、準委任契約は課税文書に該当しないため印紙税は不要ですが、請負契約の場合は印紙税が課税されます。特例を除いて、課税される印紙税は税金の支払いのために発行される収入印紙を購入して支払います。収入印紙は、契約書に貼り付けます。
また、貼付する収入印紙の額面は、契約金額に比例して高額になります。
契約金額 | 印紙税額 |
1万円未満 | 非課税 |
100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1千円 |
300万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
引用元:国税庁 請負に関する契約書
参考:国税庁 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
請負契約を交わす場合は、電子契約がおすすめです。電子契約書であれば、これらの収入印紙は不要です(2022年9月時点)。紙に印刷された書面の現物を交付しない場合には課税文書を作成したことにならないため、印紙税はかからないと考えられているからです。
また、個別契約書を取り交わす場合にも収入印紙が必要です。1万円未満の場合は非課税ですが、1万円〜100万円以下の場合200円、100万円〜200万円以下の場合400円と、契約する金額によって異なります。詳しくは国税庁のホームページで確認しましょう。
参考:国税庁 請負に関する契約書
契約書の日付は契約日を記載する
契約書の日付は、契約を取り交わす日に設定します。保証契約などの一部の契約を除き、契約は契約書の有無に関わらず、当事者の意思が合致した場合に成立することになります。その場合、相手方がいつ契約の内容に承諾したのかがわからないため、契約を交わす日を決めておきます。
契約日は、次のいずれかから両者で合意した日を選択します。
- 契約期間の初日
- 最後に署名又は記名押印した日
- 最初に署名又は記名押印した日
- 基本的な契約条件に双方が合意した日
- 当事者の契約に関する社内承認が完了した日
これらの中から選択します。営業代行を依頼した後の日付にならないように注意することが重要です。
成果報酬型の契約の場合、個別契約書で報酬内容を定める
成果報酬型とは、委託した仕事の成果に対して報酬を支払うという報酬体系です。 取り決めた成果条件を達成すると初めて報酬を受け取れます。
成果報酬型の料金体系で契約する場合、個別契約書を交わして個々の取引を行うと定めれば、基本契約書の約款を変更する必要はありません。そのため、基本契約書に加えて個別契約書も結んでおくことが重要です。
契約書に捺印する
原則、契約書に捺印は必要ありません。委託契約は法律上、当事者の合意のみで成立するためです。ただし、トラブルが生じて裁判になった場合、記名や捺印された契約書が真正であることの証拠となります。そのため、記名・捺印はしておくべきです。
割印を行うこと
割印がなくても契約書は有効ですが、契約当事者である双方が割印を行うことで、契約書が改ざんされていないことを証明しやすくなります。契約書を2通以上作成する場合、全てが同一の内容であることを証明するため、複数の契約書にまたがって印鑑を押すことです。
割印は記載内容の全てに合意していることを証明できるため、契約書が複数枚の場合は、併せて契印(けいいん)を押します。契印は、2枚以上の契約書を作成する場合、ページの差し替えや改ざんを防止するために両ページにまたがって押印します。契約書を製本(袋とじ)し、契約書の当事者押印欄にて記名押印に用いた印鑑を用い、契約当事者がそれぞれ押印します。
契約書の郵送や電子契約も可
当事者が合意すれば、契約書を郵送でやりとりしての署名や捺印、電子契約でも問題ありません。営業業務を委託する契約書の渡し方に、法律上の規定はないためです。その場合も、契約書に記載する日付はあらかじめ協議して契約書に記載しておきます。
2022年9月時点の法律では、業務委託契約は電子契約が可能です。電子契約であれば印紙税がかからないことに加え、印刷費や人件費の削減にもつながります。さらに、契約当事者が電子契約システムを導入すると、書面よりもスムーズに契約を取り交わせるためおすすめです。
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営業代行を依頼する際は契約書を交わしてトラブルを防ごう
営業代行に契約書は必ずしも必要ありませんが、契約書を取り交わしておけば、委託する業務の内容や報酬、伝達方法などが明確になるため、金銭面や業務内容での無用なトラブルを避けるのに役立ちます。
営業代行における基本的な契約は、業務委託契約です。成果の達成が目的であれば請負契約、成果によらず依頼した業務の遂行に務めてもらう場合は準委任契約を取り交わします。業務内容が複雑な場合、基本契約書に加えて個別契約書も作成すると良いでしょう。
契約当事者双方の合意に至ったタイミングで契約を交わし、事前打ち合わせから契約書の作成まで、詳細を確認することが重要です。雛形や注意点もぜひ参考にしてください。
(本文執筆・編集:オンリーストーリー編集部)
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(コメント:代表平野)