監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
ABMは狙う企業を先に決めてから、その企業に集中してアプローチする戦略です。
概念は分かっても、実際の進め方でつまずく企業は少なくありません。

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の意味と従来手法との違い、向き不向き、実践の5ステップ、成功のポイントを整理。決裁者との接点づくりという課題への対処法も扱います。
監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
ABMは狙う企業を先に決めてから、その企業に集中してアプローチする戦略です。
概念は分かっても、実際の進め方でつまずく企業は少なくありません。

ABMとは、Account Based Marketing(アカウント・ベースド・マーケティング)の略で、自社にとって価値の高い特定の企業(アカウント)を選定し、その企業に合わせた最適なアプローチを個別に設計するマーケティング戦略のことです。
「アカウント」とは、ここでは顧客となる企業そのものを指します。
従来のBtoBマーケティングが「広くリードを集めて、その中から良い顧客を見つける」発想だったのに対し、ABMは「最初から理想の顧客を決めて、その企業を落としにいく」発想です。
漁に例えるなら、従来型が網を広げて獲れた魚から選ぶ「網漁」だとすれば、ABMは狙った大物を仕留めにいく「一本釣り」といえます。
ABMが注目される背景には、BtoBビジネスの構造変化があります。
まず、多くのBtoB企業で「売上の大半は少数の大口顧客が生み出している」という事実が再認識されるようになりました。
限られたマーケティング予算を、成約したときのインパクトが大きい企業に集中させた方が合理的だという考え方が広がったのです。
また、MAツールや企業データベースの進化により、企業単位でのデータ管理と個別アプローチが技術的に容易になったことも、普及を後押ししています。
従来のデマンドジェネレーション型マーケティングは、コンテンツや広告で幅広くリードを集め、スコアリングで絞り込み、営業に引き渡すという流れでした。
この方法は多くのリードを集められる反面、ターゲット外のリードも多く混ざり、営業リソースが分散するという課題がありました。
ABMでは、最初にターゲット企業を決めるため、マーケティングと営業の活動がすべて「狙った企業」に集中します。
無駄打ちが減り、1社あたりのアプローチの質が上がるのが、最大の違いです。
ABMはすべての企業に向いているわけではありません。
向いているのは、顧客単価が高い企業、大手企業向けの商材を扱う企業、特定業界に強みを持つ企業です。
1社の成約インパクトが大きいほど、個社ごとに手間をかけるABMの投資対効果は高くなります。
逆に、低単価で顧客数の多いビジネスモデルでは、従来型の広くリードを集める手法の方が適しています。
ABMの概念を理解したら、次は実践の手順です。
ABMは、ターゲット選定からアプローチ、検証までを一貫した流れで設計します。
ここでは、標準的な5つのステップに分けて進め方を解説します。
最初のステップは、狙うべき企業の選定です。
既存顧客の中から「取引額が大きく、成功している顧客」を分析し、共通する特徴(業種、規模、課題など)を抽出しましょう。
その特徴に合致する企業をリストアップし、成約インパクトと受注可能性の2軸で優先順位をつけます。
このターゲットリストの精度が、ABM全体の成果を左右します。
ターゲット企業が決まったら、その企業の中の「誰に」アプローチするかを特定します。
BtoBの購買には、情報収集する担当者、影響力を持つ現場責任者、最終決定を下す決裁者など、複数の関係者が関わります。
特に重要なのは、予算と意思決定の権限を持つ決裁者を早期に把握することです。
決裁者が誰で、何に関心を持っているのかを調べ上げることが、後のアプローチの質を決めます。
次に、ターゲット企業ごとに「刺さるメッセージ」と「接触方法」を設計します。
その企業の経営課題、業界動向、中期経営計画などを調査し、自社の提供価値を相手の文脈で語れるように準備しましょう。
汎用的な資料ではなく、「御社のための提案」と感じてもらえる個別化が、ABMの真骨頂です。
ABMは、マーケティング部門と営業部門の共同プロジェクトです。
マーケティングは広告やコンテンツでターゲット企業内の認知を高め、営業はキーパーソンへの直接アプローチを担う、といった役割分担で連携します。
ターゲットリストと進捗情報を両部門で共有し、同じゴールを追う体制を作りましょう。
ABMの効果測定は、リード数ではなくアカウント単位で行います。
ターゲット企業内での認知度、キーパーソンとの接触数、商談化、受注額といった指標で進捗を評価しましょう。
うまくいったアカウントの勝ちパターンを分析し、他のアカウントへ横展開することで、ABM全体の精度が上がっていきます。
ABMは強力な戦略ですが、進め方を誤ると「手間だけかかって成果が出ない」状態に陥ります。
ここでは、ABMを成功させるために押さえるべきポイントを解説します。
いきなり数百社をターゲットにすると、個別化が追いつかず、結局従来型の一斉アプローチに戻ってしまいます。
まずは10〜30社程度の重点アカウントに絞り、深いアプローチの型を作ることから始めましょう。
小さく始めて勝ちパターンを掴んでから、対象を広げるのが定石です。
マーケティングはリード数、営業は受注額、と部門ごとに別の目標を追っていると、ABMは機能しません。
「ターゲットアカウントからの商談数・受注額」という共通目標を設定し、両部門が同じ数字を見る状態を作りましょう。
ABMの成否を最終的に決めるのは、ターゲット企業の決裁者に会えるかどうかです。
担当者レベルの接点をいくら増やしても、決裁者に価値が伝わらなければ、大型案件は動きません。
広告やコンテンツで外堀を埋めつつ、決裁者本人との直接接点をいかに作るかを、戦略の中心に据えましょう。
ここまでABMの進め方を解説してきましたが、実践企業が必ずぶつかる壁があります。
それが、「ターゲット企業の決裁者に、どうやって会うのか」という問題です。
ターゲットを選定し、キーパーソンを特定し、個別提案を用意しても、肝心の決裁者に会えなければ、その努力は成果になりません。
テレアポでは受付を突破できず、手紙やメールは読まれず、広告は決裁者本人に届いているか検証できない、というのが多くの企業の現実です。
紹介ルートがあれば理想的ですが、狙った企業への紹介がタイミングよく得られるとは限りません。
この「最後の1マイル」を埋める手段として、いま注目されているのが決裁者マッチングです。
決裁者マッチングとは、審査を通過した企業の社長や役員など、決裁権を持つ人物同士を直接つなぐサービスのことです。
ABMが目指す「狙った企業の決裁者との商談」を、最短距離で実現できる手段として、ABM実践企業との相性は抜群です。
ここでは、決裁者マッチングがABMを加速させる理由を解説します。
決裁者マッチングには、多数の企業の決裁者が登録しています。
業種や規模で検索し、自社のターゲットリストに合致する企業の決裁者へ、直接アプローチできます。
受付や担当者を経由せず、ABMの核心である「決裁者との接点」を最初から作れるのです。
多くの決裁者マッチングサービスでは、自社の事業内容や課題をもとに、AIが相性の良い企業を提案してくれます。
自社では気づいていなかった有望なターゲットアカウントが、レコメンドから見つかることもあります。
ターゲットリストの精度を高めるデータソースとしても活用できるわけです。
決裁者との商談は、予算と意思決定の話をその場でできるため、案件化のスピードと確度が違います。
ABMが狙う大型案件ほど経営判断が必要になるため、トップ同士の対話から始まる商談は理想的な入口です。
決裁者マッチングは登録時に審査があり、実在する企業の決裁者であることが確認されています。
身元の確かな相手とだけやり取りできるため、安心してABMの実行に集中できます。
ABMとは何かという基礎から、進め方の5ステップ、成功のポイント、そして実践を加速させる決裁者マッチングまで解説してきました。
ABMは、価値の高いターゲット企業を先に決め、そこにマーケティングと営業の力を集中させる、BtoBの合理的な戦略です。
成功の鍵は、少数アカウントから始めること、部門間で目標を統一すること、そして何より決裁者へのアプローチを最優先することにあります。
しかし、多くの企業がぶつかるのが「狙った企業の決裁者に会えない」という最後の壁です。
その壁を突破できるのが、審査済みの決裁者と直接つながれる決裁者マッチングです。
ターゲット企業の決裁者との商談を最短距離で実現できる決裁者マッチングは、ABM実践企業にとって最強の武器になります。
ABMの設計と並行して、決裁者マッチングの導入をぜひ検討してみてください。
戦略と接点の両方が揃ったとき、ABMは本当の成果を生み始めるはずです。
A. 大手企業や高単価商材を扱い、対象企業が限られるBtoB企業に向きます。
対象が不特定多数で単価が低い場合は効果が出にくくなります。
自社の顧客単価や対象企業の数を確認し、向いているかを判断してから導入を検討しましょう。
A. 従来型は幅広くリードを集めて絞り込みます。
ABMは価値の高い企業を先に決め、その企業に合わせてアプローチを個別に設計します。
個別に設計する分、手間はかかりますが、狙った企業との商談につなげやすいのが特徴です。
A. リード数ではなくアカウント単位で見ます。
対象企業ごとの接触状況、商談の進み方、受注額を追って改善します。
アカウント単位で見ることで、どの企業への施策が成果につながったかを判断しやすくなります。
A. 数百社を一度に対象にすると個別化が追いつきません。
個別設計できる範囲の少数から始め、運用が回ってから広げます。
少数で成果と手順を確認してから広げると、運用が形骸化するのを防げます。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。