監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
既存顧客への対応に追われ、新規開拓に時間を割けない声は少なくありません。
案件終了や予算削減で売上が急減するリスクは常にあります。

広告代理店の新規営業について、既存顧客依存のリスクや人手不足、価格競争といった課題を整理。アウトバウンド型・インバウンド型・紹介という手法と、実践の流れやコツを解説します。
広告代理店の収益構造は、クライアントとの契約によって成り立っています。
既存顧客との取引がいつまでも続く保証はなく、案件の終了や予算削減によって売上が急減するリスクは常に存在します。
既存顧客に売上の大半を依存している状態は、広告代理店にとって非常に危うい構造です。
特定のクライアントが契約を打ち切った場合、その穴を埋めるまでに数ヶ月以上かかることも珍しくありません。
広告業界は競合も多く、他社へのリプレイスが日常的に起こり得る市場です。
クライアント側の担当者が異動になっただけで、長年の取引が白紙に戻るケースも実際に発生しています。
安定した経営基盤を築くためには、常に新しいクライアントを開拓し続ける仕組みを社内に持つことが求められます。
新規営業のパイプラインが常に動いている状態をつくることで、突発的な契約終了にも柔軟に対応できる組織体質が生まれます。
新規営業に取り組むことで得られるメリットは、単なる売上増加にとどまりません。
まず1つ目は、収益源の分散によるリスクヘッジです。
クライアントの数が増えれば、1社に依存する割合が下がり経営が安定します。
2つ目は、営業チーム全体のスキル向上です。
新規営業では提案力やヒアリング力が鍛えられ、既存顧客への対応品質も自然と高まります。
3つ目は、最新の市場ニーズへの感度が上がることです。
新しいクライアントとの接点を通じて業界のトレンドやクライアントの課題を肌で感じ取れるようになります。
新規営業の重要性を理解していても、実際の現場ではさまざまな壁にぶつかるケースが多く見られます。
ここでは広告代理店の営業担当者が特に直面しやすい課題を整理します。
広告代理店の営業担当者は、既存クライアントへの企画提案やレポーティング、社内調整など日常業務が多岐にわたります。
そのため新規顧客の開拓に使える時間が物理的に不足しがちです。
営業人員を増やそうにも、広告業界に精通した即戦力人材の採用は簡単ではありません。
結果として新規営業が後回しになり、既存顧客への依存度がさらに高まるという悪循環に陥ります。
長年テレアポを新規営業の柱としてきた広告代理店は少なくありません。
しかし近年はリモートワークの普及によってオフィスに人がいないケースが増え、電話がつながりにくくなっています。
また担当者に直接つないでもらえる確率も年々低下しており、テレアポだけに依存した営業スタイルでは安定した成果を出しにくい状況です。
テレアポ以外の集客チャネルを構築したいと考えていても、ノウハウやリソースが不足しているために着手できないという声が現場から多く聞かれます。
広告代理店のサービスは無形商材であるため、クライアントから見ると各社の違いが分かりにくいという特性があります。
提案内容や運用体制に大きな差がなければ、最終的に価格の安さで選ばれてしまいがちです。
自社ならではの強みや専門領域を明確に打ち出せていない場合、新規営業の場面で他社との差別化に苦戦することになります。
特にWeb広告の運用代行はサービスの標準化が進んでいるため、何を軸に差別化するかの戦略が新規営業の成否を分けます。
新規営業の手法は大きくアウトバウンド型とインバウンド型に分かれます。
それぞれの特徴を理解し、自社のリソースや目標に合った組み合わせを選ぶことが成功への近道です。
アウトバウンド営業は、自社からターゲット企業に直接アプローチする方法です。
代表的なものにテレアポ、問い合わせフォーム営業、メール営業、飛び込み営業があります。
テレアポは短時間で多くの見込み客に接触できる一方、つながりにくさや心理的なハードルが課題です。
問い合わせフォーム営業は企業のWebサイトにある問い合わせフォームから自社サービスを紹介する手法で、近年急速に普及しています。
テンプレートを用意すれば効率よく大量のアプローチが可能ですが、内容が画一的だと読まれずに終わるリスクがあります。
メール営業も同様に低コストで実施できますが、開封率を高めるための件名の工夫やパーソナライズが欠かせません。
飛び込み営業は対面ならではの信頼構築ができる反面、セキュリティの観点から受付で断られるケースが増えており、費用対効果の面で慎重な判断が必要です。
インバウンド営業は、見込み客が自ら自社に興味を持ち問い合わせてくる仕組みをつくる方法です。
オウンドメディアの運営、Web広告の活用、セミナーやウェビナーの開催、SNSによる情報発信などが代表的な手法として挙げられます。
オウンドメディアでは広告運用のノウハウや業界の最新動向など、見込み客にとって有益な情報を継続的に発信します。
検索エンジン経由でのアクセスが安定すれば、営業をかけなくても問い合わせが自然と入る状態を構築できます。
ウェビナーはオンラインで開催できるため場所の制約がなく、全国の見込み客にリーチできる点が大きな強みです。
参加者に自社の専門性を直接示すことで信頼を獲得し、商談につなげる流れをつくれます。
インバウンド営業は成果が出るまでに時間がかかるため、アウトバウンド営業と並行して早めに着手することが重要です。
既存クライアントや業界内の知人からの紹介は、最も成約率が高い新規獲得チャネルのひとつです。
紹介元との信頼関係がすでに構築されているため、初回の商談からスムーズに話が進みやすいという特長があります。
紹介を増やすためには日頃から既存クライアントの期待を超える成果を出し続けることが前提です。
加えて「紹介してほしい」という意思を適切なタイミングで伝えることも大切です。
契約更新のタイミングや成果報告の場など、クライアントが自社に対してポジティブな感情を持っている瞬間を見逃さないようにしましょう。
業界の交流会やイベントへ積極的に参加して人脈を広げることも、長期的には大きな効果をもたらします。
特に広告業界はクリエイター同士の横のつながりが強い傾向にあるため、良い評判が自然と広がりやすい環境にあります。
手法を知っているだけでは成果にはつながりません。
ここでは広告代理店の新規営業で成約率を高めるために意識すべき実践的なポイントを紹介します。
新規営業で最初に取り組むべきことは、自社が獲得すべきターゲットの絞り込みです。
業種、企業規模、広告予算の目安、抱えていそうな課題などの条件をもとにターゲットリストを作成します。
闇雲にアプローチするのではなく、自社の強みが最も活きる企業に優先的にリソースを投下することで営業効率が格段に上がります。
チーム内でターゲットの重複が起きないようルールを決めておくことも、組織としての営業効率を高めるうえで欠かせません。
アプローチ先の企業について事前に徹底的にリサーチし、相手が抱えているであろう課題に対する仮説を立てておきましょう。
企業のWebサイト、プレスリリース、SNSアカウント、競合他社の動向などから情報を収集します。
「御社のこの領域にはこういった課題があるのではないか」という具体的な仮説を持って接触すれば、相手の関心を引きやすくなります。
事前リサーチの質が商談の質を決めるといっても過言ではありません。
新規営業の商談で最も重要なのは、自社サービスの説明ではなくクライアント候補の話を聞くことです。
相手が現在どのような広告施策を実施しているのか、どんな成果を期待しているのか、何に不満を感じているのかを丁寧にヒアリングします。
相手のニーズを正確に把握したうえで提案を行うことで、的外れな提案を避けられるだけでなく信頼感も高まります。
ヒアリングシートをあらかじめ用意しておくと、聞くべき項目の漏れを防げます。
広告代理店の提案書では、抽象的な表現を避けて具体的な数字やデータを盛り込むことが効果的です。
過去の類似案件での実績、想定されるKPI、費用対効果のシミュレーションなどを提示することで提案の説得力が大きく変わります。
「認知度を上げます」ではなく「想定インプレッション数は月間○万回、CPAは○円を目指します」のように数字で語ることが重要です。
またクライアントのビジネスゴールに紐づけた提案ストーリーを組み立てることで、単なる広告運用の話ではなく事業成長のパートナーとして認識してもらいやすくなります。
商談相手が担当者レベルの場合、どれだけ良い提案をしても社内決裁の段階で見送りになるケースがあります。
初回の接触時から、最終的な意思決定者が誰なのかを把握しておくことが重要です。
可能であれば早い段階で決裁者との接点をつくり、直接提案できる機会を得ることを目指しましょう。
決裁者が重視するのはROIや事業インパクトであることが多いため、提案の切り口も現場目線から経営目線に切り替える必要があります。
個人の営業スキルだけに頼るのではなく、チームとして成果を安定させる仕組みを構築することが長期的な成長につながります。
見込み客の情報や商談の進捗をExcelで管理している広告代理店は今でも多いですが、データ量が増えると管理が煩雑になります。
CRMやSFAなどの営業支援ツールを導入すれば、顧客情報の一元管理、商談ステータスの可視化、フォローアップの自動リマインドなどが可能になります。
特に新規営業では見込み客との接触回数やタイミングが成約を左右するため、フォロー漏れを防ぐ仕組みの有無は決定的な差になります。
属人化しがちな営業活動をチーム全体で共有できるようになるため、担当者の異動や退職によるリスクも軽減できます。
新規営業を継続的に改善していくためには、明確なKPIの設定が欠かせません。
アポイント取得数、商談化率、成約率、顧客獲得単価など、各フェーズごとに指標を定めて定期的に振り返ります。
数値で現状を把握することで、どのフェーズにボトルネックがあるのかが明確になり、的確な改善策を打てるようになります。
月次や週次でPDCAを回す習慣を定着させることが、営業組織としての成長速度を加速させます。
短期的な成果を求めるならアウトバウンド営業、中長期的な集客基盤をつくるならインバウンド営業がそれぞれ有効です。
どちらか一方に偏るのではなく、自社の事業フェーズやリソース状況に応じてバランスよく組み合わせることが理想的です。
たとえばインバウンドで獲得したリードに対してアウトバウンドでフォローを入れるなど、両者を連携させることで成約率が飛躍的に高まります。
営業チームとマーケティングチームが密に連携し、一貫した顧客体験を提供できる体制を目指しましょう。
広告代理店の新規営業は、テレアポや飛び込みだけに頼る時代から大きく変化しています。
アウトバウンドとインバウンドの手法をバランスよく組み合わせ、ターゲットの明確化、事前リサーチ、丁寧なヒアリング、具体的な数字に基づく提案を実践することが成果への最短ルートです。
さらにCRMやSFAの導入によって営業活動を可視化し、KPIに基づくPDCAを回し続けることで組織としての営業力が着実に底上げされます。
紹介やリファラルといった信頼ベースの獲得チャネルも日頃の仕事の質によって自然と広がっていくものです。
新規営業に苦手意識を持つ方も多いかもしれませんが、正しい手順とコツを押さえれば確実に成果は出せます。
大切なのは一度に全てを変えようとするのではなく、まずは自社の現状を客観的に分析し、最もインパクトの大きい施策から一つずつ着手していくことです。
継続的な改善を積み重ねることで、新規営業は広告代理店の強力な成長エンジンへと変わっていきます。
A. リモートワークの普及で電話がつながりにくくなっています。
有効な場面はありますが、単独の柱にするのは難しくなっています。
メールやSNSなど他の手法と組み合わせて、接点を作る経路を複数持っておくことが大切です。
A. サービス内容が似て見えるため、得意な業種や課題領域を絞ることが有効です。
実績を業種と成果の組み合わせで示すと伝わります。
得意分野を明確にすると、相手からも相談先として思い出してもらいやすくなります。
A. 既存業務の中で定例化できる作業を洗い出し、担当や工程を分けます。
新規活動の時間を先に予定へ入れる方法も有効です。
新規営業に使う時間を毎週決まった枠で確保すると、日々の業務に流されにくくなります。
A. 自社サイトの情報整理と、提供領域が伝わるコンテンツの用意からです。
セミナーやSNSは、対象が明確になってから広げます。
まずは自社の得意分野と実績が伝わる情報をそろえ、問い合わせにつながる導線を整えましょう。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。