監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
新しい顧客を増やしても、1〜2年で取引が終わる顧客が多ければ、売上と利益は積み上がりません。
LTV(顧客生涯価値)を向上させるには、1社あたりの年間の取引額・収益率・取引が続く年数のうち、伸びしろの大きい要素から上げます。
どの要素から上げるかを決める計算の仕方と、既存顧客に聞く質問、価格を見直すときの進め方を確認しましょう。
LTVを向上させる方法とは

LTVを向上させる方法は、1社あたりの年間の取引額を増やす、収益率を上げる、取引が続く年数を延ばす、の3つです。
LTV(顧客生涯価値)は、1社の顧客が取引を始めてから終えるまでに、自社にもたらす利益の合計です。
LTVは「平均顧客単価×収益率×購買頻度×継続期間」で計算でき、平均顧客単価と1年間の購買頻度を掛けると年間の取引額になるので、「年間の取引額×収益率×取引が続く年数」とも書けます。
収益率は、取引額から原価や対応の費用を引いて残る利益の割合です。
単価・頻度・継続期間・コストの4つの要素で覚えている場合は、単価×頻度が年間の取引額に、継続期間が取引が続く年数に、コストを抑えることが収益率を上げることに当たります。
自社の状況から、先に上げる要素を選ぶ
どの要素から上げるかは、自社の顧客の数字のうち、どこが弱いかで選びます。
| 自社の状況 | 上げる要素 | 主な方法 |
|---|---|---|
| 取引を1〜2年でやめる顧客が多い | 取引が続く年数 | 取引を始めた直後に使い方の定着を支え、定例の面談で成果と不満を聞く |
| 取引は続くが、取引額が増えていない | 年間の取引額 | 上位のプランや関連する商品を提案し(アップセル・クロスセル)、使う部署を広げる |
| 費用が上がり、収益率が下がった | 収益率 | 価格を見直し、手間のかかる個別の対応を減らす |
当てはまる状況が2つ以上あるときは、次の節の手順2のように、要素ごとに改善したときのLTVを計算して比べます。
LTVを向上させる進め方
LTVは、顧客ごとに3つの要素を一覧にする、改善したときのLTVを計算する、既存顧客との面談で聞く、打ち手を試して毎月確かめる、の4つの手順で上げます。
手順1 顧客ごとに、年間の取引額・収益率・取引が続く年数を一覧にする
今の顧客と、ここ数年で取引をやめた顧客を1社ずつ並べ、年間の取引額・収益率・取引が続いた年数を書き出します。
あわせて、業種・従業員数・取引のきっかけ・商談に出ていた人(決裁者か担当者か)も、同じ一覧に書いておきます。
LTVの高い顧客に共通する点が分かると、似た会社を新しく探すときの条件になります。
取引をやめた顧客には、やめた理由も書き添えます。
一覧ができたら、顧客ごとに「単価×頻度×継続期間」で取引額の合計を出し、収益率を掛けてLTVにします。
次の3社の数字は、計算の仕方を示すための仮の数字です。
| 顧客 | 単価×頻度×継続期間 | LTV(収益率を掛ける) |
|---|---|---|
| A社 | 10万円×年12回×6年=720万円 | 720万円×50%=360万円 |
| B社 | 30万円×年4回×2年=240万円 | 240万円×50%=120万円 |
| C社 | 100万円×年1回×8年=800万円 | 800万円×20%=160万円 |
B社は取引が続く年数が短く、C社は収益率が低いので、それぞれその要素に伸びしろがあります。
手順2 要素ごとに1割改善したときのLTVを計算する
一覧の平均から今のLTVを出し、要素を1つずつ1割改善したときのLTVと比べると、先に手を付ける要素を決められます。
取引が続く年数は、毎年同じ割合で取引をやめると考えると、1÷年間の解約率で見積もれます。
次の例の金額と割合は、計算の仕方を示すための仮の数字です。
年間の取引額:120万円(1社あたりの平均)
収益率:50%(取引額から原価と対応の費用を引いた利益の割合)
年間の解約率:20% → 取引が続く年数:1÷20%=5年
今のLTV:120万円×50%×5年=300万円
要素ごとに1割改善したときのLTVは、次のとおりです(取引額は、取引の量が増え、収益率は変わらないとします)。
| 改善すること | 計算 | LTV |
|---|---|---|
| 取引額を1割増やす | 132万円×50%×5年 | 330万円 |
| 収益率を1割上げる(55%) | 120万円×55%×5年 | 330万円 |
| 解約率を1割下げる(18%) | 120万円×50%×約5.6年 | 約333万円 |
| 3つを1割ずつ改善する | 132万円×55%×約5.6年 | 約403万円 |
どの要素も1割の改善でLTVは1割ほど増えるので、自社にとって1割改善しやすい要素から手を付けます。
3つの要素は掛け算なので、1割ずつ合わせて改善すると、LTVは約1.34倍になります。
手順3 既存顧客との面談で、8つの質問を聞く
契約の更新の前や、半年ごとの定例の面談で、次の質問をそのまま使い、取引をやめる兆しと、取引を広げる余地を確かめます。
成果:「取引を始めたときに決めた目標に対して、今はどのくらい達成できていますか。」
使い方:「取引を始めたときと比べて、使っている部署や人数は変わりましたか。」
手間:「使っていて手間がかかっている作業や、物足りないと感じる点はありますか。」
体制:「ご担当の方や、決裁される方が替わる予定はありますか。」
他社:「ほかの会社から、同じような提案を受けていますか。」
予算:「来期の予算は、いつ頃、どなたが決めますか。」
次の課題:「来期に、新しく取り組みたい課題はありますか。」
広がり:「同じ課題を抱えている部署や、グループの会社はありますか。」
成果・使い方・手間・体制・他社の5つは取引をやめる兆しを、予算・次の課題・広がりの3つは取引額を増やす余地を確かめる質問です。
「目標に届いていない」「担当者や決裁者が替わる」という答えがあれば、契約の更新の前に、決裁者も交えて成果を振り返る場を設けます。
取引を始めた理由を知る人が替わると、成果が伝わらないまま、更新するかどうかを判断されるおそれがあるためです。
手順4 打ち手を1つずつ試し、解約率と取引額を毎月比べる
打ち手は1つずつ試し、始める前と後で、解約率・年間の取引額・収益率を毎月比べます。
いくつもの打ち手を同時に始めると、どれが効いたのかが分からなくなるためです。
価格を見直して取引額を上げるとき

価格を見直して取引額を上げるときは、離れる顧客が出てもLTVが下がらないかを先に計算し、上げる理由と時期を早めに伝えます。
中小企業庁が中小企業に聞いた調査では、2026年3月までの6か月間に、発注側の企業と価格交渉が行われた割合は90.7%でした(価格交渉が不要と答えた企業を除く)。
一方で、実際のコストの上昇分のうち価格に反映できた割合(価格転嫁率)は、コスト全体で平均54.2%にとどまり、全額を反映できた割合は3割弱でした。
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果」
値上げの前に、解約が増えたときのLTVを計算する
単価を上げても、取引をやめる顧客が増えると、LTVは値上げの前より下がることがあります。
Bottino株式会社が従業員1〜99名の企業の経営者・役員539名に聞いた調査では、値上げ・価格設定の判断に試算表・決算書を使っている割合は17.6%で、業績の確認に使う割合の73.1%を大きく下回りました(2026年9月)。
出典:Bottino株式会社「試算表・決算書の経営活用実態調査」
単価だけを上げるときは、原価や対応の費用は変わらないため、上げた分がそのまま利益に加わります。
次の例の金額と割合は、計算の仕方を示すための仮の数字です。
今:年間の取引額120万円、原価と対応の費用60万円、年間の利益60万円、年間の解約率20%(取引が続く年数5年)→ LTV=60万円×5年=300万円
単価を1割上げ、解約率が変わらないとき:年間の利益72万円(132万円-60万円)×5年=360万円
単価を1割上げ、解約率が24%に上がったとき:72万円×約4.2年(1÷24%)=約300万円
この例では、値上げのあとに年間の解約率が24%を超えると、値上げしなかったときよりLTVが下がります。
値上げの前に、解約率がどこまで上がると値上げしない場合のLTVを下回るかを計算し、その線を超えないよう、離れそうな顧客には個別に説明します。
値上げは、理由と時期を早めに伝える
値上げを伝えるときは、上げる理由と根拠を数字で示し、相手が次の予算に組み込める時期に知らせます。
小谷野税理士法人が企業の経営者・役員約300名に聞いた調査では、直近1年以内の価格改定のあと、取引量が減ったり取引が止まったりした企業が36.3%ありました(2026年9月)。
取引先が離れた、または離れそうになった理由は、「値上げ幅が大きかった」「説明不足」「急な通知」が上位でした。
出典:小谷野税理士法人「『価格転嫁(値上げ)』の成否と顧客離れの実態調査」
中小企業庁の調査には、事前に価格改定を案内し、資料で説明して理解を得たことで、コストの上昇分を円滑に価格に反映できたという回答企業の声が、よい事例として載っています。
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」
次の例文は、値上げの案内に書くことを並べたものです。
件名:〇〇の価格改定のお知らせ(〇年〇月のご請求分から)
平素より〇〇をご利用いただき、ありがとうございます。
〇年〇月のご請求分から、〇〇の価格を月額〇万円から〇万円に改めさせていただきます。
〇〇(人件費・原材料費など)が、〇年から〇年までに〇%上がったためです。
改定までの間、ご利用の状況に合わせたプランの見直しのご相談も承ります。
ご不明な点は、担当の〇〇(電話〇〇)までお問い合わせください。
案内には、上げる理由と根拠、改定の時期、相談の窓口を必ず書きます。
決裁者とつながってLTVを上げる
決裁者とつながってLTVを上げるには、既存顧客の決裁者と成果を振り返る場をつくり、LTVの高い顧客に似た会社の決裁者に直接会います。
既存顧客の決裁者と、年に1回は成果を振り返る
既存顧客とは、担当者だけでなく、契約の更新や追加の発注を決裁する人とも、年に1回は成果を振り返る場をつくります。
担当者とのやり取りだけでは、取引の成果が、決裁する人まで伝わっているとは限らないためです。
振り返りでは、取引を始めたときに決めた目標に対する成果を数字で示し、手順3の質問で聞いた来期の課題への提案も添えます。
LTVの高い顧客に似た会社の決裁者に、直接会う
手順1で分かった、LTVの高い顧客に共通する業種・規模・取引のきっかけを持つ会社に新しく営業するときは、決裁者に直接会える経路も使います。
オンリーストーリーが運営する決裁者マッチングは、審査を通過した企業の決裁者同士が直接つながれる仕組みです。
12年で築いた8,000名以上の決裁者ネットワークから、受付や担当者を通さずに決裁者と面談できます。
一方で、商材の単価が低い場合や、担当者の段階で決裁が終わる商材では、効果が出にくい傾向があります。
まとめ
LTVを向上させるには、1社あたりの年間の取引額、収益率、取引が続く年数のうち、伸びしろの大きい要素から上げます。
顧客ごとに3つの要素を一覧にし、要素ごとに1割改善したときのLTVを計算して比べると、先に手を付ける要素を決められます。
既存顧客との面談では、成果や体制の変化、来期の予算と課題を聞き、取引をやめる兆しと取引を広げる余地を確かめましょう。
価格を見直すときは、解約率がどこまで上がるとLTVが下がるかを先に計算し、上げる理由と時期を早めに伝えます。
よくある質問
Q. LTVが高いとはどういう意味ですか
A. 1社の顧客が、取引を始めてから終えるまでに自社にもたらす利益の合計が大きいことです。
高いかどうかは、その顧客を獲得するためにかけた費用(CAC)と比べて判断します。
LTVが獲得の費用より小さいと、取引が続いても、獲得にかけた費用を回収できないためです。
Q. 解約率はどうやって計算しますか
A. 年の初めに取引していた顧客のうち、その1年の間に取引をやめた顧客の割合で計算します。
たとえば、年の初めに50社と取引していて、1年で10社が取引をやめたら、年間の解約率は20%です。
月ごとに記録するときも、同じ数え方にそろえます。
Q. 顧客が少なくても計算できますか
A. できます。
顧客が10社ほどでも、1社ずつ年間の取引額・収益率・取引が続いた年数を並べれば、LTVの高い顧客と低い顧客の違いが見えます。
社数が少ないうちは、平均が1社の動きで大きく変わるため、平均と合わせて1社ずつの数字も見ます。
Q. 単発の取引でもLTVは使えますか
A. 使えます。
製品の販売や受託の仕事のように、注文のたびに取引が生まれる場合も、1社あたりの年間の注文額と、注文が続いた年数で計算します。
注文が1年以上ない顧客を取引をやめた顧客と数えるなど、やめたと見なす基準を先に決めておきます。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。



