監修:平野 哲也(株式会社オンリーストーリー 代表取締役)
値上げをお願いする連絡を、いつ、どう書けば取引を続けてもらえるのか、手が止まっていないでしょうか。
この記事では、伝える時期と手段、お知らせ文に入れる項目、場面別の文例、交渉を求められたときの対応までを解説します。
値上げの連絡で相手が気にすること
相手が知りたいのは、金額そのものだけではありません。
四つに整理します。
いつから変わるのか
適用の時期が曖昧だと、相手は社内で説明できません。
適用開始日を年月日で明記します。
進行中の案件がどちら扱いかも書きます。
発注済みの分の扱いは、特に問い合わせが集中します。
どれだけ上がるのか
率で書くか金額で書くかで、受け取り方が変わります。
主力の品目については、改定前と改定後の金額を並べます。
品目が多い場合は、別紙の一覧にまとめます。
率だけだと、相手は自社の影響額を計算できません。
なぜ上がるのか
理由が書かれていないと、言い値だと受け取られます。
原材料、物流、人件費のどれが上がったのかを一つ挙げます。
全部を並べると、かえって説得力が落ちます。
自社の努力について一行触れると、押しつけに見えません。
何が変わらないのか
値上げの連絡は、不安を呼び起こします。
品質、納期、担当体制が変わらない旨を明記します。
変わる点があるなら、それも隠さず書きます。
書かないと、相手は悪いほうに想像します。
伝える時期と手段
通知の出し方で、その後の交渉の長さが変わります。
三つの基準で決めます。
適用の三か月前に出す
相手にも予算の期があります。
三か月前に出すと、相手が社内の予算を組み直せます。
一か月前では、相手の決裁が間に合いません。
四月改定なら、遅くとも一月中には出します。
主要な取引先には先に口頭で伝える
文書がいきなり届くと、感情的な反発を招きます。
上位の取引先には、担当者から事前に口頭で伝えます。
そのうえで正式な文書を送ります。
順番を間違えると、信頼の問題になります。
文書とメールを使い分ける
相手の社内で回覧される前提で考えます。
正式な通知は文書、事前の一報はメールが基本です。
文書は押印のうえ郵送すると、社内で通りやすくなります。
メールだけで済ませるのは、取引額の小さい相手に限ります。
通知を出す前の社内準備
文面を書き始める前に、決めておくことがあります。
四つそろえます。
改定の根拠を数字で用意する
説明を求められたときに、その場で答えられる形にします。
仕入価格の推移を、年度ごとの数字で一枚にまとめます。
社内の誰が聞かれても同じ説明ができる状態にします。
公表できる範囲と、出せない範囲を先に線引きします。
想定される質問への回答を作る
担当者ごとに回答が違うと、不信を招きます。
経過措置、長期契約、他社との比較の三つは必ず聞かれます。
回答例を文書にして、営業全員に配ります。
答えられない質問は、持ち帰ると決めておきます。
取引先ごとに影響額を出す
一律の率だけでは、相手の反応を読めません。
主要な取引先について、年間でいくら増えるかを試算します。
金額が大きい相手から、順に訪問の予定を組みます。
影響の小さい相手は、文書の送付だけで足ります。
伝える順番と担当を決める
同じ日に全員へ出すと、問い合わせが一度に来ます。
上位の取引先から順に、担当者を割り当てて伝えます。
最後に一斉送付をかける形にします。
誰がいつ伝えたかを、一覧で管理します。
お知らせ文に入れる項目
毎回ゼロから考えず、型を決めておきます。
五つの要素で構成します。
件名で用件を言い切る
ご案内だけでは、何の連絡か分かりません。
件名に価格改定と適用時期を入れます。
自社名を末尾に添えると、後から探せます。
値上げという語を避ける必要はありません。
改定の内容を表で示す
文章の中に金額を埋めると、読み取れません。
品目、改定前、改定後、改定率を並べた表にします。
品目が多い場合は、本文に主要品だけを載せます。
全品目の一覧は別紙にします。
理由を一段落で書く
長い説明は、言い訳に見えます。
三行以内にまとめ、具体的な数字を一つ入れます。
社会情勢の一般論だけでは、根拠になりません。
自社で吸収してきた経緯があるなら、それを添えます。
経過措置の有無を書く
既存の契約や発注済みの分をどう扱うかが要点です。
適用日より前に受注した分は従来価格とするなど、線引きを明記します。
長期契約がある相手には、個別に扱いを書きます。
ここを曖昧にすると、請求の段階でもめます。
相談の窓口を示す
一方的な通知で終わらせない形にします。
ご不明な点は担当までという一行と、連絡先を書きます。
相談を受ける姿勢があると伝わります。
問い合わせが集中する時期は、社内で体制を組みます。
場面別の価格改定のお知らせ文例
相手との関係と改定の幅で、書き方が変わります。
四つの場面を示します。
全取引先へ一斉に出す文書の例文
形式を整え、会社としての正式な通知にします。
宛名は各位とし、担当者名は入れません。
表書きは丁寧にしつつ、内容は簡潔にします。
別紙の案内を本文に入れます。
件名:価格改定のご案内(2027年4月1日より/株式会社△△)
お取引先各位
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、かねてより原材料価格の上昇が続いており、弊社におきましても生産体制の見直しなどにより価格の維持に努めてまいりました。
しかしながら、主要原料の仕入価格が前年比で約二割上昇し、自助努力のみでの対応が困難な状況となりました。
つきましては、誠に不本意ながら、2027年4月1日ご発注分より下記のとおり価格を改定させていただきます。
改定率:平均8パーセント(品目別の価格は別紙をご参照ください)
なお、2027年3月31日までにご発注いただいた分につきましては、従来価格を適用いたします。
品質、納期、ご担当体制につきましては、従来どおり変更はございません。
ご不明な点は、担当の佐藤までお問い合わせくださいませ。
今後とも変わらぬお引き立てを賜りますよう、お願い申し上げます。
敬具
主要な取引先へ事前に伝えるメールの例文
文書の前に、担当者から一報を入れます。
面談の機会を設ける意思を書くと、相手も身構えません。
金額の詳細は、この段階では出しません。
口頭で伝えた直後に送る形にします。
件名:価格改定のご相談につきまして(株式会社△△ 佐藤)
〇〇株式会社
田中様
いつも大変お世話になっております。
株式会社△△の佐藤でございます。
先ほどお電話でお伝えした件につきまして、あらためてご連絡いたします。
来期からの価格の見直しを検討しており、正式なご案内を今月中にお送りする予定です。
貴社との取引につきましては影響が大きいため、ご案内の前に一度お時間を頂戴し、内容をご説明させていただければと存じます。
来週中でご都合のよい日をお知らせいただけますでしょうか。
ご負担をおかけしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
一部の品目だけ改定する場合の例文
全品ではないことを、はっきり書きます。
対象の品目名を本文に明記します。
対象外の品があることも書きます。
影響の小さい相手には、簡潔な文面で足ります。
件名:一部商品の価格改定について(2027年4月1日より)
〇〇株式会社
ご担当者様
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
株式会社△△の山本と申します。
このたび、一部商品につきまして価格を改定させていただくこととなりましたので、ご案内申し上げます。
対象商品:型番AB-100、AB-200の二品目
改定後価格:別紙のとおり
適用時期:2027年4月1日ご発注分より
上記以外の商品につきましては、価格の変更はございません。
輸入部材の調達費用の上昇によるもので、やむを得ずの判断となりました。
引き続きよろしくお願い申し上げます。
改定の相談を受けたときに返す例文
相手から据え置きを求められることがあります。
応じられる範囲と応じられない範囲を分けて書きます。
即答せず、社内で検討する姿勢を示します。
取引量に応じた条件を提示する手もあります。
件名:Re: 価格改定の件につきまして
〇〇株式会社
田中様
お世話になっております。
株式会社△△の佐藤です。
ご連絡いただいた件につきまして、社内で検討いたしました。
改定そのものを見送ることは難しい状況でございますが、年間のご発注量を一定以上お約束いただける場合には、改定率を抑えた条件をご提示できる見込みです。
具体的な数量と条件につきまして、一度お打ち合わせの場を頂戴できればと存じます。
来週以降でご都合のよい日をお知らせくださいませ。
交渉を求められたときの対応
通知を出すと、必ず何件かは相談が来ます。
三段階で考えます。
その場で答えない
電話口で値引きを約束すると、他社にも広がります。
持ち帰って社内で判断すると伝えます。
回答の期限はその場で約束します。
担当者の一存で決めない体制を作っておきます。
条件を付けて応じる
一律に断ると、取引そのものを失います。
数量、支払い条件、契約期間のいずれかと引き換えにします。
値段だけを下げると、前例になります。
応じた記録は、社内で共有します。
応じられない理由を説明する
断る場合は、根拠を示します。
原価のどこが上がったかを、改めて具体的に説明します。
他社も同様である旨は、言わないほうが無難です。
断ったあとも、取引を続ける姿勢を示します。
伝えたあとにやること
通知を出して終わりにすると、取引が静かに減ります。
三つ確認します。
反応がなかった相手を確認する
返事がない相手は、納得しているとは限りません。
通知後二週間で、主要な相手には確認の連絡を入れます。
社内で止まっている場合もあります。
受領の確認だけでも取っておきます。
発注量の変化を見る
改定後の数か月は、数量が動きます。
改定前と後で、取引先ごとの発注量を比べます。
減っている相手には、早めに話を聞きます。
離れる兆しは、発注の間隔に先に出ます。
値上げを機に取引を見直す
全ての取引を維持する必要はありません。
採算の合わない取引は、この機会に条件を整えます。
値上げは、取引条件を見直す数少ない機会です。
残す相手と、距離を取る相手を分けて考えます。
価格を説明できる相手と話す
値上げの可否は、話す相手の立場で決まります。
三つの観点で整理します。
担当者は価格を決められない
窓口の担当者に説明しても、社内で通らないことがあります。
価格の決裁は、多くの場合その上の層が持っています。
担当者を責めても、話は進みません。
誰が決めるのかを、通知の前に確かめます。
値上げの説明は決裁者に直接したい
伝言で伝わる間に、理由は削られます。
原価の話は、判断する人に直接したほうが通ります。
担当者に同席をお願いする形が現実的です。
資料は一枚にまとめて渡します。
決裁者と直接つながる場を併用する
オンリーストーリーが運営する決裁者マッチングは、審査を通過した企業の決裁者同士が直接つながれる仕組みです。
価格の条件を決める立場の人と、最初から話せます。
新しい取引を始める段階から条件をそろえられます。
一方で、単価の低い商材や、担当者の判断で完結する商材では効果が出にくい傾向があります。
まとめ
値上げの通知は、適用日の三か月前に届けば、相手は次の期の予算に織り込めます。
主要な取引先には、文書を送る前に担当者から口頭で伝えてください。
お知らせ文には、適用日、改定の幅、理由、経過措置、相談窓口の五つを入れます。
理由は一つに絞り、原価のどこが何割上がったのかを具体的に書きます。
品質や納期や担当体制が変わらない点は、必ず明記してください。
交渉を求められたら即答せず、数量や契約期間と引き換えにする形で検討します。
そのうえで値上げの説明が通らない案件が続くなら、誰に説明しているかを見直してみてください。
よくある質問
Q. 価格改定の連絡はいつ出せばよいですか
A. 適用の三か月前が目安です。
一か月前では、相手の社内決裁が間に合いません。
四月から改定するのであれば、遅くとも一月中には出してください。
Q. お知らせ文に必ず書く項目は何ですか
A. 適用日、改定の幅、理由、経過措置、相談窓口の五つです。
とくに発注済みの分をどう扱うかは問い合わせが集中するため、線引きを明記します。
品目が多い場合は、主要品だけ本文に載せ、全一覧は別紙にしてください。
Q. 値上げの理由はどこまで書くべきですか
A. 一つに絞り、具体的な数字を添えます。
原材料、物流、人件費のどれが上がったのかを示し、三行以内にまとめてください。
社会情勢の一般論だけでは、根拠として受け取られません。
Q. 据え置きを求められたらどうしますか
A. その場で答えず、社内で検討すると伝えます。
応じる場合は、数量や支払い条件、契約期間のいずれかと引き換えにしてください。
金額だけを下げると前例になり、他の取引先にも広がります。
この記事の監修者

平野 哲也(ひらの てつや)
株式会社オンリーストーリー 代表取締役
BtoB営業と決裁者マッチングの領域に12年間携わり、決裁者同士をつなぐマッチングサービスを運営。
累計26億円の資金調達を実施し、「ベストベンチャー100」にも選出されている。
「つよいい会社をつくる」を掲げ、経営の中でのしくじりや営業の現場で得た知見を発信中。

