株式会社AZism

和田 敏典

社員の自信と創意工夫を引き出す「仕組み」と「理念」

独自の視点や長所がハマり合う、長所伸展型組織経営へ
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お話を伺うのは、株式会社AZism(以下:同社)の代表取締役、和田 敏典氏(以下:和田氏)。実は、2016年にインタビューを行っており、今回が2度目の取材となる。

『14業種の立上げから学んだ経営の極意!
エンターテイメント、飲食、健康… 多業種経営成功の裏側』

この時伺った印象的なエピソードの数々とともに私たちの脳裏に残っていたのが、和田氏のこの言葉。

「エーゼットグループで働いている従業員のみんなが安心して働けるよう、この先も長く続く強い100年企業にしていきたい。」

今回は、その後の同社の成長と変化に迫った。

株式会社AZism(エーゼットイズム) 代表取締役 和田 敏典氏のONLYSTORY


【経歴】
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1965年3月24日生まれ
(株)AZism 代表取締役
エーゼットグループ 代表

過去15業種の事業の経営を経験し、現在はエンターテイメント・飲食・健康の3分野で
ゲーム販売、ラーメン店経営、フィットネスなど7業種の事業を経営している。
グループ理念:「お客様、従業員、家族の幸せのため、日々努力し、社会貢献を目指す、人間集団。」
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理念の浸透を最優先。1日休業してまで開催する社内行事とは?


これまで『従業員が安心して働ける100年企業』を目指してきた中で、会社の成長や一体感を最も感じ、感動した瞬間の一つがあったという。それは、昨年初めて開催した社内イベント『AZismアワード』でのことである。

「『AZismアワード』というのは、日頃は別々の業態、職場で働いている従業員が一堂に会する場で、会社の理念をまさに体現しているようなアイディアや取り組みを表彰し、その知恵と体験をシェアすることを目的としている。

そこで何にそこまで感動したかっていうと、日頃の取り組みやその背景、そこにある苦労を知るにつれて、みんなが日々どれだけ本気で仕事をしてくれてるかっていうことがわかったんだよね。社長の顔を知らないアルバイトの子までも、お客様のために何ができるかと考えてくれていた。

もちろん、みんなの本気度を疑っていたわけではないよ。ただ、僕の予想の範疇をゆうに超えて、日々AZismが大切にしていることを理解し、実行してくれていることがよくわかったんだ。その姿を見て涙が出たよ、本当に…。改めてこれまで積み上げてきたものの大きさや大切さも再確認でき、また一段と一人ひとりを仲間として大切に思えるようになった。

『AZismアワード』という場がなかったら、こんな気持ちにはなっていなかったかもしれないな。」

従業員規模が大きくなればなるほど、結束や一体感を生むためにはこうした機会が必要不可欠になるのだろう。

しかしながら、同社といえばトレカ運営をはじめとするエンタテイメント事業やラーメン・居酒屋を運営する飲食事業などのBtoCビジネスを主に展開する会社である。全業態の店舗を1日でも休ませるということは、決して簡単に下せるような決断ではないだろう。

それでも、また今年も和田氏は『AZismアワード』の開催を決めた。

「もちろん、簡単に決断できたわけではないよ。たった1日でもお店を閉めるということは、その1日は日頃から足を運んでくださっているお客様に価値をご提供できないということだからね。言ってしまえば、私たちの都合でそのような日を設けてしまうのは、足を運んでくださっているお客様を裏切るような行為ではないかと考えることもある。経営者視点でいえば、その日1日お店を開けていれば売り上げられるはずだった収益に目を瞑ることにもなる。

しかしね、それでも大切なんだと考えているんだ。こうした機会を通して、改めて従業員のみんながAZismの理念に触れ、学んでもらうことは。

なぜなら、それによって原点に立ち返り、自分たちが目指すべき方向が明確になると、迷いなく日々の業務やお客様と向き合うことができるだろう。そうすると、今よりもっと多くの、様々な業務改善のアイディアやお客様への提案が出てくると思うんだ。

そうしたら、みんなさらに楽しく働けるようになると思わないか?」

昨年の第1回開催の背景を振り返りながら、和田氏はこう続けた。

「アワード開催を検討し始めたきっかけは、数年前。それまではホールディングスとして展開していた各業態を株式会社AZismとして統合しようとなった時のこと。エンタテインメント、ラーメン、フィットネス…様々な業態を統合とした時に、それぞれに培ってきたものがあり、互いを異文化として見るような雰囲気があったんだ。

ただ、僕から見ればみんな一緒なんだよ。エンタテインメント事業、飲食事業、フィットネス事業だって、日々お客様に価値を提供し、感謝され、自分の存在意義を感じて…。手段が違うだけで、基づいている理念や目的は同じでしょ。

それを理解して欲しくて、各業態・各職場にある理念に沿ったアイディアや体験を共有できる場としてアワードの開催を決めた。」

各事業、各メンバーの発表を聞いているうちに、和田氏はさらなる確信を深めた。人には必ずその人ならではの視点や個性が備わっていて、それらを発揮できる環境があると人は成長し、新たな価値をお客様へ提供できる。そして、ひいてはその組織もまた成長することができる、と。

「一人ひとりの視点や長所がたくさんハマりあってできているような長所伸展型組織経営、企業を目指していて、その結果一人じゃできないことも100人で成し遂げられるような企業になれると思うんだ。

その実現のために、これからどんどん環境や仕組みを作り、整えていこうと思っている。」

長所伸展型組織経営の好例。たった1人の配置転換で収益約4倍に


ホールディングス経営時代を経て、複数の業態が合体し、現在の姿となった同社。その統合の流れの中から掲げ始めたキーワードが『長所伸展型組織経営』。その可能性を感じた場面があったという。

「これはある事業部の話なんだけど、たった1人の社員の異動・配置転換を主なきっかけに収益が約4倍以上に上がったんだ。

既存事業が急成長したわけでも収益性が高い事業を立ち上げたわけでもなく、それぞれがこれまで磨いてきた長所を活かせるポジションにハマったことで、その能力が最大限に発揮され、一気に状況が変わった。

その他、15業種目のサバゲー事業の立ち上げも私が最終決定権者としてokを出しただけで、発想、立案、組織作りは他の社員が行った。いい意味で私が関わることなく、こうしたことが続くといいね。」

このような動きを受け、各社員の視点や長所を活かすために取り組みたいことがあるとして和田氏が挙げたのは、プレゼンの機会を作ること。

「まず、これから実現したいと考えている1つがプレゼンの機会の定例化だね。

イメージとしては、役員陣が審査員的に座っている前でアイディアを持った社員が登場。役員の前でプレゼンテーションを行う。そして、その場で提案社員側と役員側とで意見を出し合って、評価され、採用されたものはどんどん挑戦していこうというもの。

普段の業務経験やお客様・職場のメンバーとの対話などから受けた発想に、社員が自身の長所や独自の視点を加え、より良い商品・サービス開発や店舗作り、職場環境作り、制度作りとあらゆるものの改善に繋がるような場にしていきたいね。

一方で、経営者としては今のAZismはまだまだ“3M(マーチャンダイジング・マーケティング・マネジメント)”の各領域を伸ばしていけるとも思ってる。僕が長所とするところのマーチャンダイジングもそうだし、その他の領域もまだまだ成長の余白を残していて、その素質を備えている人が社内にたくさんいると思ってるんだ。

僕が見えていない部分に対してみんなの視点や長所がハマっていったら、本当に素晴らしい組織になれると思う。」

こうしたプレゼンの機会、環境が活用されれば同社は企業としてさらなる成長を実現し、より多様なやりがいを創出できることだろう。

しかしながら、どうだろうか。和田氏といえば、これまで十数業種の立ち上げを経験してきた人物である。このような環境を作ったとしても、やはりもともと和田氏のような素質のあるように見える人のためのものになってしまうのではないだろうか。

そのような疑問を投げかけてみると、自身が苦しんだ時期を振り返ってこう答えてくれた。

「実はね、この会社を経営してきた中で、僕にもすごく苦しい時期があったんだ。

当時、僕よりもマーケティングに秀でた従業員がいて、すごく活躍してくれたのね。でも、その従業員に頼りすぎて、自分たちで稼いでいるという感覚が徐々に薄らいでいったんだ。この時期は本当にもやもやとして、なんとかして自分にとっての新たな意義や活躍できる道を見出さなければと焦ったね。

ただ、そこで活路となったのは、僕自身が年齢を重ねることで身につけた新たな視点。刺激的な秋葉原の街が好きで通っていた20代〜30代、30代後半になるとその興味が薄れ、40代になって周りの人が身体を痛めたり健康に気を使うような姿に目がいくようになったんだ。そこから着手したのが、現在展開する女性向けフィットネスクラブ『カーブス』。

年齢や経験を重ねるうちに徐々に視点も移り変わっていって、40代で周りの景色、自分の感覚と経験、そして消費者のニーズがカチッとハマった瞬間だったね。ここに至るまでは、本当に辛かったよ…。」

誰だって、初めから自信を持って生まれるわけじゃない


これまでの原点と転機について振り返っていただくと、今の和田氏しか知らない人には意外にも思えるエピソードがさらに明らかになった。

「正直にお話しすると、学生時代はあまり自分に自信がなかったんだ。しばらくそんな風に過ごしてきて、転機になったのは働き始めてからある女性の顧客から注文したTVが届かないと連絡を受けた時のことだった。配送には一度伺って不在票を投函してあったのだけど、その顧客からはその不在票もなかったというクレームで。

後から聞くと、女性はTVが届く時間に買い物に出ていたのだけど、その女性の夫がTVでプロ野球中継を見るのを楽しみにしていたのだというのね。自分が買い物に出ていたからTVを受け取れなかったなんて言えないと思った女性は、とっさになんとかしなければと思ったのだろう。

なんとかその日中に再配送とアンテナ設置の手配をしたら、その家の夫から本社に直接電話が来たんだ。『おたくの和田という社員、すごいな!とても世話になったよ!』と。それを受けて、『和田くんがこんな風にお客様を喜ばせていたのだよ』と上司が他の社員の前で褒めてくれて、それをきっかけに作られた社長賞をいただいた。

日頃お客様のために工夫を続けてきたことの中の1つがたまたまこういう形で取り上げられて、すごく自信がついた。これは初めての感覚で、『この仕事なら勝てるかも!』って思ったね。それから徐々に自分の長所にも気づいて磨いていけるようになっていったので、すごく大きな転機になったと思ってる。」

お客様や仕事と向き合う中で徐々に自身の長所を見出し、社長をはじめとする周りからの評価によってさらにのびのびと長所を活かして働くようになった和田氏。当時の和田氏と同じように、自信をつけていくにつれてその長所を花開かせた人物が今の同社にもいると言って、こう続けた。

「そういう人物は何人かいるのだけど、中でも営業本部長を務める手塚は本当に変わったよ。

僕が初めて彼に会ったのは、まだ彼が漫画喫茶店の店長だった頃でね。当時、その店舗は毎月赤字を出していた。僕はあまり覚えていないんだけど、僕は彼に『赤字というのは、その店が街から必要とされていないという証だよ』と言ったのだと。ひどいよね(苦笑)

後から聞くと、彼は泣くほどショックを受けたと言っていた。しかし、そこから彼は奮起して取り組み、お店は黒字へ。」

これまでに2つの事業部を成功へ導き、現在は営業本部長を務める傍ら、同社における15個目の事業を率いる手塚氏。現在に至るまで付き添ってきた和田氏だからこそ知る、手塚氏のさらなる意外な姿も明かしてくれた。

「成果を出していたので給料を上げようと僕から声をかけ、金額を伝えた時、手塚はそこまで上げて欲しくないと言ったんだ。

どうしてだと思う?

当時その訳を聞いた時には、『そんなに上げられると、それ相応の成果を出さないといけないので相当頑張らないといけないじゃないですか。評価にふさわしい活躍が出来なかったら後から下げられるというのも嫌ですし…。』と言っていたかな。

そこからコツコツと成果と成功体験を積んでいって、今や役員として株式会社AZismに欠かせない存在にまでなってくれた。彼の活躍に感謝をして、昇級に合わせて給与を上げたり贈呈品を贈ったりしていったら、彼の意識や振る舞いも徐々に変わっていったね。」

手塚氏もまた、これまでの和田氏と同じように、上司である和田氏や周りからの評価を力に変え、自信をつけ、徐々にその長所を磨いていった。その後、手塚氏は同社全体、すべての従業員を支える等級・給与制度の整備に尽力することに。

全従業員を支える等級・給与制度構築の裏側


同社には独自の等級制度があり、複数業態が統合された同社の全体にその制度が整備され、給与体系と紐付いている。今でこそ当たり前にあり、働くすべての従業員を支えるこの制度を作り上げた功労者の1人が手塚氏だ。

「株式会社AZismには、会社全体にまたがって整えられた等級制度がある。活躍に応じて1等級、2等級…と昇格していけるようになっていて、昇級していくにつれてプロセス重視から結果重視の評価基準へと徐々に推移していくように整備されている。給与体系もそれぞれの業態で整備されているんだ。

こうした体制にしておくと、本人の希望の異動と会社事情での異動とでは都度状況や待遇は変わるけれど、事業部異動の必要性が出た時にもスムーズに対応できるでしょ。

その時の会社の状況にもよるけれど、ゲーム屋で働いていた人が決心をしてラーメン屋に挑戦したいとなれば背中を押してあげられるし、会社都合での異動が発生した際にも自分の置かれた状況や給与体型を理解しやすく、納得感を持って働いてもらいやすいと思うんだ。もちろん、本人希望で事業部を移った後にうまくいかないからといってすぐに元の職場に戻してあげるというようなことはできないが、自分の長所を発揮できる環境としてこうした制度は大切だと思っている。


もともと土台はあったのだけど、各業態で査定基準がバラバラだった状態から手塚が中心となって整えてきれくれた。」

この制度の整備には、着実に成功体験を積み重ねることで自信をつけ、昇進を実現してきた手塚氏ならではの視点と経験が活かされていると語る和田氏。

「この制度があることで、この大きなグループの中での自分の現在地を誰でも把握することができ、昇級していきたい人にとっては次にどこを目指せばいいのかわかりやすいと思うんだ。

また、昇級していくためには各評価項目をクリアしていかなくてはならないため、自分が通ってきた道(等級)をいつでも振り返り、成功体験を育てることができるものにもなっているでしょう。周りから見ても、その人の頑張りが昇級につながっていることが一目瞭然だから、公平だしね。

ここまでくるのに3年はかかっていると思いますが、まだまだよりよくすることができる。賞与と紐付けたり評価項目をより公平、明確にしていったりしながら、キャリアアップの段取りや流れを明確に示していきたい。」

一見すると、人ぞれぞれの評価や等級がガラス張りに見え、シビアな施策だと見る人もいるかもしれない。しかし、和田氏や手塚氏から伝わる想いや狙いはそこではない。

細かく等級を分け、それぞれに紐づく給与体系を明らかにし、キャリアステップを用意する。こうすることで、一人ひとりがそのときに思う価値観でキャリアを自由選択することができ、より納得感を持って働くことができるようになるのだ。

「40歳で1等級だっていい。30歳で3等級を目指してもいい。そこにその人なりの『楽しさ』『幸せ』があるのならそれでいい、と僕は思ってるんだ。結婚や出産などのライフイベントを迎えてその定義が変わった時には、いつでも、誰でも上を目指せるステップもあるからね。」

すべては、『楽しさ』を追及するためにある


創業から30年以上が経ち、飲食業や小売業を中心に展開する店舗は50を超え、そこで働く従業員数も600名に迫る勢いの同社。規模拡大と成長を続け、100年続く企業を目指していく中で大切にしていることは何なのか。

改めて伺うと、その答えは非常にシンプルだった。

「一言で言うと、“楽しさ”。

一日の多くの時間を占めている仕事の時間が楽しくなければ、人生が楽しくないでしょ。……なんて言うと、もう手垢のついた言葉だなんて思われるかもしれない。でも、僕は本気で、確信を持ってそう思ってる。だから、みんなには仕事を楽しんで欲しいし、人生を謳歌して欲しいんだよね。」

期待と決意の宿った表情で、最後にこう続けた。

「会社として時代やニーズの変化、自分たちの変化に合わせて適応しながら成長していく中で、僕たちも数値目標というのを作るよ。ただ、いつも思っている。この数字ありきで仕事をするのはやめよう、と。加えて、仕組みを追求しすぎて理念や本来の在り方を忘れてしまうようなことにもなりたくない。

いつでも、どこでも、僕たちは『楽しさ追及企業』でありたいんです。だからと言って、給料の話をするなとか収益の話が二の次だということではなく、それらは楽しさを追及する中での話だということを忘れずにいて欲しい。

一人ひとりが自分なりの『楽しさ』の定義や楽しみ方を見つけてもらえたら、これまでになかったような提案や意見がたくさん生まれていって、それらが集まった先に新しいAZismの姿があり、そこに集まってくださるお客様がきっといる。


そんなことを思い描くと、僕もまだまだ楽しみ足りないなあと思うんだ。」



取材=川角・山崎
編集・執筆=山崎

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